第3章 ★ 奇蹟の星
第3章 (1)脱 出 Part①
■◇■〔航行日誌〕惑星暦3039年101日 ログイン ⇒
渦巻きの直径十万光年という広大なる銀河系は、一千億もの太陽を
巨大彗星との衝突は間一髪のところで回避したはずだったが、大爆発の亀裂は
何度も見たオイラの悪夢が、とうとう現実となってしまったのだ。
今日から、シルバーファルコム号の航行日誌を始めるわけだが。いくら船長の任務とは言え、いきなり過酷な運命を綴ることになるとは痛恨の極みだ。
===以上、ログアウト □◆□
「見ちゃダメだぁ! ミーカ、ミーカ、ミーカァ!」
ジーンは掛ける言葉も見つからない。頭の中は真っ白になり、ひたすら愛しい名を叫ぶだけだった。
「いやゃぁー、お父さまぁ! ノベリーナ!」
愛する父と妹を残したまま、旅立ってしまったミカリーナは絶叫した。
ジーンは、そんな彼女の震える頬を必死に抱き寄せた。
真空で起きた無音の大爆発は、目も
大爆発の衝撃の魔の手は、惑星の公転軌道を離脱したばかりの宇宙船シルバーファルコム号まで迫っていた。
【Warning! Warning! 緊急事態。間もなく第一波、襲来。Warning! Warning! 】
突然、赤い警報ランプが点滅し、宇宙船のマザーコンピュータが叫び出した。
「総員、非常事態に備えろ! アーン、コックピットを頼む。サーム、飛行システムの監視を。ミーカ、オイラの腕を離すな……」
ジーンはすかさず指示を出した。
怒号がOPEルームを慌ただしく駆け巡ると、間髪を入れる間もなくそれは襲ってきた。大海の大津波に飲み込まれた帆船の如く、船体はゆれに揺れた。宇宙船は
ジーンは、コックピットを離れ右脇の大型モニター・スクリーンの前に立っていたが、突然
「どうしたんだ、これは? ミーカ無事か?」
「大丈夫よ、ジーン」
ミカリーナは、ジーンの右腕をしっかり
「オォイ、何が起こった? ピーモ」
「ジュウリョクソウチノ、キンキュウテイシ、ダヨン」
アクセスボードから離れたピーモは、ジーンの左肩にしがみ付きながらの応答だ。
警報鳴りつづくマザーコンピュータ『LOQCS-02』は、さらに
【Danger! Danger! 第二波襲来。最も危険な、フェーズ5。Danger! Danger! 】
遂に衝撃波の本体が襲って来た。有視界モニターを見ると、隕石のような破片が降り注いでいるが、船体は持ち堪えている。スーパーボディと強力な磁気シールドのおかげだ。
今直面している重力衝撃波『Cosmic Wave』は、宇宙空間を揺るがすダークエネルギーの
そして最大の揺れを感じた瞬間、船内は真っ暗闇に包まれた。警報ランプも消え、LOQCS-02は沈黙し、不気味な静けさだけが辺りを支配した。
気がつくと、頭上に壁のような平たいものが迫っているのをジーンは感じた。
「ミーカ、大丈夫か? 頭上は壁だ、気をつけろ」
「大丈夫よ! でも暗くて怖いわ」
ミカリーナは、ジーンの腕をしっかり掴んでいた。
ジーン達は、危うく天井にぶつかるところだったのか。ジーンがスペースウォッチのライトで照らしてみると、天井どころか、それは床だった。
暗闇の中、無重力状態がまだつづいている。クルーたちは無事だろうか。
「みんな無事か? 応答してくれ!」
ジーンは直ぐに安否を確認した。
「キャプテン。あたいは大丈夫よ!」
真っ先にアーンの声がした。
「自分も無事だが、何も見えない?」
「ローンも息だけは、してまっせ」
冷静沈着なサームと、おどけ者のローンの声が続いた。
「ボクもウィーナも、セーフリィ!」
最後にビーオの返事があった。
全員から応答があったのでひと安心だ。でも、危険は去ったかどうかまだ分からない。ジーンは念を押した。
「みんな無事でよかった。この暗闇では、まだまだ危険だ。その場を動くなよ」
「もちろんでっせ! 頼まれても、よう動けまへん」
真っ先に
「それもそうだな? オイラも、このざまだ」
先程まで、ジーンの肩にしがみ付いていたピーモの気配がない。
「ピーモどこだ。今度は何が起こったんだ?……おい、ピーモ」
何故かピーモの応答がない。
「ピーモォー」もう一度呼んでみたが、一向に応答がない。
