第56話作戦のために①

「あのぉ…僕達は、お家はあるのかな?」


「…ううん。無い」

 民家と民家の路地裏に座り、ふるふると首を横に振る少年は、シャルの質問に無表情で答える。


「…じゃあ、ウチにくるべき…」

「僕達、ここにいるよ…」

 レアが、新しく作る孤児院に来るように誘うが、少年達は頑なに首を振り、行かないと告げて来る。


「ご飯も、寝る所もあるよ?君達のような仲間もたくさん居るから楽しいよ?」

「……」

 少年達の後ろに隠れていた少女の獣耳が、ご飯の言葉にピクピクと反応しているのが見える。

 後ひと押しかと、シャルが「一緒にご飯を食べましょう?」と天使の笑顔で少女を誘うが…


「ぅ…ひっ!」

 シャルが伸ばした手を取ろうと、少女が手を出しかけたが、突然、顔が引きつり手を引っ込めてしまう。


 シャルが驚いて理由を尋ねるが、少年達が女の子の前に立ちはだかり、これ以上の追求はさせてもらえそうに無い…

 三人は少年達に謝ると、その場を後にするしかなかった。



 …

「はぁ…一体、何がいけないのでしょうか」

「ほんとだねぇ…シャルお姉ちゃん、優しく言ってるのに、あんな感じの子ばっかりだねぇ」

 ルサリィの一言に、もしや自分の顔が子供達にとって恐ろしく見えてしまっているのではと、両手で顔を覆いながら「うぐぅ…」と声をもらすシャル。


「…なまいきなガキは…全部凍らし」

「ダメーッ!」

 レアをルサリィが嗜める。


 レアの物騒な発言は無いにしても、復興作戦が始まって一週間近くが経過しているにも関わらず、肝心の子供の集まりが良くない。


 …ここまで、500人近い子供に声を掛けた結果が、


 ルサリィ……30人

 シャル……5人

 レア……1人 (半分強制)


 まったく話にならない状況だ。



 孤児院設立に一番と言えるくらい気合いが入っていて、喜び勇んで子供達を誘う役を手伝いに来たシャルでさえこの結果だ…



 …ヤバイ、ヤバイです。

「ユウトさんじゃ人が集まりそうに無いですから、私が行きますね!」とか言っちゃって、勧誘係に回してもらったのに、ルサリィちゃんにボロ負け…レアさんは初めから相手にしてないので、このままでは、わたしが来た意味がなくなって、ユウトさんにバカにされてしまいます!


 それから一日、シャルは焦りながらも、必死に声を掛けていった…


 だが…だが、ダメ!


 子供達の事を思う心とは裏腹に、ユウトのニヤつき顔が浮かぶシャルは、夕方になり…ついに折れる。

 今日の夜には、各自の行動状況を報告する事になっているから、もうルサリィとの差は埋めようが無いと、取り繕うのは諦めたのだ。



 …

「や、やっぱり…私の顔が怖いのかしら…」

「…シャーロッ…ふつう」


「名前くらいちゃんと言ってよぉ!」


「はいはい、二人ともケンカしないのっ!」


 何故か、一番年下のルサリィに宥められながら、三人はトボトボと宿に向かいながら歩く。

 今日一日で勧誘できたのは、ルサリィが四人、シャルが二人、レアが四人だ。

 レアが最後に、隠し持っていたお菓子で四人組のグループを釣り上げた事で、シャルとの差を一気に縮める結果となった。


「はぁ~メリーお姉ちゃんなら、きっと大きい孤児院を建てるだろうから、部屋がいっぱい余っちゃいそうだね…」


「んぐんぐ…別に…集まる分だけで良い…」

 レアは隠し持っていた干し肉をかじりながら、ため息をつく二人に気にするなと伝える。


 暗い顔をしていた二人も、確かに善意の押し売りをした所で、相手が望んでいないのなら仕方ないか、と気持ちを切り替える。


「正直な反応を伝えて、少し小さめの規模の物を作ってもらう事にしましょうか?」

 シャルはそう言うと、心の中で踏ん切りがついたのか、いつもの優しい笑顔に戻っていた。




 ……

「孤児院は総工費1万g(ジェム )で、受け入れる人員数は第一弾で500名、最大で1500名位までの受け入れを想定した建物を作らせますわ。」


 その後、都市長会館に集まった皆を前に、メリーは壮大な計画を発表する。


 1gは日本円にすると100万円だ。

 この世界では、大人一人の生活費が年間で1gくらいなので、一億円掛けて作る建物にメリーの気合いの入りようが良く分かるだろう。


 そして、それを聞いたシャルとルサリィ、そしてマリーと職員の二人は、口をあんぐりと開けて固まる。


「…まぁ、この街の規模ならそれくらいの需要はあるだろうな。予算もメリーとヘッケランが良いなら問題無い…って、あれあれぇ、どうしたのかなシャル君?」


「くっ…意地が悪いです、ユウトさん…」


 進捗状況を聞く前に全体の事を把握している俺は、わざとらしくシャルに先制攻撃を仕掛けてみる。

 すると、予想はしていたが、返す言葉がないと悔しそうな表情をするシャル。

 そもそも俺はその答えを知っているから、尋ねる必要も無いんだけどな!


