十七の鼓動

僕らの日々を差す光は

いつも脈を打っていて

生み出される地球の鼓動は

風の音と共鳴している

生き生きとした日々は

いつも地球の中を循環して

軽やかに流れる息吹は

陽射しに反射している


しかし

地球が日々を巡ることが

いつしか当たり前に思えて

地球の鼓動を気にとめずに

たゆんだ生活を送ることに

慣れきってしまったのは

少なくとも

金ぴかに光っていた自分が

過去のどこかに埋れたのを

どこかで忘れたからだろう


夢を見ていたあの日は

今はくすんだ思い出で

二十四時間の繰り返しも

またたく間に過ぎていく

地球は今日も僕らを乗せて

自転と公転を繰り返す

逸れない周回軌道上で

煌めいた四季の景色も

少しずつぼやけて見えた


十六年目の朝

聞き慣れた目覚ましが鳴ると

また冴えない日常が始まる

気の抜けた炭酸飲料みたいに

喉越しがイマイチな日々も

ビタミンが舌にしみわたる

野菜ジュースのように色濃いはずで


十六年の間に瞳に映った

四季は一年で繰り返されて

しかし

地球の上では四十数億年もの間

絶え間無く四季が踊り続けている


そんな当然に気付いていなかった

つまらない毎日だと思っていた

だから

過去に金ぴかに光っていた

自分が埋れたのだろうか


夢を見ていたあの日は

積み重なった日常の中ではなく

地球の上を漂って流れている

時計の針がただ回っている中

その中で一歩を踏み出しても

急には世界も変わらない

それでも踏み出した足が

四季の鼓動を賑わせれば

味気ない炭酸飲料だって

再び弾けて日々が色付く


十六年の時の中で

あの日の夢はくすんだけれど

これから見る景色はきっと

晴れた空に映えて

今 十七年目の息吹が

さざめく少し先の自分の

左心房を奮わせていく


今日の呼吸を確かめて

明日に備えて息を吸う

左心室に流れる血潮の

赤い音に耳を澄ませば

瞳に映った四季が踊る


さざめく葉が運ぶ四月

うすら霞んだ月に似た

桜は遥か遠くに散った

気だるくなりつつある

初々しい日々は早くも

梅雨の季節を匂わせる


カーテンを翻す七月が

夏休みの合図を告げる

青が滲んだ空の中には

夕立みたいな蝉の声と

僕らの好奇心に満ちた

鼓動の音が溶けている


艶やかに燃える紅葉と

鮮やかに映える銀杏の

色が弾ける十月の夕景

枯れゆく日々の中でも

実りの便りは息を潜め

豊かな輝きを解き放つ


足音を忍ばせて訪れた

騒がしい十二月の盛り

尖った硬い空風が吹く

陽の入る褪せた景色の

街はモノクロを裂いて

彩りを灯し明日を待つ


巡ってきた四季の形に

僕らはふわりと包まれていて

十七年目の鼓動がここに響く

地球に差し込む日光も

地球を循環する四季も

十七年目の鼓動を支えている


そうして 僕は

整った軌道の上の地球で

精一杯の鼓動を響かせる

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十七の鼓動【詩集】 恵海沢友良 @meg_umi_sawa

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