第7話

目の前にいるオウカさんと名乗る魔族の女性はニッコリとこちら見つめてくるが、どこか意味ありげな感じがする。


「はぁ・・・・・・どうも、はじめまして。エルライナと申します」


兎にも角にも、相手がどうあれオウカさんとは初対面なので名乗った後に頭を下げて丁寧に挨拶を済ませるが、オウカさんは可笑しそうに口に手を当ててクスクスと笑っていた。


「あら? 先程はエルエルと呼ばれておりましたよね?」


ギクッ!?


みぃさんが付けたあだ名を言われた瞬間、肩をくすめて苦虫を嚙みつぶした様な顔をしてしまう。オウカさんのは、その様子が面白かったのかニコニコしている。


「まぁそれはともかく、可愛らしいメイド服ですねぇ〜。見てて愛くるしく思えてしまいますぅ〜」


あ、愛くるしいっ!!?


「ハウッ!?」


そう言われてしまうと身体が反応してしまう! 顔が、顔が熱くなるのを感じるぅぅぅうううううううっっっ!!!?


「私が言ってた通りの子だと思いますよね?」


「はい、アナタが語っていた通りホントに妹したいぐらい可愛い子ですねぇ〜。

ハァ〜〜〜、カワイイ〜〜〜〜〜〜ッ!!?」


顔を真っ赤にしている俺の背後に回ると抱きついて頬ずりしだした。


「ア〜〜〜ン! お肌もスベスベで羨ましい〜〜〜〜〜〜!!? ずっとこうしていられるわっ!!」


この人には、なにかあるかもしれない。って思っていたけど勘違だった。アリーファさんと同類の人っぽい。


「それにこのお胸! パッと見だと控えめに見えるけど、触れば分かるこのボリューム!!」


オウカさんは自身の両手で俺のお胸を鷲掴みするとモミモミし出したので、顔を真っ赤にさせながら反射的に前かがみなってしまった!


「ちょっ!? いきなりなにををするんですかっ!!? 止めて、ニャァッ!?」


「おやぁ〜? ここが良いのですかねぇ〜?」


そう言いながらさっきよりも激しく揉んでくるので、力なくその場に膝を着いてしまった。


「ウフフ〜、ウチのテクニックが気持ち良さそうですねぇ〜」


「うううぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・や、止めてください〜〜〜」


王族がいる目の前でこんな事をしていたら無礼でしょ! 今すぐ止めないと、なんて怒られるか分からないよっ!! てか王族に怒られるの恐い!!


「ここが良いんですかぁ〜・・・・・・・・・・・・転生者さん」


「ッ!?」


ボソッと呟いた言葉を聞いた瞬間、思わず目を見開いてオウカさんを見つめてしまう。


な、なんでこの人は転生者なのを知っているんだ?


俺がそう思って狼狽している中、オウカさんはニコニコした表情を崩さずに耳元で囁いてくる。


「フフフ、そう驚いた顔をしちゃダメ。この場ではウチ以外アナタが転生者だって知らないから安心して」


オウカさんだけは俺の事を転生者だと知っていて、王様達は転生者と知らない・・・・・・どう言う事なんだ?


「説明は後でしてあげるから表情を戻してね」


「・・・・・・わ、分かりました」


どうして知っているのですか? と今すぐにでも聞きたいけど王様達にバレてはいけないので、笑顔に変えるが、ぎこちないのが鏡を見なくても分かる。


「そ、そろそろ止めていただけませんか?」


「そうですね。そろそろ離れないと気づかれそうですね」


オウカさんはそう言うと俺から離れてくれた後に目の前に出て来て話しかけてくる。


「さて、立ち話もなんだからイスに座りながら話しましょう」


「あ、はい」


オウカさんが手を差し伸べるのでその手を取ると、オウカさんに促される様にしてテーブルへ向かう。


「すみません。ウチが遊んでしまったせいで、お時間を取ってしまいました」


「いいや、エルエルの可愛い姿を見たら誰だってそうしたくなるさ。アタシ自身も混ざって遊ぼうかなぁ〜? って思っていたのさ」


アイーニャ様は止めて欲しい。だって前に宿に凸られた時にヒドい目にあったからさぁっ!


「アタシも今からでも楽しもうかなぁ?」


アイーニャ様はそう言うと、いやらしい手つきで俺に近づいて来た。その姿を見た瞬間、あの日の恐怖を思い出して身震いして動けなくなってしまう。


俺はこの人に今度は何回やられてしまうんだ!?

いつどのタイミングで襲ってくるんだ!?