 …ええなぁ…そんな表情のシャルちゃんも素敵やん!

 好きな子を虐めたくなる少年の気持ちが、今ようやく理解できたよ。

 ふっふっふ…



 ふぇっ⁉︎

 何で理由を知ってるんだって?




 …仕方ない。

 視聴者の方には正解をどうぞ!








 ーーーー遡る事一週間前

 エゼルリオ復興宣言をした翌朝、前日に配置の決まっていなかった俺達は、これからどうするかを話し合っていた。


「んじゃ、あまり者の俺達は、三人で奴隷商会…じゃなかった、養護院でも訪ねてみようか?」


「はいっ!私はルサリィちゃん達と一緒に、子供達を保護しに行きたいと思います。」


 シャルは俺に手を挙げると、自分は別のチームを手伝いに行きたいと主張してくる。

 彼女がこんなに主張するのは珍しいので、お任せしても良かったんだけど、何となくライバル心が湧いてきて、俺が行った方が良いんじゃ無いかな?と言ってみた。


「えっ!?…ユウトさんじゃ、女の子を見る目が怪しそうなので、私の方が適任だと思いますよ?」

「なぬっ?失敬な!俺だって…多分…おそらく…だ、大丈夫だい!」


「…ユウト様、今回は私と共に、他の組織の牽制にその眼力をお使い下さい。」

「ティファまでっ…」


 こんなやり取りをした後、無条件で俺の味方をしてくれる筈のティファにまで、不審者扱いされた俺は、泣く泣く勧誘係をシャルに譲った。


「任せてください!可哀想な子供達をたくさん連れてきますねっ!」


 シャルはスキップでもしそうな勢いで、レアとルサリィに合流する為、宿を出て行ってしまった…


「まずは、軽く情報収集してから、彼等のアジトに乗り込むとしましょうか。」

「…はい。」


 落ち込む俺を、苦笑いのティファが慰めながら情報収集の為、二人で街へと出掛ける。


 昼間からやってる娼館は少なかったので、露店や雑貨商店なんかを冷やかしながら、それとなく話を聞いていったんだけど、この街で暮らすには奴隷が必須だと言うことは、かなり伝わってきた。

 街の規模の割に人口が少ないので、他の都市なら受られるようなサービスが、ここでは簡単に受けられ無い。


 実際、孤児院設立のための場所探しを何処で聞けば良いのかと質問するメリーにマーレさんは「よそで言う仲介人なんて、ここにはいやしないよ?」と言っていた。


 働く人間の絶対数が少ないから、夜の仕事に関する所以外では、基本的に直接取引だし、交渉や約束も全部自己責任との事だった。



 …そりゃ、人が定着するのは難しいわな。

 そもそも、国の行政機関がまともに機能してないと、こんな状態になってしまうってお手本のような街だな。


「こりゃ、相当根深い問題に首突っ込んでるよなぁ…」

「そうですね…ですがこれを見事に解決すれば、シャーロットよりユウト様の方が、この街での支持を多く得られるかと思いますよ?」


 その後も話を聞いて回った俺達は、翌日、養護院に行ってみることにしたんだけど、ここでも餓狼蜘の連中につけ狙われて、街中で被害が出ないように穀倉地帯まで移動させられた上に、ティファに軽くボコられた奴らは、ついに悪魔召喚しやがったんだ…



「…ほっほっほっ。このイウェルト様が来たからには、生あるもの全てに苦痛を…げぇっ!……です、ナッ!」


「なぁティファ、なんか変な悪魔が出てきたんだけど…」

「あれはパーティモンスタークラスで、適正80LVと言った所でしょうか。」


 何故か現れるなり、俺達を見てギョッとした態度をとる変な悪魔に、俺達は警戒しながら対応を考える。


 優位属性を持つティファなら、ソロでも倒せるくらいだろうけど、俺も手伝ってキッチリ始末するべきだな。

 なんなら、魔封じの壺に閉じ込めても…んっ?


