第22話

「一体、どういう事?」


三国志に出てくる英雄と幕末に活躍した新撰組の一人が、今目の前にいるなんて。


「信じられない気持ちなのは分かるけれども、彼らが言っている事は事実よ。

薙刀を持っているのが、前世で関羽と呼ばれてた コクシさんよ」


「改めて名乗ろう。我の名は、トウガ・コクシ この国風に名乗れば コクシ・トウガ じゃな。魔国の徒大将かちだいしょうをしているんじゃ」


徒大将って、どの地位なんだ?


「ゴメンなさい、エルライナさんには武士の階級は分からないわよね。

彼の階級はね、リードガルムの階級に照らし合わせると、侯爵ぐらいの地位があるの」


なぬっ!? 結構偉い人じゃん!


「どうして、オウカさんの護衛をしているんですか? 部下とかに任せておけばいいと思うのですが」


「それはな、女神シキオリ様に会いに行った方がいと言われたのでな、我自らが護衛する事にした」


「そう、だったんですか?」


恐らくシキオリ様は、同じ転生者の俺に合わせておきたかったんだろう。


「で、彼が前世では新選組の 沖田 総司 の ユウゼン。私の護衛をしているわ」


「彼女に言われてしまいましたが、前世では新選組をやっていました、 ノムラ・ユウゼン です。よろしくお願いします。

名前の方は魔国風で名乗らせて貰いました」


ノムラが苗字でユウゼンが名前。日本人なら言われなくても察しがつくね。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


緊張が隠せない様子で頭を下げる。


「さて、ちゃんとした挨拶も済んだ事ですから、あのウルフの死体を回収しに行きましょう」


「あ、はい」


オウカさんに促される様に馬車へ乗り込む。その中で落ち着きを取り戻したので、オウカさんに聞いてみる。


「あの、オウカさん。なんで、ムグッ!?」


なんで、歴史上の人物がここにいるんですか? と言おうとしたところを、オウカさんに口を塞がれた。そして耳元で話し掛けて来た。


「彼らもね、シキオリ様の使者なのは理解しているわよね?」


コクコクと首を縦に振ると、口から手を離してくれた。


「トウガは、シキオリ様から軍の指揮と指導を任されているのよ」


「軍の指揮と指導ですか? それなら誰でも出来そうな気がします」


「それがそうだったら、良かったんだけど」


ん? オウカさんがなぜか呆れた顔をしている。


「トウガが軍に着くまではヒドいものだったのよ。私が見ても分かるぐらいに」


「そ、そうですか?」


「そうよ。以前の軍は、力がある者が上に立つ資格がある。の世界だったから、馬鹿でも偉い役職に就けたのよ」


力が全ての実力主義構成の軍か。


「そんな構成だったから、戦争が起きれば馬鹿正直に正面から突っ込んで、負けて帰ってくるのパターン化していたの」


「人はその行動をゴリ押と呼んでますよ」


「そうね。アナタの言う通り、ゴリ押しで勝とうとしていたわ」


ゴリ押しが通用するのは、数にモノを言わせてウラーと特攻していたのって、ソ連とゲームしかないでしょ。馬鹿なの?


「トウガが就任してからは、ゴリ押しの戦いをしなくなったわ。さすが英雄ね」


オウカさんがそう言うと、外から ゴホンッ! とわざとらしい咳きが聞こえて来た。


「で、もう一人のユウゼンは、私の護衛をする為に転生したの」


「オウカさんの護衛、どういう事ですか?」


「今回は大使として仕事をしているのだけれども、本来の私は魔国で事務の責任者をしているの。

それでね。予算とかのやりくりをしていると、色んなところから 予算をもっと出せ!とか、 なんで予算を減らしたんだ! とか文句言ってくる輩がいるのよ」


まぁそうだろうね。減らされたら文句言うよね。国会議員がそうだもん。


「場合によっては、私を暗殺してから自分がその役職に就こうとしている輩がいるのよ。自分達の都合のいいように予算編成する為にね」


なにそれ、命の危機と国家の危機の二つ意味で恐い。


「そしてさらに、なんとユウゼンは私の旦那様です!」


「ええっ!?」


オウカさんが沖田 総司さんの妻だってぇ!?


「あの、そのぉ・・・・・・なんて言ったら良いのか分からないのですが、おめでとうございます」


「ありがとう、祝ってくれて。でももう結婚してから十七年以上経っているわ」


「そ、そうなんですか」


夫婦関係が十七年以上も続いてるって事は、夫婦円満って証。でも、個人的に結婚した理由が気になる。


「つかぬ事お聞きしますが、結婚した理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「結婚理由? まぁあまり深い理由はないわ。強いて言えば成り行きで結婚したって感じね」


「あ、そうなんですか」


ドラマチックな展開があると思っていたけんれども、違っていた。


「それに、子供もいるのよ」


「へぇ〜、子供ですか。男の子ですか、それとも女の子ですか?」


「女の子よ。今は師匠の元で冒険科として活動しているわ」


オウカさんの子供は野心家っぽいな。


「でもあの子師匠を困らせてないかしら。あの子はお転婆で、嫌な事があればなにかと突っかかるところがあるから、正直言って心配だわぁ〜」


・・・・・・ん?


