第81話それぞれの決着
「うふふっ〜!…危うくイク所でしたよぉ。まったく、我輩の邪魔をするのは一体どなたでしょうかねぇ?」
「子供に手を出すなど許しません。ユウト様の名の下に成敗してあげましょう。覚悟しなさい、デーモン!」
魔法によって吹き飛ばされた悪魔(デーモン)は、口の中に入った砂をバリバリと噛みながら起き上がって来る。
対するティファは、子供の妖精を背後に隠すと、剣を抜き放ち身体強化を始めた。
その姿を見たデーモンは見れば誰もが嫌悪感を抱くであろう顔を笑顔にすると、自身の背に生える翼を大きく広げ自己紹介を始める。
「我輩は悪魔界序列四位のバフォメトであーるっ!愚かにも楯突こうと言うのであれば…イカせてあげましょょおっっ!」
悠々と自己紹介したかと思うと広げた翼を伸縮させ突進を繰り出す。
しかし、その程度ではティファを崩す事など出来るはずも無く綺麗に受け流される。
「はぁぁっ、ホーリースラッシュ!!」
「イィッ!?うひゃひゃひゃーびゃっ」
お返しにと放たれたティファの聖属性が宿ったラッシュを必死に避けるが、全てかわす事は出来ずドス黒い何かを噴き出しよろめくバフォメト
「こ、この力…思い出しますねぇ。遥か昔に我々一族を蹂躙した、プレイヤーと呼ばれる者たちぃぃっ!」
感情の起伏が激し過ぎる悪魔は、体の傷を修復しながら闇の範囲魔法を放つ
「…ふろすとのゔぁ」
バフォメトを中心に発生した黒い霧が、周りを呑み込まんと拡大しようとするが…
レアの魔法はそれすらも捉え全てを凍てつかせる。
「…で、ボクは一体何者なんですの?その石板は何でして?」
「ボ…ボクは」
石板を抱えながら凍りつく悪魔を唖然と見ていた少年にメリーが質問しながら立たせてあげている。
ピキッ…ピキビキッッ!?
「…イィックゥゥッッ!!」
「「なっ!?」」
凍りつき完全に沈黙していたと思われたバフォメトは、レアの拘束を破ると上空に飛び上がった。
しかし、ダメージは甚大な様子だ。
翼を羽ばたかせながらも肩で息を切る姿はかなり弱っていると言えるだろう。
それでも戦意は衰えないのか、まだ逃げる気は無いように見えた。
「往生際が悪い虫ケラですわ。胡蝶蘭撃っ!」
呆れながらもメリーは両手にクナイを取り出すと、スキルで威力を上げて上空のバフォメト目掛けて一斉に投げ放つ
「…さんだー…スピアッ」
まるで矢のような速度で飛ぶクナイ達にレアの雷撃魔法が掛かると、もはや銃弾とでも言えるような凶悪な物に変化し襲いかかる。
…ドスドスドスッッ!!
一瞬の出来事にバフォメトは声を上げる事すら出来ず、体と翼を貫かれ地面に落下した
…グチャッ…「…ウグググッ」
不快な着地音と共に唸り声が漏れる
四肢を吹き飛ばされた穴だらけの体では、落下の重量から身を守る事も出来ず、痛々しい音と共にその身を地面に叩きつけるだけだった。
「ぐぐっ……ゴポォッ、くくくくっ」
「聞く気は無いが、命乞いはしないのか?」
ティファは冷たく言いながら、ゆっくりと虫の息であるバフォメトへと迫る
「はぁ〜っはぁ!ばはっ…イイですねぇ、あのお方の命令を達する事ができないのは残念ですがぁ…まぁ、イイでしょう。」
口から血のような液体を撒き散らし笑うバフォメトの言葉は、まるで独り言のようだった。
ある意味観念したと捉えられる言葉を聞きながら、ティファはその手に握った剣を振り上げ逆手に持ち直す
「ィィでしょう…泣き叫びなさぁい。逃れられぬ死(デッドオブエンド)!!」
「なっ!?」
ティファの驚く声と同時に、飛散していたバフォメトの血が黒い霧となって辺りを包む
……
そして霧が晴れると、皆の頭上にはドクロを象った霧が浮かんでいた
「…ユウトさんっ!これは死の呪いです!!」
「最後の悪あがきってやつか…」
悪魔の特殊能力の中には厄介で協力な物が多く存在する。
このデットオブエンドもその一つで、自身の命と引き換えに周囲の敵を一定時間後に即死させるスキルだ。
…ゲーム始めた頃は必死こいて倒したのに、これ食らって全滅してクエストクリアできずとか良くあったな
「どうしよう、お兄ちゃん!?」
「ユ、ユウトさん、このままじゃ全員っ…」
慌てふためき涙目になるシャルとルサリィを見て、満足そうに笑うバフォメト
対して「それがどうした?」と言う表情で三姉妹達は慌てる様子も無い。
妖精の少年に至ってはポカンと口を開けたままフリーズしており、頭上のドクロとのギャップに思わず笑ってしまいそうだ。
「…冥土の土産に見て逝けよ。リロードオン、アリアーシャの聖杯!」
俺はニヤリとしながら消えかけのバフォメトに呼びかけ、アイテムボックスから金色に輝く杯を取り出す。
一体何をするのかと訝しげに俺の様子を伺うバフォメトの両目が見開かれる。
杯に満たされた、うっすらと光を放つ水を自分含めた全員に振りかけてやると、頭上にあった「絶対の死」を現すドクロは…
何事も無かったかのように霧散して消え去る
「なっ!?…貴様、イったい何をっっ!?」
「聖女アリアーシャの力が込められたS級アイテムだよ。ソロプレイが基本の俺からすれば、その程度のトラップは対策済みだって事。」
俺がアイテムを使う事は承知していたようで、俺よりドヤ顔をしている三姉妹が頷いている。
「幾度となく死線を越えられて来たユウト様に、悪魔如きの悪巧みが通じる訳が無いでしょう?」
そう言い放つと、絶対の信頼を持った表情で俺に笑いかけてくれるティファ
…うっかりして、何回か全滅したゲーム時代の事はノーカンにしてくれているのだろうか?
