第76話邂逅と和解 後編

 

 アスペルの屋敷を出発し、およそ1日強でグデ山を越える所まで来た俺達救出班の七人は、メリーの報告にも出てきた俺の新領地(仮)に足を踏み入れていた。


 何だかんだ、ガチで帝国領内に乗り込むのは初めてだから緊張するな…


「…長閑な所ですねぇ」


 俺の心を他所にシャルが呟く。


「そうですぜ、シャーロットの姉さん。ここいらは主に合戦時に使う為の場所なので、基本何も無いんですよ。」


「はぁ、だから姉さんはやめて下さいって!…ユウトさんもニヤケて無いで何とか言って下さい!」


 雑用兼護衛でついてきているベイリトールの部下で分隊長をしているサジとマジの姉さん攻撃に苦笑するシャル


「…ユウト様、あれがガリフォンでしょうか。」


 常に警戒を怠らないティファが遥か先に人影を見つけたようで、その方向を指差す。


 俺は遠見の筒を取り出し指差す方向を確認した…いる。

 多分あれだ。


 直接見た事は無いけど、いかにもって感じがするし恐らく強者のオーラみたいなのも出てるんだろうな


 ティファにも確認してもらうと、物腰からして間違い無いだろうと言う事になり、少し迂回して国境を目指した。

 幸い時間に余裕はあったので問題なく国境まで行く事ができたが、一体何目的であんな所に居座っていたのだろうか?



 しばらく歩き国境に着くと、国境線を守護している関所はかなり雑な作りになっていた。

 商団を装って入国手続きを待つ間に暇そうな兵士から話を聞くと、王国に負けて国境線が変わってしまい急ピッチで仕上げたから、杭と鉄線だけのお粗末な作りになったらしい。


 しかも、元剣聖でどこの国にも所属しないガリフォンが国境線に出現した為、気が気では無い状況になっていると疲れた顔で教えてくれた。

 座り込んで既に一週間くらい経つらしい…



 とりあえず無事に国境を抜ける事ができ、王都に着いたタイミングでメリーからも連絡が入った。


「ユウト様思ったよりも敵兵の数が多いですわ。通信アイテムがあると仮定しましたら襲撃はすぐ漏れますかと…」


「でも、メリーに任せれば国の奪還は問題無いんだろ?なら、タイミングさえ合わせれば大丈夫だな」


 …なぜか今回は上機嫌で通信を切られた。


 それから一日、メリー達の準備が整うのを待つ事になり…

 ついに、その時は来た。


「大旦那、準備が整いました!メリー様は景気付けに一発デカイのを放ってるので作戦開始でお願いします!」


「分かった。ベイリトールも気をつけてな!」


 通信を切ると全員に作戦開始を伝える。


 事前に取り決めた通り、まずは王城内に入ると三手に分かれてアスナ探索に向かう。


 本来、城に入るには高い壁と門番をクリアしないといけないが、コハルが城内への地下通路を発見していた為、入城までノーリスクで進む事が出来た。





 ーーー地下牢獄 サジ、マジコンビ

 戦争や犯罪などで捕まった帝国法で罪人と呼ばれる人々が捕らえられている牢獄の並ぶ地下通路を歩く、歴戦の冒険者然とした二人組が歩く。


「マジよ、こりゃハズレだな」

「おおよ、サジ」


 カビ臭く、あちこちから呻き声のような物が聞こえる通路を進むが、特段重要人物を捕らえている場所は無さそうだ。


「警備も薄いし、この設備じゃ80lvオーバーの奴を捕らえとくのは無理だな」


「おおよ…いや、あの一番奥見てみろ?あそこだけ造りが違うぞ」


 牢番は既に倒して牢屋に放り込んでいるので問題無いが、罪人達が煩いので引き返すべきと判断しかけた二人だが、奥にある特別製の牢屋を見つけて歩みを進める。


 すると、そこにいたのは…




 ーーー特別貴賓室(強)

 いかにもVIPを泊まらせる為の部屋みたいな名前が付けられたこの貴賓室は、その名とは裏腹に複数のアイテムで封印が施された特別製の牢屋である。


「…アサルトフロート」


「レアちゃん!身隠しのアイテム貰ったんだから、もうちょっと穏便に」

「シャーうるさい…うんが良ければ生きてる…たぶん」


 隠密と言う言葉を知らないレアと、人に振り回される属性を持つシャーロットが問答無用で進んで行く。

 幸いにも、レアが騒がれる前に全てぶっ倒して行くので、以外と騒ぎにはなっていない…が、メイドだろうが見回りの兵士だろうがお構い無しのやり方にシャーロットは戦慄を覚えクレームをつける。


「…ここ…ぶっとば…す」


「ちょ、ちょっと!レアちゃんっ、ここはダメ!中の人まで巻き添えで死んじゃうよ?」


「…めんど…おなか…へった」


 扉をぶち壊そうとするレアに、「またいつものが始まった」と心の中でため息を吐きつつも、この時のためにユウトから渡されていた、罠と扉鍵を解除できる「お忍びセット」を使い部屋の扉を開けた。


