第84話騒動の起こり

 ーーーーー地下 祭壇の間

 都市の中にあって、有力者だけが住む事を許される巨大な屋敷の地下に作られた地下室

 ここは、一年を通してジメジメしておりカビや人の汗、何かの血の匂い等…

 それら様々な物が混ざり合い、地下室の最奥に設けられた悪魔を模した銅像と合わせ異様な雰囲気を作り出している。


 ここは、見ての通り人の幸せや平和を祈るような場所では無い。

 ここで祈るのは悪魔王の帰還と人類の滅亡であり、この世界に生きる者達の災悪だけだ。


「…教主様、ついに悪魔王様の復活が目前と迫っております。」


 全身を黒いマントで覆い、目と口の部分だけに穴が開いた異様な人物が、祭壇を背に座る貴公子然とした男に跪き報告する。

 その口調は、とても良い事が起こったと言わんばかりで、嬉しさを抑えるのに必死といった感じだ…


「そうかそうか…くくくっ。我ら人類の祖であるアッダムの一族も、さぞ狼狽えているであろうなぁ」


 豪奢な椅子に座り足を組む男も嬉しそうにその報告を聞き感慨に耽る。

 その様はまるで、田舎の家族に祝い事でも起こったかのよう

 静かに噛み締め神に感謝するようにも見える


 教主と呼ばれたその男の美麗な容姿も相まって、場所がこんな所で無ければ本当に良い事が起きるのではと錯覚してしまいそうだ。


「しかし、同時に不穏な動きもございます。なんでも、あの新侯爵が大森林へ向かったとの報告が…」


「その話は、あの男からのモノか?」


「…左様にございます。」


「ふむ。」

 そう言うと教主ラクシャスは整った眉を寄せて、自身の頬を優しく撫でる。


 始まりの種として生まれ落ち、得意稀な能力を持って生まれた彼には、人としての常識的な判断等は期待できない。

 ただでさえ異質な種族でありながら、家の掟に背き一人反旗を翻す彼の信条は「絶対の死」と「自分が面白い事」この二点のみでたる。


 そこに義理や人情等は期待できる筈も無く、彼の行動はぶっ飛んでいる…


 拉致誘拐に人身売買

 親子で殺し合いをさせ生き残った方をモンスターに喰わせる

 冒険者を集めてのバトルロイヤル

 街を丸ごと石の彫刻に変える

 モンスタートレインを使った都市への攻撃etc


 この他にも口に出すのも憚られる事はいくつもある。

 たまに奴隷を解放したり、病気や貧困から救ったりと人道支援的なこともするが…

 最終的にはロクな事にならないのが殆どだ。


 彼にとって「人の命」等は取るに足らない。

 それどころか、自分の命すら大切にする気は無い。


 しかし、彼のバックボーンと奇行に興味を持つ者が現れ、その中にたまたま恩恵を受ける者が出てくる。

 それらの人間が彼に付き従うようになり、熱狂的な支持者へと変化していき彼の周りに集まりカルト集団が完成した。

 そして一部の爪弾き者達は、そんな信者達を隠れ蓑として犯罪組織を作り上げて行く。

 それがラヴァーナ教であり餓狼蜘蛛という組織の成り立ちと言う訳だ。



「……贄を用意せよ。宴を始めるのだっ!」

 ラクシャスは思慮深い表情をしていたかと思うと一変し、面白い事でも思いついたように美麗な顔を醜悪に染め支持を出す。


 機械じみた声で当然のように命令を受け取ると、黒マントの男は闇の中に溶けるように消えて行ってしまった。



「悪魔王の復活、秩序の崩壊、抗えぬ死か…お前の望むままにか?」

 そして先ほどの部下と入れ違うように闇の中から現れた人影が、ガラガラの聞き取りづらい声で問いかけてくる。


「貴様かっ…私に望みなど無いさ。あるのは成るべくして成る世界の有り様だけだ」


 特に驚く様子も無くラクシャスが答えると、全身をボロのローブで覆い隠す人物は、その答えに歓喜するように紅く光る目の奥を輝かせた。


「世界の有り様は滅するのみとは、実に愉快な事よ」


「貴様達は来るべき時に備えれば良い。何処の誰とも知れん者にやられたりするなよ?」


「ふははは…人に心配されては我等も立つ瀬が無いと言うものよ」


 適当に返事をしながら話に興味を無くしたラクシャスは、人や種族、善と悪など何かに縛られるのは馬鹿らしいと考える。

 この世界は誰の物でも無く全て無に帰すべきと考えているからだ。


 幼い頃から特殊な環境で育ち、様々な事象を観測してきた彼は「生き物」と言う括りに我慢がならない。

 常に全てを破壊し尽くし静寂を作り出すべく活動する彼は、自分自身にすら興味を見出せず、ただ終焉を請い願うだけ…


「星降りか…あれ程の力があれば無駄な物全て排除して釣りが来るのだかなっ」

 己の両手を見つめながら呟き、掌を握りしめる


「我らの眷属達もその時の為に死力を尽くしておる。もうじき…もうじきだ」


 ラクシャスとは違う気持ちで両手を見つめ、黒く尖った指を握ると、フードを少し持ち上げ「吉報を待て」と言い残し文字通り消え去った。



「…悪魔か。奇妙な奴らよ…まぁ私には関係の無い事だがなっ!」


 少しの間、悪魔が消えた空間を見て呟くとラクシャスは教主の座へと深く腰掛けた。

 到底人とは思えぬ黒く淀んだ目を輝かせて。










 ーーーーーートプの大森林


 自然と融和する里の中に造られた簡素な会議用の小屋に招き入れられたユウト一行

 幼い風の妖精ジンが興奮気味にユウト達の戦いぶりと、ほんの少し自分の冒険譚も交えながら饒舌に観衆へと言葉を紡いでいた。


 対する聞き役をしている長老妖精のシャシャと青年妖精ググは正反対の反応を示す。


 少し驚きながらもウンウンと頷き、時に声を上げてジンを讃えるググ

 この森で起きた事件を思い、頭を抱えながら力無く頷くだけのシャシャ


「いや〜俺達は困ってたから助けただけで、別に首を突っ込む気は無かったんだよ?今日だって妖精のイカレ…ステキな王女様に会いに来ただけなんだ。」


「ほぅ。王女様をご存知とな?もしかしたら、貴方方が聖女様が予言された勇者殿とそのご一行であったり?」


「えっ、い…ぃゃちが」

「その通りです!!このお方こそ、全ての頂点に立たれし勇者、ユウト様です。」


 長老から嫌な気配を感じてしらばっくれようとする俺の気持ちを無視して、ティファが立派な胸を張りながらドヤ顔で紹介してくれる。

 長老と青年は驚いた顔をして姿勢を正し始めた…いやな予感しかしない


「これは大変失礼を…で、勇者様にはこの森で起こっている不穏な動きについて聞いて頂きたいのですが」


「……はぁ、分かったよ。やれる範囲だけな」

 恨めしい顔でティファを睨むと、親指をグッと立てていい笑顔で視線を返された。

 …一体、俺をどうしようと言うのだろうか



 諦めて長老の長話(お願い)を聞いた。


 どうやら、少し前に一体目の巨大な悪魔が森に出現したらしい。

 その悪魔は森を破壊しながら精霊王を狙うが、エレメンタルガーディアンに追い払われたので、ジンが持つ石板をもう一体の悪魔と共に狙い強奪。

 石板を守護している里の戦士と、たまたま居合わせたジンが奪い返す事に成功。


 大きい方の悪魔はさらに森の奥へ進み、小さい方の悪魔はジンを追いかけ俺達と遭遇し殲滅される、と言った内容だった。

 …これだけの話を聞くのにおよそ三時間も掛かっていて、ジンがウトウトしてしまっていたのもご愛嬌だろう。



「…長老、お客人もお疲れでしょう。少し休んで頂き、王女様の元へ行き再度封印して頂く事にしては?」


「ん?おっ、おぅ、そうかそうか…まだ話し足りんが、そうしてもらおうか」


 …おっさん、まだ話す気だったのかよっ!


 俺達はググの申し出に飛びついて、話を切り上げて小屋を後にした。


 それから案内されたのは、原っぱみたいな所だった。

 日除けの為に木々の隙間から簡素な布が屋根の代わりに吊り下がっている。

「精霊族の里のでは我らも獣族の者も、基本寝床を持たないので申し訳ないのだが…」

 と、気まずそうにするググにお礼を言い大自然の中に皆で寝転ぶ。


 はぁ、なんだろうか…

 まだ俺が元気少年だった頃を思い出すな。

 あの頃は「野っ原」と言う場所が沢山あったし、疲れたら汚れるのを気にする事もなく友達とゴロゴロと転がったもんだ。


 まさかこの精神年齢になって、この感触を味わうなんて…

 柄にも無く、ウキウキとした気分になってしまった。


 俺の普段見せない態度に皆は少し驚いていたけど、拒否る事も無く笑顔で受け入れてくれていた。


 …俺は本当に素敵な仲間達に恵まれたと噛み締めながら眠りについた。

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