「ぐぅおのれぇぇえ!人間風情がぁぁっが…がかっ…」
バフォメトは悔しそうに叫んでいたが、なにかを起こす力が残っている訳も無く、その体を黒い霧に変え霧散した。
「…ふぅ。終わったかな?」
「怖かったぁぁっ」
「ルサリィちゃんの言う通りだよぉ」
解呪のアイテムがある事を知らなかった二人が安堵の声を漏らしながら、恨めしそうな顔で睨んでくる
「お見事ですわ。ユウト様」
「お、おぅっ…あは、あはははっ…まぁ、俺はほとんど何にもしてないけどな」
何事も無かったように褒めてくれるメリーに乗っかって、シャル達の視線は無視しておく事にした。
「あ…あのぉ…助けてくれて、ありがとうございましたっ!」
クマのヌイグルミでも持ってそうな抱え方で、石板を大切そうに抱く少年
昔からファンタジー物には欠かせない、まさしく妖精と言った羽の生えた可愛い系の少年が大袈裟にお辞儀をしていた。
「…乗りかかった船だ。話を聞こうか?」
ーーーー剣神流道場 奥の間
其処には静寂と激しい呼吸音だけがこだましていた。
「はぁっはぁ、はぁっ…」
…カチッ
刀を握り直した音が、その空気を切り裂くように金切音を上げさせる
カンッ!ガギンッ!!
「ぐぅっ…はぁはぁはぁっ」
辺りには鉄の匂いが蔓延しており、その原因は道場の床は飛び散った血液だ。
「…はぁはぁ。ま、まさかここまでの差とは…いやはや、参ったでござるな。」
「…降参しますか?」
身体中から血を流し呼吸の新いバルゲルに対して、ジゼールは涼しい顔で聞き返す。
「ほざけ…拙者、最強の一撃で床に沈めてくれようぞ!」
「自分…いや、俺は逃げていた。剣の道だってソコソコ強くなればイイやって。楽して暮らすため、差別無く恵まれた環境で雇ってもらうための手段だって」
呼吸を整え次の一撃に賭けるバルゲルを待つかのように、ジゼールは自らの考えを吐露し始める
「だけど…だけど違ったんだっ、俺はコレだけは誰にも負けたく無かったんだ!師匠…ガリフォンと言う偉大な男にも負けたく無かった!」
「…お主の親御様になった覚えはごさらんぞ。言いたい事は剣で語るが良いっ!」
「だから逃げない、この道で俺は最強になるんだ!誰にも負けたく無いっっ!!」
まるで自問自答するかのようなジゼールに、バルゲルは静かに刺突の構えをとる。
対するジゼールは、言いたい事は言い切ったという表情で、何の力みも無く下段に構えをとった。
…
……
バルゲルが左手を前に突き出し刀を握る手に力を込めると、体制を少し前のめりに移行する
「奥義、光芒一閃」
先に動いたバルゲルの体は一瞬光ったかと思うとジゼールの眼前まで迫っていた。
「…奥義、万里一空」
二人が刹那の交差を交わすと、辺りを一瞬の静寂が包んだ。
…バシュッ
体の一部である肩から先を失った腕の付け根から血が吹き出る
…バチャッ!
吹き出る血溜まりに腕が落ちて、横に刀が刺さる
ジゼールは刀を鞘に収めると、振り返りプリステラに治療を求めた。
もちろん放っておけば確実に死ぬであろうバルゲルの事だ。
「部位欠損までは治せないわよぉ〜」と、軽く答えて治療魔法を掛け始め、ベアーレも側で様子を見守っている。
「「師匠!!」」
「「ジゼール師匠!」」
押し黙っていた門下生達が、バルゲルを圧したジゼールの元に集まり囃し立てる。
この日…バルゲルは腕を無くし、ジゼールは信頼を得る。
そして、名実共に第13代剣神流当主となったのであった。
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