「あの、その子って、どんな姿をしていますか?」


「私と同じ魔族で」


「はい」


「えっとぉ〜・・・・・私が最後に見た姿は、背が低くて」


「はい」


「髪の毛を、ツインテールにしているわ。あの子が大好きな髪型だから」


うん、オウカさんの言った特徴が、俺の中でとある人物と姿が一致した。


「あ、そうそう! 名前はね、ミハルって言うの」


はい、確定っ!! 同一人物だっ!!


「ミハルちゃんなら、王都にいましたよ」


「えっ、うそぉっ!?」


信じられないと言わんばかりに、目を見開いている。


「あの、本人に聞いてなかったんですか?」


「え、毎週送って来ている手紙には、もう王都を出たからいないって書いてあったわ」


ああ、これはもう・・・・・・あれしかないよね。


「母親に会いたくないから、ウソを書いたんだと思います」


「そう、なの?」


「そうです。現に私は昨日ミハルちゃんに会ってましたから」


伏せているが、メイド喫茶でね。


「ウフ、ウフフフフッ!! 」


笑顔で笑っているけど、握り絞めた拳が震えている。誰がどう見ても、相当お怒りなのが一目瞭然で恐い。


「今度お家に帰って来たら、ユウゼンと一緒に説きょ、じゃなくて、話し合わないといけないわねぇ」


「そ、そうですか。ミハルちゃんに会ったら、話しておきましょうか?」


お母さんがカンカンに怒っていたって。


「そうね、一応こっちでも手紙を出しておくけど、お願いするわ」


もうそこからは家族内の問題だから、踏み入れない様にしよう。後、ミハルちゃんゴメンね。でもメイド喫茶で、俺を除け者にして得した分の仕返しだよ。


「もうすぐ着きますよ。どうします、皮だけ剥いで残りは処分しますか?」


あ、もう着くんだ。早いな。


「倒したモンスターは私のストレージ、じゃなくて、アイテムボックスの中へ入れちゃいますね」


「入れるって、容量は大丈夫なのかい?」


「あの数なら大丈夫です」


ぶっちゃけ数計算になるから、大きさとか重さとか関係がないんだよね。


「そうかい。入り切りそうになかったら、我々に頼って良いですよ」


「あ、はい。分かりましいた」


「着いたぞ。モンスターを回収をしてくれ」


トウガさんがそう言うので、俺は馬車から降りて倒したウルフ次々とストレージの中へ入れていく。

その様子を見ていた三人は全部回収し終えた姿を見て、 オオー! と感心したような声を出していた。


「これで良し。解体の方は総合ギルドに任せましょう」


グロテスクな姿を見るのが嫌だから、やる必要がない限り、いつも総合ギルドに持って行って解体をやって貰っていた。

それと、解体にも手数料が掛かるから自分でやった方が得なんだが、解体に失敗すると買い取ってくれないからランクの高いモンスターは解体スキルのない限り、自分達でやらないそうだ。


「馬車に乗ったので行きましょうか」


「ああ、そうだな。出発!」


ガクンッと揺れた後に馬車が走り出したので、乗る回数が少ないせいか、この走り出す時の揺れは馴れないなぁ〜。


「やっぱりバイクや車って、優秀な乗り物なんですね。バイクの方を出して乗ろうかなぁ〜」


暇つぶしに運転をしていると、 こういう晴れた日にドライブして気分転換したい。 と思ってしまうのは、走り屋として目覚めているせいなのだろうか?


「えっ!? エルライナさんもしかして、車とかバイクを出せるの?」


「はい、出せますよ。軍用になっちゃいますけど」


「そうなの、なら私の専属ドライバーになって!」


目を輝かせながら手を取る姿を見て、若干引いた。


「馬車揺れるし、車輪壊れやすいし、馬のペースを考えながら進まなきゃいけないから、正直言ってめんどくさいのよっ!」


ああ、この人はそう思いながら馬車に乗っていたんだ。苦労しているんだね。じゃなくて!


「お断りします」


「なんでよ! お給料高めで雇ってあげるからぁっ!!」


「嫌です」


「そんなぁ、普通の給料より、二割良く雇ってあげるからぁっ!!」


たったの二割っ!?


「無理です」


「じゃあ、三割で手を打って」


一割しか上がってないじゃんっ!! でも大きい!


「出来ません」


「じゃあじゃあ、ええっとぉ〜・・・・・・ボーナスに色をつけてあげるから!」


「無理なものは無理なんです!」


その後、このやり取りが今日の宿泊予定地に着くまで、続いていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る