第12話

部屋に入るとすぐにカギを閉めておく。着替えている途中にドアを開けられるのは、些か問題なので。

まぁ、用があったらノックぐらいしてくれると思うけどね。


「・・・・・・さてと。着替えますか」


テーブルにカギを置くと、自分が着ている上着のボタンに手を掛けて外していく。


「・・・・・・あ!」


そう言えばこの服、みぃさんに返さなくて大丈夫なのかなぁ? 一応、アイーニャ様が服ごと俺を買った。って感じだから、気にしなくてもいいかもしれない。

しかし、 盗まれた! と騒がれるのは些か問題があるので、念の為にみぃさんに言っておこう。


「みぃさんがこの服をくれるって言ったらぁ・・・・・・いらないからアイーニャにあげちゃおう!」


メイド服はもうすでに持ってるしねっ!!


そう言いつつスカートに手を掛けて下げ様とした瞬間だった。出入り口の方から カチャッ! という様な音がしたので、反射的に動きが止まってしまった。


「おねえちゃぁ〜ん!!」


スカートに手をかけた瞬間、リマちゃんがカギを開けて俺の部屋に凸って来たのだ!


「リ、リマちゃん!」


マズイ! このまま突撃されたら対応出来ない! いや待て! 方法ならあるぞ!!


すぐそこにあるベットに飛び込んで座ると、両手を大きく開いて受け止める体勢を整える。


さぁこいリマちゃん! この体勢ならその突撃を受け止められるぞ!!


「・・・・・・あれ? そのおようふく、もうぬいじゃうの?」


・・・・・・あれ? 凸ってこなかった。この体勢を取った意味がないじゃん! それに可愛いリマちゃんをこの両腕受け止められないなんてぇぇぇええええええええええええっっっ!!


「おねえちゃん?」


「ん? ああ、ゴメン。そうだよ。もうお仕事が終わったから着替えちゃう」


「ええ! カワイイおようふくだったのに、もったいないよ!」


うん、それについては否定しない。けれどもこれで街中を歩くのは、恥ずかしくてたまらない。

リマちゃんはまだ子供だから分からない事か。


「でもこれはね。お仕事用の服だから汚す訳にはいけないの。だから汚さない為にも脱がないとね」


返す予定を立てているからね。念の為に俺の方でクリーニングもしておこう。


「フ〜ン・・・・・・そうなんだ」


「ところでリマちゃん」


「ん? なぁに?」


「その・・・・・・なんて言うかね。部屋に入ってくるのは良いけど、ドアを閉めて欲しいなぁ〜」


一応俺にも大人としてのモラルがあるから、この状況は些か問題だと感じている。


「あ! ゴメンなさい!!」


リマちゃんは俺に頭を下げて謝罪をすると、慌てた様子でドアを閉めに行く。閉めたところを確認するとスカートを下ろしたのだがリマちゃんの視線が気になってしまったので、また止まってしまった。


「・・・・・・どうしたの、リマちゃん?」


「おねえちゃんのパンツ、カワイイ。リマもほしい!」


なんと! ニャン子さんの肉球おパンツが欲しいだと! まぁ確かに可愛いデザインだし、欲しがるのも分かる。

しかしながら、この世界には販売されてない物だから買う事が出来ない。

それに俺から購入しようとしても無駄な事。だってストアから服とか下着を購入すると、AIもしくはコンピューター? どっちのせいなのか分からないけど、勝手にサイズが俺に合う様に合わせてしまうのだ。

なので体格が似た様な人じゃないと、売るどころか貸す事自体が無理なのだ。



「おねえちゃんのパンツ、どこでかったの?」


「えっ・・・・・・とねぇ〜・・・・・・・・・・・・」


でも目の前にいる子に、 ストアから購入している。なんて正直に言っても なぁにそれぇ? と言われるのがオチだと思うし、そもそも論的にバレる要因になるからそんな言える訳がない!


「ゴ、ゴメンね。遠いところで買った物だから、ここら辺のお店じゃ買えないよ」


「むぅ〜・・・・・・カワイイパンツ、ほしかったなぁ〜」


ショボーンと残念そうな顔をしてしまうリマちゃん。その表情を見た俺は少し心を痛めてしまう。このまま泣いてしまうと困るので話し掛ける。


「そう言えばリマちゃん! もうお風呂が沸いているかな? おねえちゃん、お仕事して汚れているから入りたいなぁ〜」


「えっとぉ〜、もうおふろわいているよ」


「おねえちゃんと一緒に入る?」


「うん! おねえちゃんといっしょにはいるぅ〜!!」


そう言いながら抱きついて来たのだが、俺は お風呂に入るんだったら、ここで着替えをしなくても良かったんじゃないの? と今さら気がつく。


・・・・・・まぁいっか。着替えぐらいなら、そんなに手間じゃないし。


「ちょっと待ってて。服を着るから」


さっき脱いだメイド服を着てから、ストレージからお風呂セットを取り出す。


「おねえちゃんのせっけん、いいにおいがするからすきぃ〜!」


まぁ石鹸じゃなくて、シャンプーとボディーソープなんだけどね。やっぱりこの世界の石鹸は向こうの世界の石鹸と比べると、泡立ちとかが良くないのかなぁ?

