Op.37 打ち上げ準備

 応援に駆けつけたベリンダの避難民たちと共に、ミコトとシタンはロケットの打ち上げ準備を始めた。

 避難民たちはアース文明の技術に精通しており、加えてセフィラの助言もあって、ロケットの打ち上げ準備は急ピッチで進められていく。

 ロケットの打ち上げが間近に迫ったある日、ミコトは食堂での給仕の最中に、避難民たちに紛れ込んでいたクリファと出会う。

「もう食べちゃったんだ」

 食堂のテーブルについたミコトは、対面で満足そうにお腹をさするクリファへと声をかけた。

「クリファも来てたんだ。気付かなかったよ」

「来たのは昨日。ヘレンに送ってもらった」

「ヘレン……さん?」

「ライドの副官。ライドが好き。ちょっとうるさい」

 答えたクリファが、逆に質問して来る。

「ミコトは何をしている?」

「ロケットを打ち上げるんだよ。あ、えっと、ロケットって言うのは――」

「ここにあるのは、人工衛星のローンチヴィークル。液体燃料を推進剤とした二段式のロケットステージ一基と、固体燃料ロケットブースター二基によって構成される」

「えっと……良く知ってるね」

 専門的な内容をスラスラと語るクリファに、ミコトは圧倒された。

「良くは知らない。視覚で得られる情報と、その情報から推測可能なことだけ。クリファには、セフィロトシステムの核心的な部分について、知ることが許可されていない」

 呆けるミコトを前に、クリファは続ける。

「ミコトは、クリファを壊したいのか?」

「壊したい……?」

「……クリファのことは、誰にも話してはいけない。ライドが教えてくれた。でも、ミコトはクリファと結婚する」

 クリファの不穏当な言葉に、周辺の人々が色めき立つ。

「家族に隠しごとはいけない。特に嫁にはダメ。ライドが教えてくれた。だから教える」

「あ、クリファ……!?」

 唐突に席を立って歩き出すクリファの後を、ミコトは追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る