第4話

騎士団の方へ歩いて行く途中でようすを見る為に一旦立ち止まり、300メートル先にいる騎士団を双眼鏡で見るが、まだ気付いてくれないどころか二人の言い争いがヒートアップしている気がする。


更に50メートル進むとリズリナさんが地面に座り込み泣き始めて、言い争いをしていた相手は頭をかきながら困った表情を浮かべていた。しかも周りの人達もリズリナさんの側に集まり話しかけているように見える。


・・・・・・つーかあの人達こんなところで何をしているんだ?


200メートルを切ったところでリズリナさん達に向かってリズリナさんの名前を大声で呼ぶと、弓を持った人が俺の声に気づいてこっちに体を向けてくれた。


ラッキー!! ・・・・・・けどぉ、なんか弓を構えているのは気のせいかな?


『注意! 12時方向に危険を感知、敵の可能性有り』


ちょっ!? 酷くない!!? 俺は貴方達を助けた本人なのに、そんな事するなんて! ・・・・・・って思ったけどあの人の行動は当たり前だだよね。だってリズリナさん以外俺の事を知らないし、しかもこの距離じゃハッキリと見えないよね。


あ、そうだ。ここまで近づけばヘッドセットの集音器機能が使えるはず・・・・・・だよね?


俺は歩くのを止めて、左手でヘッドセットのツマミを回して騎士団の話を聞いてみる事にした。


『ふぇぇぇええええええんっっっ!!? エルちゃん絶対いるもんっ!! エルちゃんの攻撃しか考えられないもん!! ・・・・・・グスッ!?』


『こんな芸当が出来る人間がどこにいるんだよっ!! そもそもソイツはどこにも見当たらないじゃないかっ!!』


すみません、ここにいます。しかもアナタの仲間に命を狙われてますよ。


『あのぅ・・・・・・副団長。こちらに向かって歩いて来ているの人がいるですがぁ・・・・・・どう対応をしますか?』


『なに、どんなヤツだ? 数は何人だ?』


おぉ、ようやく気づいてくれたっ!! つーか弓を持ったあの人は矢を番えてから、俺の事を伝えてなかったのかいっ!?


『よく見えないのですが一人です。武器を所持している様子はありませんが、黒い棒のような物を持っています・・・・・・もしかしたら盗賊が民間人を装っているかも知れません』


『黒い棒? ミュリーナさん、その人の髪は白色ですか!?』


『ま、待ってリズリナ。私はキースさんのような魔眼まがんスキルを持ってないから、はっきりとまでは分からないわ』


リズリナさん、早く俺と特定して。その話している相手に弓で射られちゃうよっ!! ・・・・・・、まぁ、まだ射程外だけど。


『むぅぅぅっっっ!!?』


『まぁ、待て二人ともっ!! ミュリーナ、確かに一人だけなのか? 他には人が見当たらないか?』


『はい、見当たりません。一人だけだと思います』


『・・・・・・確かに一人っぽいな。オークをこのままにしといて、会いに行くぞ!』


『副隊長、危険があるかもしれないっすよ!?』


『アゼス、それは分かっている。もしその人が リズリナ が言う エルライナ って人物だったら、俺達はグエル団長の恩人に失礼な振る舞いをしている。って事になるぞ。それ以前に俺達は騎士団だろう? こんな事でビビっていられない。それにその歩いている人が本当に民間人だったらどうするんだ?』


『・・・・・・副団長の言う通りっすね』


『周囲を警戒しながらソイツに会いに行くぞ。武器は閉まっとけ、相手が民間人だったら、山賊と見間違えて逃げていくかもしれないからな。全員会いに行くぞ!』


流石副団長、懸命な判断を選べる人だね。


『『了解!』』


『エヘヘェ〜〜〜・・・・・・久しぶりにエルちゃんに会えるんだぁ。楽しみだなぁ〜〜〜』


『何を馬鹿な事を言っているんだっ!? まだ相手が エルライナ とは決まってないだろ? それに返事はどうしたんだ?』


『はうっ!? わ、忘れてしまいました! ゴメンなさいベイガー副団長!!』


『全くコイツはぁ〜・・・・・・この事はグエル団長に話しておくからな』


『ふぇぇぇええええええっっっ!!? ベイガー副団長ヒドいですよおおおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っ!!』


リズリナさん、御愁傷様です。骨は拾っておいてあげますから安心して下さい。


俺はヘッドセットのツマミを回してボリュームを下げた後に、リズリナさんに会う為に騎士団に向かって歩き出す。





「エルちゃぁぁぁ〜〜〜〜~~んっっっ!!?」


リズリナさんは俺だと分かると、名前を大声で言いながら走って向かって来て抱きついた。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・エ、エルちゃん! はぁ・・・・・・・あいた、はぁ、はぁ・・・・・・かった、はぁ・・・・・・よ・・・・・・」


「リズリナさん、私と会えて嬉しいのは分かるんですけど、なにも全力疾走しなくても良かったんじゃないんですか?」


汗をかき息を切らしながら話しているから何を伝えたいのか分からない。てかリズリナさん、俺にもたれ掛かっってない? 俺がリズリナさんの体を支えている気がするんですけど気のせいか? いや、気のせいじゃないっ!!


