第25話

昨日三人が宿の中で、夜遅くまでガチャガチャワイワイ遊んでいてうるさくて眠れなかった。なので、ピンボールを取り上げて、 もう夜遅いんですから、寝てください! シュンとした顔で寝床に着いてくれた。

てか俺はアンタらのオカンんじゃないんだから、自己管理ぐらいしっかりしてくれ!

それから今日の朝から、 あれやりたいんだけど、出してくれる? と言われたけど、 魔国の都に着いてから渡します。 と言って出さなかった。そして、ピンボールを出して欲しそうな目で、ジィ〜っとオウカさんに見つめられているのを耐え続けてお昼過ぎ。


「やっと着いたぁ〜・・・・・・」


そう、俺が言葉を発した通り、やっと魔国の都に着いたのだ。


「ほぇ〜・・・・・・こっちにも馬車があるんだぁ〜。あ! あれは人力車! 乗ってみたいなぁ〜」


「フフフッ、喜んで貰えてなりよりだわぁ〜」


普通に喋っているのだけれども、身体から発している威圧感が、 もう着いたんだから、ピンボールを出して。 と語っている気がする。


このまま機嫌を損ねたままだと、色んな意味でよろしくなさそうなので、渋々といった感じで、ストレージからピンボールを取り出してから、オウカさんに はい。 と言って渡してあげる。


「ありがとうエルライナさん」


オウカさんは俺に取られるのが心配なのか、大事そうに持っていた。いや、昨日の夜みたく取らんよ。


そんなやり取りの中、馬車は並んでいる列の横をすり抜けていく。


「あの、列に並ばなくてもいいんですか?」


「いいのいいの、私は大使だから先に進める権利があるの。検問はスルー出来ないけど」


「えぇ〜・・・・・・本当なのですか?」


「本当よ。ウチのミハルみたく嘘を言わないから、安心してちょうだい」


「あ、はい」


いやいや、ミハルちゃんはツンデレだけど、良い子ですよ・・・・・・多分。


口では返事をしているが、心の中ではそう思ってしまう。そんなやり取りをしていると、馬車が止まる。


「お帰りなさいませ、トウガ様、ユウゼン様!」


「うむ、なにか変わった事はあったか?」


「なにも変わった事はありはしません!」


「そうか。それは安心したぞ。それよりも、早く検問を済ませようぞ」


「ハッ! では、お二方のカードを破釈させて頂きます」


うわ、二人は本当に偉い立場いたんだ。


そう思っていると馬車のドアが開き、兵士が馬車の外で恭しく頭を下げていた。


「オウカ様、失礼します。ご無礼を承知でお頼み申し上げますが、オウカ様のカードを拝見させて頂けませんか」


「許可します」


オウカさんは左手の袖に右手を突っ込み、中から自分の市民カードを取り出して兵士に渡す。


「お預かりいたします。あ、そちらの方もカードを頂けませんか?」


あれ、俺とオウカさんの対応に差があり過ぎない?


「あ、はい」


まぁ罵倒されるよりはマシか。 と思いながら、ストレージから総合ギルドカードを取り出して、兵士に渡す。


「お預かりしますね」


俺に向かってそう言うと、馬車を降りて行く。


「ここを通る時に、ああ言わないといけないから。ホント、疲れるわぁ〜・・・・・・」


「良いじゃないですか。変にうるさく言われませんし」


「側からみればそうかもしれないけど、言葉づかいを考えて話さないといけないから、結構つらいのよ」


へぇ〜そうなんだ。そんな気を使うのなら、この国のお偉いさんと結婚しないようにだけはしよう。


「お持ちしてまいりました。オウカ様! あ! こちら、ギルドカードをご返却しますね」


取ってつけたかのように言うなよ!


睨みながら受け取るが、兵士さんは全く気にしていないまま、オウカさんに頭を下げる。解せぬぞ!


「ご苦労でした。下がってよろしいです」


「ハハッ!」


そう返事をすると、どこかへと行ってしまう。


「さて、検問も無事に済んだ事だし、行きましょうか」


「うむ! ハッ!」


馬車が走り出すが、オウカさんが俺に向かってドヤ顔をしている気がするのは、俺の気のせいだろうか?


「あ、そうそう。このままお城へ着いて行って貰うけど、良いかしら?」


なぬ? お城に行けるだと。見学のチャンス、行ってみたい!