キオリさんのところで売っているみたいだから、試しに買って使ってみよう。


「準備完了。さぁお風呂に行こう、リマちゃん」


「うん!」


リマちゃんは笑顔で俺の差し伸べ手を取ると、急かしているのか手を掴むと引っ張ってくる。


子供って本当に無邪気だね。 と思いながらニコニコするが、内心リマちゃんが元気あり過ぎてちょっと困っている。


「リマちゃん。お風呂は逃げたりしないから、ゆっくり行こう」


「うん!」


リマちゃんはそう返事をすると引っ張るのを止めてくれて、ニコニコとした顔で隣に寄り添う様に歩いてくれた。

その表情を見つめながら、ホッコリしていた。


しかし明日はどうしようか? ストアでキャンプ用具を買えば済むのだが、やっぱりこの世界のキャンプ用の道具を一式揃えた方が身の為だろうか?


「おねえちゃん。カギ」


「あ!」


おお、危ない危ない! リマちゃんの可愛さに気を取られていたよ。


「ゴメンねリマちゃん。ついうっかり」


「ふぅ〜ん、そうなんだ。もしかして、なにかんがえてたの?」


む、洞察力があるのか? 考え事をしていたのが分かって・・・・・・いや、そうじゃないかなぁ? って感じで聞いて来たんだろうな。


「まぁね。明後日から護衛任務の関係で別の国に行くから、なにを用意しておいた方が良いかなぁ〜? って考えてたの」


「おねえちゃん、べつのおくにへいくの? すごいね!」


「うん」


「おねえちゃんいいなぁ〜、リマもいってみたいなぁ〜」


うん。これは多分護衛任務って事を忘れているのか、もしくは分からないから無視しているのか。どちらにしても、聞いて来ないから気にしなくても良いか。


「まぁ、大っきくなってから行くと良いよ」


「おっきくなってからかぁ〜・・・・・・リマがおっきくなったら、おとうさん と おかあさんに あいにいけるかなぁ?」


「うん。リマちゃんならきっとお父さんとお母さんに会いに行けるよ」


両親思いの良い子だなぁ〜・・・・・・もしも俺に子供が出来たら、こういう子であって欲しいなぁ〜。


「っと、お風呂場に着いたね」


よそ見しながら歩いていたから気がつかなかった。

危ない危ない。このまま歩いていたら、ぶつかっていた。今度からはよそ見しながら歩くのは止めておこう。


そう思いながら扉を開けて女湯へと入って行く。そしてカゴの入った棚に行くとお風呂セットを置いてから、上着に手をかけたのだけれども。


「・・・・・・ん?」


斜め下に顔を向けると、すでに服を脱いでいたリマちゃんがジィ〜っと俺の方を見つめていた。


「どうしたのリマちゃん?」


てか服脱ぐのが早いな。子供の服だからか? それとも俺が脱ぐのが遅いからか?


「どうしたらおねえちゃんみたいに、おむねがおっきくなれるの?」


「えっ!?」


子供の純粋な疑問がまさかここでくるとは思わなかった!! どうしよう? キャラクリでそういう風に設定しました! なんて言えるかっ!?

リマちゃんみたいな子供に言っても なにそれ? って言われるのがオチだし、なによりも俺が転生者だって事がバレる原因になるのは避けたい!!


「えっとねぇ〜・・・・・・」


リマちゃんが期待の眼差しを向けている中で目を泳がせてどう答えるか考える。側から見れば怪しい光景だ。


牛乳をたくさん飲んでいれば胸が大きくなれる。それは誤った情報であるから言えない。う〜ん・・・・・・そうだっ!!


「・・・・・・じ、自分の胸が大きくなれると信じていれば大きくなれると思うよ」


「そうなの?」


「う、うん。そうだよ」


「ふぅ〜ん・・・・・・」


リマちゃんは自分の胸に手を当てて見つめ続けている間に、服を脱いでカゴの中へ入れる。


「それよりも、そんな姿でいると風邪を引くからお風呂へ行こう」


「うん!」


俺は、 どうか、俺が言った事を忘れています様に。 と神様にお願いしながら、リマちゃんと共にお風呂場へと入って行くのであった。

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