「クゥ~ン」


ほらリズリナさんの召喚獣も顔を見上げながら心配しているよ。


俺はメニューを出してポイントでポカ◯スエ◯トを買うと、蓋を開けてリズリナさんに渡す。


「はい、リズリナさん。飲み物のポ◯リ◯エットをどうぞ」


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ありが、はぁ・・・・・・とう。はぁ・・・・・・エル、はぁ・・・・・・ちゃん・・・・・・」


何を言っているのか分からないがリズリナさんは俺から離れて飲み物を受け取った後に、口に付けて飲み始める。


「はぁ・・・・・・やっと追い付いた。おいリズリナッ!! 急に走り出すとは何事だっ!! 全くお前ってヤツは・・・・・・」


その肝心なリズリナさんは夢中になって飲み物を飲んでいるので、俺から剣を二本持っている人達に挨拶する事にした。


「あの、話しが進みそうもないので先に挨拶しますね。はじめまして、総合ギルド冒険科のエルライナと申します」


「ん? あぁ、そうだな。コイツを叱るのは後にしよう。俺の名前は ベイガー・ドルトン 人族で、リードガルム王国 第二騎士団の副団長を勤めている」


「俺っちの名は アゼス っす! 見ての通りドワーフで騎士団に在住しているっす。で、これが俺っちの自慢の斧っす」


背の低いオッサンが自慢気に柄の長い斧をかざす。そう言えばドワーフは自分の持つ武器を自分の命のように大切にする風習があるって総合ギルド職員が言ってたな。


「私の名前は ミュリーナ・リビアス 種族は獣人、詳しく言えば兎族でリズリナとは同期よ。歳は違うけど」


へぇ、ミュリーナさんはリズリナさんの同期なんだ。


「もしかして、さっき聞こえたのはその耳のお陰なんですか?」


実際は周りに障害物がないから、俺の大声が聞こえていてもおかしくない距離だったんだけどね。


「うふふ、そうよ。さっきは矢を向けてごめんなさい。リズリナが泣き叫ぶからはっきりとは聞こえなかったのよ」



あぁ、なるほど。俺の声はリズリナさんの泣き声で邪魔されて届き難くなってたんだ。


「エルちゃん、ありがとう! 甘くて美味しかったよ!」


リズリナさんは空になったペットボトルを見せつけながら言ってくる。


全部飲み干しちゃったのっ!?


「喜んで貰えて嬉しいんだけどさ、ベイガー副団長達と挨拶が済んだから本題に入るよ」


「え? いつの間にベイガー副団長達と挨拶を済ませたの?」


「ついさっきね。リズリナさん飲んでばかりでなにも話しを聞いてなかったの?」


「あうっ!?」


あぁ、聞いてなかった。って表情しているよ。


「お前はなぁ~っ!!」


ベイガーさんは眉間にシワ作りながらリズリナさんを見るがお叱りは後にして貰おう。


「えーと・・・・・・そう言う事は私との話し合いが終わってからで良いですか?」


と俺が言ったのだが本人ベイガーさんはリズリナさんを見ながら叱っているので、どうやら聞こえてないようだ。


「エルライナさん。ベイガー副団長がああなったら、放って置いた方がいいわよ」


「はぁ・・・・・・そうですかね?」


俺は腰に手を当てて怒るベイガーさんと、地面に正座をさせられて ごめんなさい! と連続で言っているリズリナさんを見る・・・・・・うん、無理そうだね。


「ところで話したい事ってなんすか? 俺っち達で良ければ話して欲しいっす!」


まぁ同じ騎士団だから別に構わないか、それに時間短縮したいし。


「はい、一応確認なんですけど。ゴーゼスを出る時に、ここら辺でオークが出没する。と言う総合ギルドから連絡を受けてなかったんですけど・・・・・・ もしかしてオークの調査の為にここに来たのですか?」


