第三楽章 イノリ
Op.26 生物兵器
王都に帰還したシタンは、カムラの執務室を訪れ、ベリンダの崩落に至る一連の事態を報告し、その責任を取って聖樹士を返上する旨を伝えた。対して、カムラはベリンダが崩落した後も
シタンたちが訪れた研究所の一室には、防腐処理を施された二体の
「結論から言いますと、国内で襲撃を繰り返している
カムラに促され、研究室に詰めていた生物学者の一人が説明を始めた。
「
「ああ、いえ、少しばかり語弊がありましたね。
消化器や生殖器が機能を果たさないと推察されるほどに未発達であるのに対し、牙や爪など、攻撃に要する機能は異常なまでに発達している――生物学者は、アルテシア王国領内で襲撃事件を繰り返している
「生きるための機能を犠牲にし、攻撃のための機能を進化させた生物……いえ、生きるための機能を犠牲にしている時点で、最早、生物とは言えないのかもしれません。これは個人的な推論なのですが、生物のような兵器、つまり
言葉を切った生物学者に替わり、カムラが口を開く。
「国難は続いている。それも何か大きな秘密を抱えたままでだ」
告げながら、カムラはシタンへと向き直る。
「問わせてもらう。今、お前はどうするべきだと考える?」
「私は……」
シタンは、拳を握りしめて目を伏せた。そんなシタンに、カムラは優しく声をかける。
「苦労を背負わせてすまない……しかし今は、シタン、お前の力がどうしても必要だ。この不肖の兄を手伝ってはもらえないだろうか?」
問いかけに無言で頷くシタンを見て、カムラは悲痛な表情を浮かべた。しかし、その表情をすぐに消し去ると、話題を変える。
「ところで、ミコト殿はどうしている?」
「彼は――」
カムラの質問を受け、シタンは研究室の窓の外に広がるミストルティンの街並みに目を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます