straight
黒珈
第70話
「あなたは……」
駅の反対側にある、公衆トイレの中。
悠生は、記者団から自分を救ってくれた男性の正体を知り、言葉を失った。
「ホント、出来の悪い部下を持つと大変だ」
「課長」
目の前で上着をパンパンはたいている営業課長を見て、悠生はバッと頭を下げた。
「すいませんでした!!」
土下座する位の勢いで、彼はまくしたてる。
「ほんの少しだけ、彼女達の指導をするつもりだったんです。それが、どんどんのめり込んで、挙げ句の果てにこんな騒ぎまで起こしてしまって」
対照的に、課長は無表情だった。
「いかにも」
「クビですね、俺」
そう言った悠生の頭を、課長は思い切り引っぱたいた。
「今の時代、簡単にその言葉を口にするんじゃない」
叩いた右手をさすり、営業課長は言葉を続ける。
「それに、クビになる前に、お前にはやらなければならない事があるんじゃないのか?」
課長は、悠生の右手に握りしめられたサーバーを指差した。
「あ」
「届けてやるんだろ、教え子達に」
「はい、でも……」
こんな騒ぎじゃ、とてもじゃないが会場にたどり着けない。
それに、彼女達もどうなっているか。
悪い方向に考えが向かい、表情が曇ってきた悠生を見て、課長はふうっと大きな溜め息をついた。
「お前に足りないところ」
彼は悠生の手からサーバーを引ったくり、きびすを返した。
「教え子を信じてやれないところ。上司を信じられないところ」
「課長」
「安心しな、今日は天気もいいし、丁度駅伝でも見ようかと思って来てたんだ。部下のおつかいが一つぐらい増えても訳ないさ」
「有り難う、ございます」
出口に歩いていく課長に向かって、悠生は深々と頭を下げた。
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