「なんじゃおぬしらは…?」


「…あなたはっ!?」

「…」







 ーーー王座の間


 その国で一番偉い人間が座り、様々な決定や祭事が行われる最も大切な場所の一つである「王座の間」の前に、王国勢力の人間であるユウト率いる一行が現れる。


 襲いかかってきた門番達をティファとコハルが沈黙させつつ、帝国の紋章が刻まれた重厚な扉を開け放つ。


「なっ!?一体なにごと…」

「貴様ら!どこから入った!」


 突然の来訪者に室内を警護する、皇帝の身辺警護部隊ロイヤルガーディアン達が騒然とする。


「おやぁ?貴方方は…お久しぶりですねぇ!ユウトさん、これは我々の元に来る気になったと捉えてよろしいのですかな?」


 俺と共に居るコハルの姿を見て、ニヤニヤと見当違いな事を言う帝国宰相カリオペ


「見れば分かるだろ?まだ叩かれたりないようだから、こっちから遊びに来てやったんだよ」


 その場から一歩前に踏み出し懐に手を入れる。

 誰も居なければ部屋の警護兵だけを片付ければ良かったのだが、どうやらそうも行かないようでツいてない。


 だが、何故ここに来たかと言うと、アスナが捕らえられている可能性が一番高い尖塔牢には、この王座の間を抜けて行くしか道が無いからだ。


 一応、常時王座の間に人がいるとは限らないので運が良く抜けれれば…と、扉を開けたが結果的には大当たりとなってしまった。


「ふんっ…小僧が生意気な。多少面白いと好きにさせてやったら、随分と我が下僕達を殺してくれたらしいな」


「先に手を出したのはソッチだろ?俺たちにとっちゃ良い迷惑だったんだよ!」


 憤る俺に皇帝は面倒くさそうな表情を浮かべると、顎をしゃくり部下達へ指示を飛ばす。


 それを受けて俺たちの前に立ちはだかるのは帝国四将、天撃のアレスに堅牢のドーン…

 いずれも俺達に一度破れているせいか、えらく憎しみのこもった表情でこちらを睨んで来る。


「今回は野戦では無い。陛下の御前で醜態を晒す訳にはいかん!」

「ドーン将軍、今この場で警戒すべきは、あの女聖騎士一人です。」


 俺とコハルは戦力外通告を受け、二人でティファを狙おうと話し始める。

 レベル差を考えると2対1でもお釣りが来るが、流石にアイテムを多用してくるだろうからティファも油断は禁物だろう。


「ご心配無く!君達の相手は用意していますよ?」


 カリオペが無用な気遣いをし誰かを呼ぶ。

 尖塔牢に繋がるであろう入り口から姿を見せたのは、燻んだ金髪で片目を隠し、これまた燻んだシルバーの軽装鎧を纏った性別の判りにくい剣士だった。


「【疾風】のジェシー・ジーンだ。死なない程度に相手をさせてもらう。」


「やりたくないなら無理に参加しなくても良いんだけどな。」


「気を付けなさい、コイツはスライムを使います。」


 コハルの言葉を受けて、ジェシーは髪の毛で隠れている左目の部分に手を当て暗く笑う。

 …スライムを使うとは何の事だろうか?

 剣士っぽいが実は召喚士的なジョブを持っている。とかだろうか?


「それにしても、お元気そうですねぇ…コハルさん?」


「っ!?」


 元身内の能力を明かそうとするコハルにカリオペアが待ったをかける。


「ういろうにシュウト、そしてユウトッ!!いやぁー随分と尻の軽い女だっ!手を替え品を替え主人を替え…おぉー怖い怖い」


「貴様、だまれぇっ!!」


 怒れるコハルが咆哮と共にカリオペア目掛けて突進する。

 当然、行く手にはロイヤルガーディアンが立ちはだかるが、10〜15LVも差があると簡単に止める事は出来ないようだ。


 しかし、その様子を冷静に観察し笑う帝国の知恵者は手の中のアイテムを発動する。


 …ガギンッ!

