第28話

「・・・・・・・騙された」


結局、美羽さんと伊織さん、それとオウカさんは実際にはお風呂に入ってなかったのだ。なんでお風呂入ってないんですかぁっ!? と言ったんだけど、 まぁまぁまぁ。 と言われてそのまま一緒に温泉入る事になってしまった。


「ホント・・・・・・なんで流されやすいんだろう?」


温泉に浸かり、空を見上げながら言う。


「それは、エルライナさんが良い人だからですよ」


「それはどうなんだろうね? でさ、なんでそんなにニコニコしているの?」


そう、隣にいる美羽さん含めた全員が不自然な笑みを浮かべていて、 温泉が気持ちいから。 と言う理由でそんな顔をしてるんじゃないのが一目で分かる。


「エルライナさんと一緒に入るのが楽しいからですよ」


ウソを吐け。悪行を働いている代官みたいな顔をしているぞ。


「しかしまぁ、美羽さん達が紐パンを履いているとは思いもしませんでしたよ」


俺がそう言った瞬間、美羽さんは顔を真っ赤にさせて温泉のお湯を掛けて来た。


「わ、私だって好きで、ああいう格好をしているんじゃないんです!」


「ん・・・・・・美羽と同じ」


二人は物申したいと言わんばかりに睨んでくる。


「そうねぇ。この世界にはゴムっていう素材の製造が確立されてないから、エルライナさんが履いている様な下着がないの」


「そなんですか。でも安心してください。レンカさんが私が履いているような下着に興味を持ったみたいです」


「えっ!? レンカ様が?」


「はい。実際に買った下着を渡しましたから、近いうちに作ってくれると思いますよ」


あくまでも予想の範ちゅうでの話だけどね。


「そうなのね。レンカには頑張って貰わないとね。こっちの仕事も・・・・・・」


おや? なんか不吉な言葉が聞こえた気がしたぞ。恐そうだから関わらないようにしておこうか。


「ねぇエルライナさん」


「ん、なんですかオウカさん?」


「その、下着が欲しいから買って貰えるかしら? もちろんお金は払うから」


「ああ〜・・・・・・」


たかが下着で懇願されるとは思いもしなかった。


「それはちょっと無理そうですね」


「え、なにか理由があるの?」


「まぁそうですね。下着とか洋服、つまり着衣全般の物は、自動的にサイズが私に合うようになっているんですよ。

だから、オウカさんに合うサイズの下着を購入する事は、すみませんが出来ないんですよ」


前にリマちゃんに可愛いお洋服を着させてあげようと思って服を購入してみたら、俺にピッタリなサイズで可愛い洋服が出てきたのでビックリした。

サイズ変更出来る筈だよな? と思いながら、あれやこれやとやってみて無理だと判明したので諦めた。


「そう、それは残念ね」


残念そうな顔をするオウカさんと美羽さん。ん? 美羽さんも残念そうな顔をするって事は、彼女も俺に頼むつもりだったのか?。


「そろそろ上がりますね」


「待って」


上がろうとしたら、伊織さんに腕を掴まれた。


「・・・・・・私も上がる」


「ああそう」


「なにか・・・・・・隠してない?」


ギクッ!?


「なっ、なにも隠してないよ!」


クソッ! やっぱこの子感が鋭いのか。


「もしかして・・・・・・一人でフルーツ牛乳飲んで・・・・・・スカッとしようとしてた?」


ギクギクッ!?


「ど、どうしてそう思うの?」


「ん・・・・・・買った下着をレンカさんに渡した・・・・・・つまり、他にも買える物がある。例えば・・・・・・飲み物とか」


ギクギクギクッ!!?


確信を突かれてしまったせいでポーカーフェイスが崩れてしまい、動揺した顔になってしまった。今度は美羽さんが俺の目の前に出て来た。


「えっ、ウソォッ!? エルライナさんヒドい! 一人で楽しむなんて!」


「あ、いやぁ〜、そのぉ〜・・・・・・ねぇ」


なんだろう、なんか罪悪感が出てきたぞ。正直に言った方が身の為かな?


「別に気にしなくて良いわよ。牛乳ぐらいはあるから」


「あ、そうなんですか。でしたらストレージから飲み物を取り出さなくても良さそうですね」


「フフッ、策に嵌ったね」


策に嵌った?


「ここに牛乳はあるけど、事前に頼まないと出してくれなのよ。それに今飲み物って言ったわよね? 牛乳の他にも飲み物を出せるのかしら?」


しまったぁぁぁああああああっ!? 罠だったのかぁっ!!?