「私は構いませんよ。それに、着物が必要でしたら持っているんで大丈夫です」


「え! 和服を持っているの?」


「はい、前にレンカさんから頂いた着物があります。ただ、着付けが出来ないので・・・・・・」


「ちょっと、ちょっと待って!」


いきなり両肩を掴むから、ビックリした。


「今、レンカから貰ったって言わなかったかしら?」


「はい、今は私のお家でお留守番をしているんですが・・・・・・任せても良かったのかなぁ〜?」


帰ってきたら、散らかり放題のお家になってないか不安。思い出して不安になるんだったら、あの時にカギを渡すんじゃなかったのかもしれない。


「アナタの家ってことは、リードガルムにいるのね。ハァ〜・・・・・・やっと見つかったわぁ〜」


やっと見つかった?


「どういう事ですか、レンカさんを探していたんですか?」


「うぅ〜〜〜んとねぇ〜。どこから話せば・・・・・・この国で服を作っていたのは、知ってるかしら?」


「ええ、この国の人間国宝なんですよね?」


家でいやらしい顔つきで服を仕立てしていたのを思い出すと、 この人は本当に人間国宝なの? と言いたくなる。


「えっと・・・・・・ちゃんとした人間国宝よ。ただ、思考回路がおかしいけどね」


「あ、そうんですかぁ〜」


マジもんの人間国宝だったよ、あの人。


「それでね。もう8年も前の事なんだけど、レンカさんが急に 私に必要なのは、新しいインスピレーションよ! 旅に出るわぁぁぁああああああ!!? とか言ってどこかに行ってしまったのよ。

将軍も上層部も、彼女が急にいなくなったから右往左往していたわ」


「レンカさんって、服の仕立てだけが仕事なんですよね? 上層部が右往左往する事態って、服の仕立て以外になにかしていたんですか?」


「あのねエルライナさん、服の仕立ては仕立てでも、将軍の妻と姫様の専属で服を仕立てしていたのよ」


「えぇ〜〜〜・・・・・・」


とても良い仕事に就いていたのに、辞めちゃうのは勿体なくない? でも、もしかしたらだけど・・・・・・スランプ状態だった可能性もあり得るかな。


「でもまぁ、居場所が分かれば良いわ。後はこっちの問題だから気にしないでね」


「あ、はい。分かりました」


レンカさんの事は魔国の問題だから、踏み入れないようにしよう。


「縄で縛り上げてから、連れて帰りましょうか。暴れられると困るし、それとも眠らせてからぁ・・・・・・」


物騒な事になりそうだから、本当に踏み入れないようにしよう!


「お二人共、お城が見えて来ましたよ!」


そんなやり取りをしていたら目的地に着いたみたいなので、窓から身を乗り出す。


「おお〜〜〜〜〜〜!!」


日本風のお城がそびえ立っていので、感極まってしまい思わず声が出てしまった。


天守閣があるぅ〜〜〜! お堀がある! しかも、城門がある! 中どうなっているんだろう。早く入ってみたい!


「フフフッ」


オウカさんに笑われてしまったので、大人しく馬車の中に戻る。


「し、しかしあれですね。私は魔国が馬車を所有しているとは、思ってもみませんでした」


「え、なんで?」


「だって江戸時代風の国なのに、馬車があるのは、おかしいなぁ〜。なんて思ってしまいまして」


たしか、江戸幕府では馬車や大八車の製造を禁止していたんだよな。


「ここは地球じゃないわ。別の世界なら、異なる歴史を築き上げていくでしょ?」


「そうですね、全くその通りですね」


見た目が似ていても、違う歴史を歩むのは当たり前の事だよね。


「オウカ様がお帰りになったぞ! 門を開けよ!」


その声が聞こえるとギギギギギ〜〜〜っと重い音が馬車の中まで聞こえて来て、門が開いたのが分かる。その開いた門を悠然した態度でトウガさん達は通って行く。まさしくVIP待遇である。

そしてしばらく走り中庭っぽいところで馬車が止まってから数秒後、ドアが開くと兵士らしき人達が膝を着いてお辞儀をしていて、その中の先頭にいる人が頭を上げて話し掛けて来た。


「お帰りをお待ちしておりました、オウカ様!」


「お出迎えご苦労です」


「その、そちらのお方は、その白い髪を持つお方はもしやウワサの・・・・・・」


「ええ、彼女が魔族を撃退したエルライナ本人です」


「なんと!? そのお方が!」


先頭にいる兵士さんが驚いた顔をしてこっちを見てくるのは分かるが、後ろにいる兵士さん達がチラチラこっちを見てくるので、 指摘した方が良いのか? と思ってしまう。


「長旅の疲れもあるのでな、我々は行かせて貰うぞ」


「はっ!? ハハッ! 私めが案内致します。どうぞ、ついて来てくださいませ」


「うむ、では行こうではないか、エルライナ」


「あ、はい」


そう返事をするとオウカさんの隣を歩くようにして、ついて行くのであった。

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