第35話:破壊の宴(2) v0.0

_帝都まで20キロ地点、スカラベ0-1



 「機長。あと数分で敵帝都もどき上空です」


 「よし、わかった」


 無線を手に取り、回線をオープンにする。


 「全機、降下を開始しろ。高度500メートル上空を飛んでビビらせてやれ」


 副操縦士はそれを聞いて、驚愕する。


 「き、機長!それはまずいのでは!?」


 「なーに・・・安心しろ。そのための護衛機だ」


 機長はコックピット越しに見える変態機を指差す。


 「で、ですが・・・。幾ら何でも高度が低すぎます!迎撃されたらこの機体じゃひとたまりもありませんよ!」


 「ま・・・何とかなるさ」


 機長は開き直った顔で呟くと、機体操縦へと専念する。


 「・・・はぁ」


 副操縦士は深くため息をつくと、こちらも操縦に専念するのだった。



_数分後、帝都ディオニスの中心にそびえ立つ皇城



 玉座の後ろに配置された巨大な楕円状の巨大な窓ガラスが印象的な皇帝の間では、一人の男が玉座に腰掛け悩み込んでいる。


 「・・・儂は、疲れた」


 一人の男–––ダーダネルス1世は付近に誰も居ないことを確認すると、一言呟く。


 「一体、どうなっているのだ・・・?」


 昔々、まだダーダネルス1世が子供だった頃。彼の住んで居た国は、非常に貧しかった。度々他国からの攻勢も受け次々と領土を失い、その度民たちは困窮に陥った。そんなことも御構い無しに王族たちは毎日豪華な暮らしを過ごし、少しでも反感を抱けば即刻絞首刑となる。そんな世界だった。


 「確かに・・・国を発展させることはできた。そうなのだ・・・」


 もちろんそんなことを民たちは放っておくわけもなく、一瞬で革命が起きた。その時ダーダネルス1世は先陣を切って戦い、民たちと同じ、『平和で、安心できる暮らし』のみを求め、革命最終期にはトップにまで上り詰めた。彼はその後、己の持つ政治手腕を思う存分発揮し、次々と画期的な政策を打ち出した。


 「だがそれも・・・変わってしまった」


 そこでとんでもないことが起きた。今まで散々侵略行為をして来た国々。それらを併合することを民たちは渇望しだしたのだ。結局民を止める術はなく、この国は果てしなき戦争の道へと突入した。戦争が終わればまた次の戦争。さらに資源が困窮すればまた次の戦争を。それだけが続いた。そして、その日は遂に来てしまった。


「かの帝国・・・『ヴァルティーア帝国』。あいつには、勝てなかったな」


 皇帝はそう言うと、そばの丸机の上に置かれた常用の薬を飲み込む。


 「未だかつて見たことのなかった新兵器・・・あれに対処するため、数万、数十万もの人間が、兵士が死んだ」


 ヴァルティーア帝国の傘下の国に手を出してしまったと言う、最悪のミス。いくら工業力があれど決して埋まらない、圧倒的な技術差。どれだけ倒そうが無尽蔵に放り込まれる大量の人的資源へいしたち。どれもこれも、苦戦した。一つの街を攻略するのに、何千、何万もの兵士を失ったことさえあった。あまりにも大きな国力差を目にした民たちは主戦論から一気に反戦論へと変わり、何とか最後の最後で決定的打撃を与え、休戦に持ち込むことができた。


 「そして次は・・・デルタニウス王国か」


 まだ休戦して間も無く、戦争の傷も癒えて居ない時だった。ハイエナのごとき動きで突如として帝国領に侵攻したデルタニウス王国軍は瞬く間に占領地を拡大し、占領地にいた民たちはことごとく蹂躙・奴隷化された。それに大激怒した民たち、そして兵士たちは怒涛の勢いでデルタニウス王国軍を帝国領から退けた。


 「だが・・・それでは終わらなかった、か・・・」


 今度は民たちは、デルタニウス王国領の占領を渇望した。当然世論に太刀打ちすることは叶わず、デルタニウス王国攻勢へと傾くことになった。


 「それがどうだ・・・」


 デルタニウス王国攻略軍は謎の攻撃によりたった1日で撃退された。工場で大量生産した武器・船舶を用いて上陸するはずだった第二次攻略軍も、たった数隻の敵船と戦いにすらならず敗退した。


 「一体・・・どうすればいいのだ・・・」


 勝利の蜜の味を知ってしまった国民を止めることはできるのだろうか。そう思った時だった。


 ゴォォォォォォォォン......


 「・・・?」


 皇帝の間に響く、謎の音。


 「な、何だ・・・?」


 皇帝は虚ろな顔で玉座の後ろを振り向き、音のする方向–––窓ガラスのある方向を見る。


 「・・・・・・?」


 皇帝は目を細め、音のありかを探る。


 「・・・な!?」


 皇帝は玉座から立って、窓ガラスにへばりつく。


 「あ・・・あれは・・・何だッ!?」


 皇帝の目には、今まで見たこともないサイズの神龍のよう–––だが翼をはためかせていない、何かが見えて居た。



_帝都、市街地


 今まで一度も攻撃を受けたことがなかった街、帝都ディオニスに住む民たちはただひたすら、混乱していた。


 「は、早くしろッ!すぐにここから逃げるんだッ!」


 心の奥底まで刻まれた隣国の刻んだ虐殺の爪痕。ただそれだけが、彼らの心を突き動かしていた。


 「キャァァァァァッ!」


 「邪魔だ邪魔だ!どけ!どくんだ!」


 ある者は我先にと自前の馬車に家具その他諸々を大急ぎで積み込み馬に全速力で引かせ、ある者はそれに危うく轢かれそうになる。さらには騒ぎに乗じて盗みを働く輩まで出現していた。


 「い、いったい何が起こっているんだ!?」


 巨大な何かが発する爆音が町全体を響く中、その轟音を聞きつけて真っ先に西部方面司令部から飛び出て来た西部方面司令官ゲラウスはこの状況を読めずにいた。


 「へ、兵士は!?いったい兵士はどうしたんだ!?」


 治安維持を任された無数の警備兵たち。それすらも見つからない。


 「ま・・・まさか!逃げたと言うのか!?」


 最悪の結末を予想したゲラウスは、上空を轟音を発しながら悠々と飛行する未確認飛行物体を睨みつける。


 「・・・絶対に、逃がさないからな!」


 ゲラウスはそう言うと、再び西部方面司令部へと駆け込んだのであった。

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