二人は顔を見合せてからこちらを向く。


「俺っち達は訓練でここに来たっす。だから俺っち達もオークが出没するって話しは聞いてないっす」


騎士団もオークが出ると聞いてないと言うとぉ・・・・・・。


「オークの姿を確認したのは私達が最初って事になるのですかね?」


「そうなるっすね!」


「ちょっと待ってちょうだいっ!!」


ミュリーナさんが俺になにか言いたそうな顔で見てくる。


「ん? どうしたんですか?」


「私達もアナタに確認しなきゃいけない話しがあるの」


「時間がかからなければ話しを聞きますよ」


俺が倒したオークを回収して、さっさと王国に行きたいからね。


「わかったわ。オークに襲われている私達を助けたのはアナタで間違いないの?」


「はい、そうですよ」


ミュリーナさんは目を反らし顎に手を当てて何かブツブツ言いだした後にまたこっち向く。


「信じられないけどアナタが助けてくれたのね。どんな魔法を使ったの? あのパーンッ!! って言う音は、その魔法となにか関係があるんでしょ?」


この人は魔法で倒したと思っているよ。実際はSVUで狙撃しただけなのに。


「グスッ! 魔法じゃありませんよミュリーナしゃん・・・・・・グスッ! エルちゃんが持っている黒い棒がジュウと言う武器でオークを倒したんです・・・・・・グスッ!」


涙目のリズリナさんが俺の代わりに説明をしてくれる。てか、いつの間にか説教終わっていた。


「え? じゃあこれがグエル団長が話していた武器なの?」


「はい・・・・・グスッ! 私が見たものとは形が違いますが、あれと同じ物だよねエルちゃん? ・・・・・・グスッ!」


「はいそうです。ただ今回は遠くから狙うので別の銃を使いました」


詳しく話したいけど今回は時間が惜しいから簡単に言っておこう。


ベイガーさんが俺の前に出て来て凛々しい顔しながら俺の顔を真っ直ぐ見る。


「エルライナさん、我々を助けてくれてありがとうございます。こうして私と部下が生きていられるのはアナタのおかげです。そして礼が遅くなってしまいすみません」


「しょ、しょんな! おれいをいわれることにゃんて、してませぇんよぉ!」


顔が・・・・・・顔が熱くなってくるのを感じるぅぅぅううううううっっっ!!?


「いいえ、これは副団長としての立場ではなく、私個人の心からのお礼を」


「ひうぅぅぅ~~~〜〜〜・・・・・・」


恥ずかしさのあまり顔を手で押さえてその場に女の子座りしながら、体を左右に捻りながら悶え始める。


「エルライナさん、一体どうしたんだ?」


「ベイガー副団長、それぐらいにしてあげて下さい」


「リズリナ! 彼女は一体どうしてしまったんだ?」


「エルちゃんは極度の照れ性なのです。ベイガー副団長の感謝の言葉せいで、こうなってしまったのです。ベイガー副団長に話してませんでしたっけ?」


リズリナは呆れた顔で副団長に言う。


「・・・・・・と、とにきゃく、このことを・・・・・・ギ、ギルドに、ほ、ほうこくしゅ・・・・・・しにゃければいけましぇん・・・・・・」


「お、おう」


呂律が回ってない。頭を振って・・・・・・気持ちを切り替えて!


「あ、あのオークを回収してきゃら・・・・・・王都にい、行きましょう。馬はどうしたんですか?」


「訓練の一環で連れて来なかった」


う〜〜〜ん、参ったな馬を連れて来てなかったとは・・・・・・仕方ないハンヴィーを使うか。


俺はメニューを出してハンヴィー1151をまた召喚して先に乗り込む。


「とりあえずこれで王都まで行きましょうか。ベイガーさん達も乗って下さい」


ベイガーさん達を見ると、驚いた顔をして固まっていた。


まぁ、こんな風になっても無理はないか。


「な・・・・・・なんだこりゃっ!?」


「乗り物です。早く乗って下さい。後、この乗り物の事はナイショにしてくださいね。絶対ですよ」


「わ、分かった! しかし、この乗り物は馬が引かなくても良いのか?」


「大丈夫です」


「本当に?」


「えぇ」


「嘘じゃないよな?」


「はい」


「安全なんだよな?」


「・・・・・・はい」


ええい、この副団長は聞き分けが悪いっ!!


「ベイガー副団長、エルちゃんの言う通りにしましょう。早くしないとエルちゃんが倒したオークがウルフに食べられてしまいますから」


ナイス、リズリナさん!


「うっ!? それもそうだな」


何か言いたそうなベイガーさんと子供のようにはしゃいでいるアゼスさんは後ろの座席に座り、ミュリーナさんは銃座の方に乗ると何故か辺りを見回し始める。そしてリズリナさんは助手席に座って期待の眼差しを俺に向けてくる。


「全員乗りましたね。それじゃあ出発します」


俺はそう言った後に、エンジンを掛けてハンヴィー1151を発進させた。

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