第19話
「・・・・・・でだ、お前に任せたい仕事がある」
おい、ファミリーネームの問題を無視して話し始めたぞ、この人は。
「もう聞いていると思うが、魔国の大使であるオウカを護衛して貰う。もちろんバルデック会長の命令だから、お前に拒否権はない」
「拒否もなにも最初からやるつもりでしたから、そう言わなくても大丈夫ですよ」
「そうか、明日の朝六時に東門を出て、左側に脇に待ち合わせだ。遅れたらダメだぞ。いいな」
俺が遅れて来たり、ましてやサボったりすると思っているのか、この人は。それよりも。
「分かりました。でも、このファミリーネームを直して・・・・・・」
「何度も言うようだが、私の権限では直す事が出来ない。抗議ならバルデック会長に言ってくれ」
「そうですかぁ〜・・・・・・」
こうなったらもう、バルデック公爵様達に抗議するしかないのか。護衛任務が終わったら、すぐに抗議しに行こう。
「あ、それと。昨日受けたウルフとゴブリンの討伐任務の報告を、したいんですが良いですか?」
「ハァ〜・・・・・・本来なら受付嬢の仕事なのだが。仕方ない、乗りかかった船だ。私がやろう」
「お母さん、優しいね」
「仕事でやっているだけだから、優しいもヒドいもない」
ラミュールさんはそう言うと、差し出していた総合ギルドカードを取ってカウンターへ向かう。
「・・・・・・うむ。ちゃんと討伐しているな。後は討伐部位をここに出してくれ」
「はい」
そう返事をして、討伐証であるウルフの牙五個とゴブリンの両耳をカウンターに置く。
「ん、数分は揃っているから問題なし。ウルフの死体の方は、いつも通り解体室へ持っててくれ」
「分かりました」
ラミュールは俺がちゃんと任務をこなせたのを確認すると、レジっぽい物からお金を取り出すが、渡す途中で あっ!? となにかを思い出したように言う。
「そうだ。他にもお前に指名依頼が来ていたな」
「えっ!? 指名依頼?」
それって、規律違反じゃないんですか? と言おうとしたら、後ろから変な男の人が出て来たのだ! しかも見事なまでのつるっ禿げ!
「ギルド長! そいつは納得出来ねぇぞっ!!」
「なんだ藪から棒に、私はお前とは話していないのだが?」
突然の乱入にラミュールさんは怒っているのか、声のトーンが少し低い。
「見事なツルッパゲねぇ〜。ベイガーも最近薄毛に悩んでいるみたいだから、歳をとったらこうなるのかしら?」
そんな事を言ったらダメだよミュリーナさん。でも、ベイガーさん薄毛に悩んでるのかぁ〜。育毛剤を渡してみようかな? さっきのシャンプーや洗顔が普通なのか、たしかめられるから。
「たしかに魔国から来た大使を、コイツに護衛させるのは分かります! ですが、他に関してならコイツじゃなくても良いでしょうっ!!」
俺も同意見だけれども、初対面の人に対してコイツ呼ばわりするのは、どうかと思うよ。っていうか、この人誰なんだ?
「しかしなぁ〜・・・・・・Cランクに成り立てのお前でも、無理な依頼かもしれない」
あ、なるほど。俺からすると、この人は先輩か。抗議する理由は分かる気がするよ。
「俺だって総合ギルドに入った頃から、誰よりも頑張ってようやくここまで来たんだ! なのに、Dになったばかりの女に、指名依頼が入るなんて・・・・・・」
「う〜ん・・・・・・でもなぁ〜。本当に・・・・・・」
困った様な声で言うラミュールさんを見て、 あれ? この光景、どこかで見た様なぁ・・・・・・。 と思ってしまう。その隣でミュリーナさんが、なぜかニヤニヤしている。
「俺、どんな任務でもこなしてみせますっ!! だからその依頼を教えてくれっ!!」
「・・・・・・そうか、分かった。エルライナ宛に来た依頼を読み上げる。その中でお前がやれそうな依頼があったら、絶対受けて貰うぞ。良いな?」
「喜んでやるぜっ!!」
その言葉を聞いたラミュールさんは、カウンターから三枚の書類を取り出した。
「一つ目の指名依頼は、ファッションモデルだ」
「ファ、ファッションモデル?」
「そうだ。レンカという服屋が、新しい服の試着してくれる女性を欲しがっていたらしい。しかしお前は男だから、この依頼は受けられないな」
あの人かっ!? またなんかヤバい事になりそうだから、行きたくないんですけどっ!!