「全部正直に言って頂戴ね」


オウカさんはそう言うと、背中から俺に抱きついてくる。そう、絶対に逃がさないと言わんばかりに。


「あ、あの・・・・・・そのぉ、ねぇ」


腕を掴んでいる伊織ちゃん。目の前で疑いの目を向けてくる美羽さん。そしてニコニコしながら抱きついているオウカさん。もう逃げられる術がない。


「はい、みなさんの分もご用意します」


「「「ワーイッ!」」」


結局こうなってしまったか。


諦めたような顔させながら、みんなと一緒に更衣室へ向かい、身体についた汗を拭き取る。


「それで、みなさんはなにが飲みたいんですか?」


「ん・・・・・・フルーツ牛乳」


「私はコーヒー牛乳」


「飲み物じゃなく、バニラアイス出せるかしら?」


えっと、伊織ちゃんがフルーツ牛乳で美羽がコーヒー牛乳。オウカさんは飲み物じゃなくバニラアイスね。てかオウカさんはチョコはダメなのに、アイスは良いんだ。もしかして変食かな?


三人の要望通り、ストアからフルーツ牛乳とコーヒー牛乳の瓶とバニラアイスを購入後に三人渡す。ちなみに、俺が飲みたかったコーラはストレージにストックしてあるので、そこから一本取り出す。後、アイスを食べるオウカさん用にスプーン一つ。


「はいどうぞ」


みんなに渡すと、それぞれ受け取った物の封を開けて堪能する。


「クゥ〜〜〜! 久しぶりにバニラアイスを食べられたわぁ〜!」


「お風呂上がりにこの一杯! 堪らないわぁ!」


「ん・・・・・・美味しい」


喜んで貰えてなによりだ。チクショウッ!?


そう思いながら、コーラを口をつけて喉を潤した。


「そういえば、四ヵ国協議会は明後日でしたよね?」


「ええ、そうよ。どうかしたの?」


「皇帝陛下が明日四ヵ国協議会があるって言ってたから、私達が勘違いしているのかなぁ。って思ったので聞きました」


「え? たしか予定では、明後日にやるはずよ」


どうやら皇帝陛下が、四ヵ国協議会の開催日を明日と勘違いしているようだ。


「戻る時に伝えれば大丈夫だと思いますよ」


美羽さん達は勇者だから、怪しまれずにすぐに信じてくれるだろう。


「その必要はありませんよ」


その言葉と共に、先ほど部屋を案内してくれた女性が入って来た。


「それはどういう事なの?」


「オウカ様が戻られている最中に、帝国を含めた他の国の方々が四ヵ国協議会の日程を早めたいと言う申し出があったので、予定を一日早める運びになりました」


「あら、そうなの。まぁでも準備の方はもう終わっていたから、一日ぐらい早まっても問題はないでしょ?」


「はい、準備の方は万全です」


なんと、予定が一日ぐらい早まっても問題ないだと! もしや、ブラック企業に勤めていた経験、いや培われた経験が為せるワザなのか?


「オウカ様のおかげです。ありがとうございます」


「まぁ私自身こうなる事は予想外だったけど、早い段階で仕事を済ませておいて良かったわね」


「そうですね。ところでオウカ様がお持ちになっていらっしゃる食べ物は、なんですか?」


「アイスクリームよ。この辺じゃ出回らないから、知らないもの当たり前か。一口食べてみる?」


オウカさんはそう言うとスプーンで掬い上げて女性に差し出すが、差し出された女性の方は、なぜか一歩下がった。


「お、恐れ多いですオウカ様!」


「いいのいいの、一口ぐらい食べたって文句言わないわ」


「その、あのぉ、気持ちだけで充分です」


「相変わらず頑固ねぇ。じゃあ命令よ。スプーンに乗っかったアイスを食べなさい」


「オウカ様、それは卑怯ですよ」


そう言いつつもスプーンに乗っかったアイスクリームを、口の中へと入れていく。


「ンッ!? 冷たくておいしぃ〜」


とても幸せそうな顔を浮かべながら、口の中に入れたアイスクリームを味わう。


「ね、美味しかったでしょ?」


「はい、とてもおいしかったです。もっとほし、ハッ!?」


彼女はなにか気づいた様子を見せると、コホンッと咳払いしてからオウカさんを見る。


「み、皆さまのお着替えをここに置いておきます。それでは失礼します!」


それだけ言い残すと、彼女はそそくさと出て行ってしまう。


「どうしよう。私は着替えがあるから、いらなかったのに」


オウカさんが口に手を当てて笑い堪えている中、 用意して貰ったところ悪いけど、この服を返しておこう。 と思うエルライナだった。

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