第14話:御機嫌よう、海岸警備隊さん! v0.0
_ダーダネルス海峡海戦から1ヶ月後、ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチ
ここ、ロング・ビーチはダーダネルス帝国にとって絶対に死守しなければならない場所だ。もしここを突破されるようなことがあれば帝都まで一瞬にして進軍できる。それゆえにここはありとあらゆる防御対策を施された施設が立ち並ぶ、完全な要塞だ。
「よし・・・今日も敵は、確認できず」
ここの常任警備兵の一人、エイナイは今日も望遠鏡片手に半分土に埋もれた掘っ建て小屋から海の向こうを眺めている。
「全く・・・ここまで静かだと不気味だな」
ダーダネルス海峡での海戦が敗北に終わったことはここ、ロング・ビーチへと一番最初に届けられた。その影響で現在ここロングビーチの兵力は従来の3倍。3万人が常時警戒に当たっている。その中には魔導師や竜兵隊、巨蟲騎兵も存在する。たとえ敵が強襲上陸をしようとしてきてもこれだけの数で対処できるだろう。少なくとも、我々の常識が通用する相手なら、だ。
「ぅん・・・?なんだ?」
エイナイは海の向こうに何かが見えた気がした。
「うーん・・・」
双眼鏡で水平線を見渡す。そこで、エイナイは違和感に気づく。
「なんだ・・・?あれ・・・?」
水平線からチラチラと、何かがたくさん顔を出す。
「て・・・敵?」
敵かもしれない。だがそれ以上に好奇心が勝ったエイナイはしばらくその物体を双眼鏡で見つめる。
「け、煙・・・?」
たくさんの物体の中に1つ、巨大な何かが煙をモウモウと出しながらやってきている。巨大な城のようなそれがだんだんと近づく中、それが持つ多数の大砲のようなものが露わになる。それを見た瞬間エイナイは察した。あれは敵だ、と。
「って、敵だぁっ!」
大声で叫ぶ。何としてもあれの報告を警備隊指揮官に報告しなければならない。何としても。そのために複雑に入り組んだ陣地の中を走る。
「しっ、司令官っ!」
司令官のいる掘っ建て小屋のドアを思いっきり開ける。
「な、なんだっ!?」
「私です!エイナイです!」
「あ、あぁ・・・警備兵か。何か用かね?」
司令官はエイナイに尋ねる。
「のんきにしている場合じゃありません!敵です!敵がやってまいりました!
」
「て、敵ぃ!?」
司令官が驚く。
「そうですっ!敵ですっ!」
「ついに来やがったか!数は!?」
「城のようなものが・・・たくさんです!」
「城!?」
司令官がまたも驚く。
「まぁいい!総員戦闘準備!敵はやってくるぞ!」
『了解!』
うまく欺瞞工作をされた防御陣地に敵襲を知らせる鐘が響く。
「何としても、奴らを迎撃するぞ!」
_同海岸沖、エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ
この超大型戦艦の中央部にそびえる巨大な艦橋の最上部から海岸を眺める二人の人物がいる。
「お、鐘のようなものが聞こえてきましたね」
副艦長フェルナンデスが呟く。
「敵もバカではない、と言うことか」
歴戦の猛者、もとい西部海軍基地提督マルティニスは言う。
「総員第1種戦闘配置!敵からの攻撃に備えろ!」
『了解しました!』
マルティネスの掛け声とともに船員達は慌しく動き出す。
「にしても・・・やはり、1隻だけで攻略するのは心許ないですね」
フェルナンデスの言ったことにマルティニスも共感できた。
「確かに、本来ならその方がいい。だがこの艦、エルナン・コルテスの積んでいる主砲は45口径51センチ連装砲だ。もしこれをイージス艦の近くで撃ってみろ。衝撃波だけでイージス艦のレーダーその他諸々の最新の電子機器は故障する。それに後方に控えている上陸部隊が攻撃されるよりも装甲の分厚いこの艦1隻で突っ込めばなんとかなるだろ?」
「ですが・・・」
副艦長が何か言いかけた時、ブリッジにレーダー要員の声が響く。
『レーダーに感あり!敵航空戦力です!』
「やはり敵は防御陣地を構築している、か。まぁいい、対空戦闘用意!敵が何に乗っているかはわからんが撃ち落とせ!」
_ダーダネルス帝国西部海岸警備隊所属竜兵隊隊長視点
「な、なんて大きさだっ!」
防御陣地から飛び立った竜兵隊20騎は飛び立った瞬間に目視したその船に驚いていた。帝国の港町でも見たことがないその圧倒的な大きさ、そびえ立つ城のような艦橋、どデカイ主砲、そして、何よりも鉄でできた船が浮いていると言う事実は彼らを現実から引き離していた。
「・・・いかんいかん!竜兵隊全騎突撃!奴らの甲板を燃やしてしまえ!」
竜兵隊隊長の合図とともに竜兵隊は降下を開始する。
「そんな距離から撃ったところでぇっ、当たるわけないだるぉっ!」
降下と同時に敵巨大船が発砲を開始する。竜種の個体の中でもジルニトラと呼ばれるこの個体は300キロで飛翔が可能だ。これだけの速度を出したジルニトラを迎撃するのは困難で大抵落とされることはない。さらに体内で生成した火球を1秒に3発放つことができる。火球の着弾時の温度は1000℃にも達し、火炎耐性のついた魔法防具を使わない限り常人ではものの数秒でただの灰と化す。
「くらえぇっ!」
バゴーン!
と言った瞬間、前方を飛翔していた戦友が突如として爆散した。
「ッ!?何が起きたっ!?」
竜兵隊隊長は状況が読めない中、次々と竜兵隊は落とされてゆく。
「まっ・・・まさかっ!対空魔法かっ!?」
敵船の攻撃を凝視する。敵船の円形の物体が放った攻撃は線を描き一直線に吸い込まれるように戦友へと向かい、戦友に近づいた瞬間爆散する。
「っま、まずいっ!全騎退避っ!上昇だっ!上昇しろっ!」
竜兵隊隊長通り、一糸乱れぬ動きで上昇を開始する。上昇が終わった頃には20騎もいた竜兵は8騎まで減っていた。
「こ・・・この数ではどうにもならん!全騎撤退だ!無駄に数を減らすよりもまだいい!」
_エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ
「敵航空戦力、離脱していきます!」
液晶版を見ていたレーダー要員が報告する。
「敵航空戦力の速度はやはり300キロ程度か?」
艦長が聞く。
「はい。旧式の対空砲とはいえ、300キロ程度の速度であれば近接信管を乱用することで程度は戦えますね」
「敵航空戦力が少ないのは謎だが・・・まぁいい。主砲発射準備!」
『了解!』
「よろしいのですか?前部砲塔2門計4門でしか射撃できませんが・・・」
副艦長が艦長に尋ねる。
「まぁ大丈夫だろう。工業地帯に行くついでだしな」
「世界最大最強の艦砲ですからね・・・。とはいえ、慢心は厳禁ですよ?」
「知ってるって」
『砲発射準備整いました!』
ブリッジに砲塔要員の声が響く。
「よし!対空戦闘中の船員は収容完了したか?」
「はい、先ほど収容完了しました」
「よし・・・主砲、発射ァッ!」
ゴォォォォォォォォン!
斯くして、オペレーション アイアン・ストームは始まった。
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