俺は・・・・・・

俺は・・・・・・

俺のそばに近寄るなーーーーーーーーーーーーッ


「イダッ!? イダダッ!!? メ、メイラッ!? 痛いから手の甲をつねらないでくれぇっ!!? てか、なんで抓ってくるんだよっ!!?」


「あらぁ〜アナタ様、オウカさんがエルエルさんのお胸をモミモミしている姿を、イヤらしい目で見ていたではありませんかぁ〜。

愛する妻を差し置いて他の女の子に夢中なるなんて、嫉妬するに決まってるじゃないですかぁ〜」


俺が ジョ◯ョ の名シーンをモノマネの最中、アイーニャ様の向かい側では王妃様が王様の手の甲を指先で抓っていたのだ。しかも威圧感のある笑顔だから怒っているのが丸分かりだ。


「浮気? エルエル様に浮気するのですか? わたくしとしては第二の王妃として迎えるよりも、わたくし達の娘として迎える方が相応わしいと思うの。

そうですわっ!? ねぇ、今度息子様に会って頂けませんかしら? ゆっくりお茶をしながら婚や、お話しでもしましょう」


今婚約って言おうとしなかった?


「王妃様ダメですよ。エルエルと王子様は身分に差がありますから・・・・・・それに私の計画がここで終わってしまいますし」


最後の部分はなにを言っているのか分からなかったけどアリーファさんと同意見だ。王族なんて身分は俺には荷が重過ぎる。


「う〜ん、いままでの功績とその容姿なら大丈夫だと思うのだけれどもぉ〜・・・・・・」


「でも王族になる為の教育を受けなきゃならないだろ? エルエルが今から教育を受けて王妃になるまで、どれぐらいかかると思う?

アタシは最低六年ぐらいはかかると見込んでるけどさ」


「う〜ん・・・・・・頑張れば半分ぐらいでなんとかしてくれるはず」


半分どころか三分の一を切った!? どう考えればそんな数値が出てくるのっ!!?


「詰め込みの教育をやれば。 って考えているんならエルエルに嫌われるとアタシは思うのさ」


「き、嫌われるのは困るわっ!?」


俺、無茶振り教育をやらされるところだったの!? 恐っ!!?


「じゃあエルエルを王族に入れるのを諦めるのさ」


「諦め切れないわよ! わたくしこの子みたいな娘が欲しいっ!! そしてエルエルの様な孫も欲しいのっ!!」


ケラケラと笑いながらだらしない格好でイスにもたれ掛かっているアイーニャ様に対して、イスから立ち上がって机に両手を着いてちょっと怒り気味のメイラさんが、お互いを見つめ合っている。


ちょっと収集がつきそうにないな。こうなったら!


「あ、あの!?」


俺は意を決して二人に向かって話し出すと、アイーニャ様と王妃様が同時にこっちを向いてくる。


「お話しって、一体なんですか?」


言い切った。 俺がそう思っていると、二人は気がついた様な顔をして姿勢を正して座り直してからこっち向く。


「あ〜、スマン。ヒートアップし過ぎて忘れていた」


「そうですね。エルエルさんを王族に迎え入れるのは準備が必要そうですからね。また次の機会にお誘いする事にしましょう。息子のお嫁さんになりたかったら、いつでも歓迎するわよ」


王族になるのは無理だから絶対にお断りしますっ!!


心でそう思いながら首を横にブンブンと振ると、アイーニャ様の笑い声聴こえて来た。多分笑われてるんだと思うけど、お誘いを絶対に断りたいから気にせず振り続けると コホンッ!? とわざとらしい咳払いが聞こえて来た。


「まぁ二人の話しは置いておいて。二人共、イスに座ってくれ」


王様に言われ通りイスに座ろうとするがイスが一つしか空いてない。なのでオウカさんには俺が座っていたイスに座って貰い、俺はストレージからパイプイスを取り出して座った。


「わおっ!? 便利ですね!!」


「まぁ私の能力の一つですからね。それよりも頼みたい依頼とは一体なんですか?」


あーだこーだ説明し過ぎるとぼろが出ると思うので誤魔化しておく。


「うむ、もう察していると思うが言わせて貰う。魔国クシュウの親善大使である、オウカ殿を護衛して貰えないだろうか?」


魔国の名称ってクシュウって言うんだ、知らなかった。そんな事よりも。


「あの、護衛するのは構わないのですが、質問させて頂いてもよろしいですか?」


「ああ、構わない」


「彼女は魔国から来た親善大使なんですよね?」


「ああ、そうだ。俺が保証する」


「そうでしたら護衛がいるはずですよね? 今ここに居ないのはなんでですか?」


もしかしたら彼女を護衛していた人達は途中で負傷してしまって護衛出来ない状態だから、俺に護衛を頼んでいる可能性があるかも。


「隣の部屋で待機しているわ」


「あ、そうですか」


その線での依頼をして来たわけではない。じゃあなんで俺に護衛の依頼をするんだ?


「質問はそれだけかい?」


「いえ、もう一つ聞きたい事があります」


「もう一つ?」


「はい、なんで私に護衛の依頼をするんですか?」


俺が一番疑問視しているところだ。


「それは・・・・・・」


「・・・・・・それは」


バルデック公爵様が真剣な顔をして言うので、真剣な顔をして聞き逃さない様に耳を傾ける。


「彼女自身の希望だからだ」


「・・・・・・え?」


俺はわけが分からない。と言いたそうな顔をしてバルデック公爵様を見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る