「その筋肉質な身体じゃ無理そうね。ていうか私、女装した姿を見たくない」
ミュリーナさん、俺もそう思うよ。ピーチさんじゃあるまいし。
「二つ目がカットモデルだ」
「「「カットモデルぅ〜?」」」
ラミュールさんの言葉に、思わずハモってしまった。
「そうだ。髪のないお前じゃ無理だろう」
たしかに、カットモデルは髪が頭に生えてなければ意味がない。それに俺に頼むって事は、多分求めている人材は女性でしょ。行ってもダメだと思う。
「最後のは・・・・・・これなら、お前でも出来そうな依頼だ」
「ほ、本当ですかっ!? お、教えてくださいっ!!」
食いつきが良いな。それほど指名依頼をやりたいのか、この人は。
「孤児院の掃除と子供達の面倒見だ」
「・・・・・・はぁ?」
「聞こえなかったのか? 孤児院の掃除と子供達の面倒見だ」
「いや、聞こえてますよ! てかなんで孤児院から、指名依頼が来てるんだよっ!!」
「理由に関しては、子供達がエルライナの事をだいぶ気に入ったからだそうだ。でも、それっきり全くこないから、依頼を出したらしい」
ああ、そういえば孤児院を出るとき、子供達が名残惜しそうにしていたなぁ〜。約束の方は・・・・・・・・・・・・忘れてただけだ!
「ホラ」
そう言いながら、ハゲ頭に向かって書類を差し出す。
「え?」
「え? じゃないぞ。この依頼をやってこい」
「いや・・・・・・こんなのはEランクの仕事・・・・・・」
「・・・・・・さっきの言葉はウソだったのか?」
「へ?」
マヌケな顔をしているハゲ男に対して、ラミュールさんは少し睨む。
「私が、お前がやれそうな依頼があったら、絶対受けて貰うぞ。 と言ったら、 喜んでやるぜっ!と言ったはずだが?」
「いや、その〜・・・・・・俺の様なヤツじゃなく、エルライナさんが、家事をこなせる様な方だと思っていなかったので。そのぉ〜、なんと言いましょうかぁ〜・・・・・・」
おいおい、さっきとは態度が全然違うじゃないか。
「やる。と言ったんだ、やれ」
「あ、でも・・・・・・自分は」
「掃除や子供に面倒見るぐらいなら、誰でも出来るだろう? だからやれ」
ラミュールの態度が先程とは違い、威圧感を出していて恐い。
「あ・・・・・・その、ですね」
ハゲ男は孤児院の仕事をやりたくないのか、脂汗を垂らして顔を青ざめさせながら、どう弁解しようか考えているっぽい。
そして反対側のラミュールさんは、 やりますと言え。 と言いたそうに、その人を睨んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、やります」
男の人はラミュールさんの放つ威圧感に心が折れたのか、 やります。 と言ってしまった。
ま、まるでブラック企業の上司とヒラ社員のやり取りみたいだ。
「そうか、それは良かった。手続きの方は受付嬢に任せるから、この書類を持って行け」
「・・・・・・はぃ」
ハゲ男は諦めた顔で、ラミュールからその書類を受け取る。
「そうそう、もしもトンズラしたらどうなるのか・・・・・・言わなくても分かっているな?」
「も、もちろん分かっています! ギルド長!!」
そう言うとハゲ男は逃げる様に去って行った。
「ああ〜、やっぱりこうなっちゃったかぁ〜」
「ミュリーナさん、もしかしてこうなるのを知っていたんですか?」
「ええ、お母さんが困った様な話し方をする時は、必ずなにか企んでいるのよ」
ほうほう、それは良い事を聞いたぞ。
「ところでエルライナ。この依頼だが」
「受けません」
「・・・・・・そうだろうな」
ありゃ? 腹黒のラミュールさんの割には、あっさりと引き下がるなぁ。
「しょうもない事でも、本人に断れる権利はあるからな。説得も出来ない」
ラミュールさんの話を聞いて、思わずホッとしてしまう。
「しかしこのままでは可哀想だから、いつでも頼めるように、依頼人達にエルライナの家の場所を教えておこう」
「はい?」
おいおい、それってマズいんじゃないか? つーか見ず知らずの人に、人の家を教えんなよっ!!
「お前は今日は帰ってゆっくりすると良い。明日から大変な仕事だからな」
「ちょ、ちょっと待ってください! 人の家を教えないでくださいよ、私に迷惑が降り掛かるんですからっ! ちょっと、どこに行くんですか! ラミュールさん! 待ってぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!?」
「こう見えても私は忙しいんだ。仕事に戻らせて貰う」
俺の声も虚しく、ラミュールさんはカウンターの向こう側へと消えていったのだった。
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