第三楽章 イノリ

Op.26 生物兵器

 王都に帰還したシタンは、カムラの執務室を訪れ、ベリンダの崩落に至る一連の事態を報告し、その責任を取って聖樹士を返上する旨を伝えた。対して、カムラはベリンダが崩落した後も鋼殻竜パンツァーの襲撃が続いていることを明かし、王城に隣接する生物学関連の研究所へとシタンを連れて行く。

 シタンたちが訪れた研究所の一室には、防腐処理を施された二体の鋼殻竜パンツァーの亡骸が横たわっていた。

「結論から言いますと、国内で襲撃を繰り返している鋼殻竜パンツァーは、鋼殻竜パンツァーではありません」

 カムラに促され、研究室に詰めていた生物学者の一人が説明を始めた。

鋼殻竜パンツァーではない……?」

「ああ、いえ、少しばかり語弊がありましたね。鋼殻竜パンツァーではあるのかもしれませんが、一般的に知られている鋼殻竜パンツァーではないのです。ネストの鋼殻竜パンツァー――昨日搬入されたベリンダを襲ったという鋼殻竜パンツァーも、ネストに生息しているものと同種でしたが――それらと系統的に似通ってはいるものの、特に生理的な面で完全に異なる種族であると言えます」

 消化器や生殖器が機能を果たさないと推察されるほどに未発達であるのに対し、牙や爪など、攻撃に要する機能は異常なまでに発達している――生物学者は、アルテシア王国領内で襲撃事件を繰り返している鋼殻竜パンツァーの特徴を列挙した。

「生きるための機能を犠牲にし、攻撃のための機能を進化させた生物……いえ、生きるための機能を犠牲にしている時点で、最早、生物とは言えないのかもしれません。これは個人的な推論なのですが、生物のような兵器、つまり樹械兵ドライアードなどと同じ目的で作られた存在なのかもしれません」

 言葉を切った生物学者に替わり、カムラが口を開く。

「国難は続いている。それも何か大きな秘密を抱えたままでだ」

 告げながら、カムラはシタンへと向き直る。

「問わせてもらう。今、お前はどうするべきだと考える?」

「私は……」

 シタンは、拳を握りしめて目を伏せた。そんなシタンに、カムラは優しく声をかける。

「苦労を背負わせてすまない……しかし今は、シタン、お前の力がどうしても必要だ。この不肖の兄を手伝ってはもらえないだろうか?」

 問いかけに無言で頷くシタンを見て、カムラは悲痛な表情を浮かべた。しかし、その表情をすぐに消し去ると、話題を変える。

「ところで、ミコト殿はどうしている?」

「彼は――」

 カムラの質問を受け、シタンは研究室の窓の外に広がるミストルティンの街並みに目を向けた。

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