第6話

「ひょっとしたら、それは風吹橋の話かも知れんのう」

暫く考え込んでいた老人は、やがて思い当たった様に口を開いた。


 久深の告白を聞いた後、悠生は自分も風の色捜索に加わりたいと申し入れた。

「伝説的なものは、地元の人に聞くのが一番」

 そう思った彼は、バイトの空き時間を利用して、彼女と近くの漁村等を尋ね歩いた。

 空振りが続いた三日目に、ようやく手応えを感じるこの老人の言葉と出会えたのだ。

「どんな話なんですか!?」

 逸る気持ちを必死で押さえ、久深が尋ねる。

 老人は、淡々と語り始めた。




 今から数百年前。

 風の森の沖合数キロの所に、二つの小島があった。

 それぞれに一軒ずつ家が建っていて、西の島には男の子、東の島には女の子が、両親と一緒に暮していた。


 幼少の頃から仲の良かった二人は、やがて共に将来を誓い合う。

 しかし、両家の不和が原因でそれは認められず、娘は本土に嫁に出される事になった。


 二人は嘆き、悲しんだ。

 もう一度逢いたいと、毎日必死で天に祈る。

 願いは、娘が島に居る最後の晩に叶った。


 東西からどことなく吹いて来たそよ風が、流れに乗って緩やかな曲線を描きはじめる。

 風はお互いに引き合い、合わさって、やがて両島を結ぶ一つの巨大な橋を作った。


 それぞれの島から渡って来た少年と少女が、橋の中央で抱き合う。

 その時、風橋は一斉に上昇し始め、二人は風に乗って雲の上へと消えて行った。

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