「ぐぅっ!?」


「捕らえよ、四十縄!」


 皇帝とカリオペアの前に展開される光の壁にコハルの突撃が止められると、そのまま設置型の罠を発動され光る鎖に四肢を絡め取られてしまう。


「…くそっ!こんなモノ……ぐうぅっ」

「リロードオン、盗賊の小瓶!」


 コハルを助けようとアイテムを発動するが、それにジェシーが反応する。


 ドスッ…

「ふっ…甘い甘い」


 罠を解除する為の小人はコハルの元へと走るが簡単に倒されてしまい、慌てて次の手を考える


「くそっ、火龍の牙!…ゴーレム俺とコハルを守れ!」


 俺は握っていた牙が消えるのと同時に走り出し、『ゴーレムの心』を使って創り出した大理石ゴーレムを盾に自らコハルの拘束を解きに向かう


「「ぐぅわぁぁっっ」」

「くっ…だけど、私を焼くには火力が足りないよ!サンダースピアッ!」


 火龍の炎は、兵士達には行動不能なダメージを与えたが、四将の一人であるジェシーには大したダメージを与えられなかったようだ。

 ゴーレムを叩きながら走る俺に向かって魔法を放ってくる。


「大人しくしてろよなっ、リフレクションシールド!」


 魔法を弾く盾をかざし何とか雷の矢を打ち返すが、ゴーレムの背に吸い込まれてしまう。


 だけど、その隙にコハルの元に辿り着く事が出来『忍びセット』で罠を解除してやる。


「申し訳ない、熱くなってしまった…」


「反省は後だ、俺はあのヤラシイ奴を何とかするから、お前はあの女将軍を頼むよ」


「…承知した。」


 その言葉に頷くと俺は光の壁に守られながら観戦するカリオペに対して、ゴーレムの壁を作って嫌がらせを発動する。

 …ゴゴゴッッ!

「…なっ!これでは戦況を楽しめ無いではないですかっ!!」


「見えん!小僧っ!!」


 文句を無視してコハルの加勢に向かおうと振り返ると、見るからに劣勢な状況が目に飛び込んで来た。


「くらえっ!アンギヌスの弓!!」


 雷魔法のライトニングスタンを矢の形状に変えて一気に放つ事ができるアイテム弓を使い、周りにいた兵士達を沈黙させるとジェシーがこちらを睨む


「…貴様の相手は私だっ!」


「ふっ、あなたでは役不足よ」


 コハルの攻撃を軽くいなしながら、ジェシーは手を顔に当てると何かを俺に向かって飛ばして来たっ


「なんだこっ…うわっ!!」


 ジェシーから飛んで来たのは意思を持つ透明な液体ことスライムだった

 ソレは俺の頭にまとわりつくと、人間の生命活動に必須の酸素供給と言う術を奪ってくる。


「ぅ…ぶぁっ…ぐ……」


 俺は酸素不足でパニクって助けを呼ぶことも、液体なので掴んで投げる事も出来ず苦しさで意識が朦朧とする…

「ま……ます…さいっ」

 微かに聞こえて来た声に、用意していた魔除けのアミュレットを何とか発動させコハルの放ったボムを無効化した、と同時に俺の顔に衝撃が走る。


「ユウト様ぁっ!…ご無事ですか?」


「…あぁ、陸上で溺死するとこだったよ」


 ティファに抱き支えられて軽口を言う俺を見て、ティファの顔が安堵の表情から修羅の顔に変化していく…



「……貴様ら…許さんっ!!」


 ティファは俺とコハルに尖塔楼へ向かうように指示すると、敵全員を受け持つと言いだす。

「そんなの危ないからダメだ!」

 渋る俺をコハルが掴んで尖塔への階段へ向かう。

 …くそっ、俺に力があればあの程度訳ないのに!



 そのまま引きづられるように階段を登り、細い通路を進むと牢屋が見えてくる。

 まさに天空に作られた個室って感じで、牢屋じゃなければオシャレにすら感じるな…


「罠があるでしょうから私が」

「いや、さっき使ったアイテムの使用回数残ってるから俺が開けるよ。」


 コハルを助けた「お忍びセット」を使って、鉄製っぽい格子扉の鍵と罠を解除していく。


 …カチリ、ガチャッ


 扉が開き、コハルが我先にと俺を押し退けて部屋の中に入る。

 俺も続いて中に入ると室内を見回した。


 中はそこそこ広くて、八丈一間のワンルームくらいなサイズだ。

 部屋の奥に無造作に盛り上がった布団があり、コハルがそこを調べようとしている。


「…アスナ、私です。コハルです。」


 まるでこわれ物でも触るかのように進捗な手つきで、コハルが恐る恐る布団を剥いでいく…


「……っ!?」


「なっ!?ど、どうした?…何かあったのか?」


 コハルの様子に嫌な予感を持ちながら問い掛け近づく

 ツンとカビ臭い…

 布団には赤黒く変色した血痕がある


「なんて酷いことを…辛かったねアスナ、もう大丈夫だからっ」


 裸に剥かれあちこちに生傷を作った栗色の髪の少女を抱きしめる


「…この子がアスナか。あいつらマジでクズだな、捕虜は丁寧に扱うもんだろ。」


「えぇ、私が…私の手で始末してやる」


 無表情に抱きしめられるアスナで顔は見えないが、コハルが般若の形相になっているだろうことは語気で感じ取れる。


 俺の薄い人生経験値ではこんな時、男としてどう振る舞えば良いのか分からず「あぁ…」と生返事をするのが精一杯だった。



 アスナにシーツを破いた服を着せ、コハルが突然俺に土下座してくる。

「ユウト様、アスナにポーションを使って頂けませんでしょうか。私には回復魔法もアイテムも手持ちが無く…」

「い、いやいやいやぁふぇっ…もちろん使うさ。」

 思いっきり舌を噛みながらも当たり前に引き受ける。


「…それと、一つ提案があるんだが。」


 エクストラポーションを渡しながら、俺はコハルに提案する。

 この状態で彼女をシュウトに合わせる前に、俺ができる最大限の提案を…

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