時々見せるピーモの悪ふざけなのだろうか。こんな非常時にそれはないだろう。まさか故障でも……。ジーンの心には一抹の不安がよぎった。
「ピーモー。応答してくれ。ピーモ」
気を取り直して、もう一度呼んでみた。
「……ピーモハ、コ・コ・ダヨン」
「よかったぁ! 驚かすなよ、ピーモ。心配したぞ!」
「ヒジョウカイロデ、ピーモハ、モウダイジョウブ」
「何が起こったんだ? ピーモ」
「ゼンデンキケイトウガ、キンキュウテイシ。タダイマ、チョウサチュウ!」
ピーモは、故障ではなかったので安心した。非常用バックアップ回路が働くまでのタイムラグで応答が遅れたのだ。
ピーモの解析によると、衝撃波が作り出す強い電磁場に包まれたため、一瞬にして電気系統が
暫らくして、非常回路が作動し、ジーンたちは真っ暗闇から解放された。
「サーム、急いで復旧作業に入ってくれ」
「了解、ジーニアウス。強電磁場の影響らしい。安全装置で、一時的に回路が
技術主任のこの冷静さには感心する。どんなコンピュータにも勝るだろう。サームは宇宙船の開発者らしく、誰よりもシルバーファルコム号を
「やはりフェーズ5だったか。危なかったなぁ? とにかく無重力状態では、身動きが取れない。重力コントロールを、すぐに復旧してくれ。アーン頼む」
「了解、キャプテン」
間もなくして警報ランプは消え、LOQCS-02のメッセージが緩やかに流れた。
【All Clear! All Clear! 危険は去りました。非常態勢、解除。人工重力を復旧します。】
ジーン達は、不自由な無重力の
「第二波が去ったから、もう大丈夫。想定通りだ。ジーニアウス。安心してくれ」
少し緊張気味な形相だったサームが、胸を撫で下ろした。
ジーンは直ちに、コックピットへ戻ると、各ポジションの点検作業を指示した。
「ラジャー!」アーンの応答をかわきりに、クルーは各自のポジションへと散った。
「大変! キャプテン。エステムが始動しないわぁ?」
最初に異常を訴えてきたのは、アーンだった。
「ええっ? もう一度、試してみてくれ。諦めるな!」
「ハイ、キャプテン」
任務に忠実で負けず嫌いなアーンは、何度もライムグリーンの始動ボタンを押した。しかし、絶対零度の世界に迷い込んだかのように、メインエンジンは微動だにしない。
「何度やってもダメだわ。キャプテン」
「うーんムッ、困ったなぁ?」
暫らくして、システムチェックを終えたサームが、トラブル状況の報告に来た。
「ジーニアウス、もうダメだ。エステムは諦めてくれ。まだ確証はないが、システム自体の故障ではない。反重力物質が、固まったみたいだ」
「なんだってぇ? 固まった?」
「そうなんだ。エステムに異常は見当たらない。おそらく強電磁場の影響……」
流石のサームもお手上げのようだ。サームは、
「反重力物質の特性だろう? おそらく復旧には時間が掛かる。現状では無理だ」
「そうかぁ? 困ったな」
「ジーニアウス、仕方ない。補助エンジンの準備に入るよ」
「了解、サーム。頼んだよ」
サームは、また顎を擦りながらシステムチェックに戻って行った。
反重力を生み出す物質グラビタイトは、謎のGr元素が主成分で、その性質は完全には解明されていない。Gr元素は反重力を生み出すほかに、量子変換を容易に起こすという特性があった。強力な電磁場の影響を受けて、一時的に
この後シルバーファルコム号は、補助エンジンだけでの航行を
補助エンジンは、圧縮ロケット燃料を使用した旧式のシステムで、パワー不足の上に連続稼動ができない。文字通り補助的に使用するもので、巡航速度は十分の一以下に落ちる。
だが、皮肉なことに旧式エンジンのお蔭で航行が可能なのだ。旧式だからと馬鹿にできない。旧式をあえて補助エンジンに使ったことが功を奏したのだ。サームには
惑星アーロンの大爆発と間一髪のところで、シルバーファルコム号は惑星軌道から離脱することができた。強力な磁気シールドを備えたスーパーボディの船体は、強大なCosmic Waveにも耐えた。『宇宙ファルコン』がその怪物ぶりを、本領発揮したと言っても、過言ではないだろう。
奇蹟の宇宙船は、ノアーの予言が示す『
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