 そこまで考えて、俺の記憶に引っかかる。

「…あーっ!お前、あの時の悪魔なんじゃっ!?」

「今頃思い出すとは、失礼極まりないグズです…ナッ!」


 転移したばかりの時に、貴重なアイテム連発して一人で追い払った悪魔だと気づくと、やはりそうだったらしく、忘れてた事に怒りだした。


「ユウト様に…グズ?虫如きが生意気な口をききますね。」

 悪魔イウェルトの発言に怒ったティファが、スキル『限界突破』を発動し、一時的に能力を倍増させる。


「くっ、小僧だけでも厄介だと言うのに…仕方ない、お前達の体を使ってやろう。眷属召喚です!…ナッ!」

 ティファにやられて転がっていた餓狼蜘の奴らを、黒い霧が覆ったかと思うと、霧が晴れた時には低位の悪魔に変身させられていた。


「特殊能力かっ!ティファ、やるぞ!」

「はいっ!…はぁぁあ!」


 俺は一定範囲に聖属性の力を高める、天使のオルゴールをアイテムボックスから取り出して使う。

 悪魔達の動きが少し鈍くなるのをティファが見逃す訳は無く、素早い動きで斬り捨てる。


「くぅ…これでも喰らうんだ…ナッ!」

 イウェルトは頭上に作り出した、黒い魔法の玉をティファに投げつける。


「リロードオン、神樹の加護!ゼギスの雷槍!」

 一枚3000円はする、神樹で作った護符を使い、ティファへの攻撃をレジストすると、驚くイウェルトに雷撃の宿った槍を投げつけてやる。



「…くぽっ!きさまぁ、またこの槍を…ぐぅあっ」

「ソニックスラッシュ!」

 槍を受けて出来た隙を逃さず、ティファが斬撃を飛ばして追い討ちをかける。


「ぐぬぬ…一度ならず、二度までもとは…ナッ!」

 イウェルトはそう言うと、残っていた低級悪魔を盾にして飛び去ってしまった…


 …バシュッ!

「グゥエェェ…」


「ユウト様、先程はありがとうございました。」

「ティファが無事で良かったよ。」

 残る一体を始末したティファのお礼に答えながら、奴が出てきた理由を考える。


 …前回は聖女さんを殺そうとしてたし、未だに狙ってる可能性はあるな…

 てことは、もしかしたら聖女さんは懲りずに、またウロウロとこの辺りを散策でもしていて、たまたまコッチに呼び出されたりしたんだろうか?


 それに、餓狼蜘の奴らが言ってたけど、孤児院設立はバレてるし、誰も来やしないってのは気になるな。


「ティファ、養護院は少し後にして、餓狼蜘やラヴァーナ教の情報を集めてみよう。」

「畏まりました。」




 …

 その後、娼館でワザと騒ぎを起こして、ケツ持ちの怖いお兄さんをティファが軽く捻って、知ってる事を洗いざらい話させた。


 結果的には、俺が予想した最悪の結果だった。

 ここでも、ラヴァーナ教の洗脳が蔓延していて、子供達も既に被害を受けてるらしい。

 たしかに、これじゃあ俺達の庇護を受けようって子供は少ないだろう、しかも、炊き出しとかをやって気が緩んだ相手を狙って洗脳魔法を掛けてるらしいから、奴らの魔の手から抜けるのも難しいだろうな…



 俺は、この一件をヘッケランに相談して、まとめて洗脳解除ができる方法は無いか尋ねてみると、すでに手を回してあるとか言われた。

 …お前はエスパーかよ!


 心の中でツッコミながらも、数日中には俺を訪ねて来るとの事だったので、それまでは地道に餓狼蜘やラヴァーナ教のアジトを潰して回る事にした。







 …

 ……

「それなら早く教えて下さいよっ!」

 シャルがホッペタを膨らませて俺に怒る。


「まぁまぁ、ちゃんと解決策は用意してた訳だし、張り紙もしてくれたんだろ?」

 シャルの様子に若干焦りながらも、俺は大規模な炊き出しをする張り紙をお願いした件を確認する。


「うん。ちゃんと貼ったよ?」

「…ちゃんとは…は、腹減った…」

 ルサリィに同意するかと思いきや、いつもの発言しかしないレアにチョップをいれつつメリーを見る。


「勿論、食料の手配は完了しておりますわ。」

 さすがのメリーに頷いて、俺はその場を利用して、一気に洗脳を解除すると発表する。


「明日にはエゼルリオに着くらしいから、明後日には子供達を救うぞ!皆、協力頼むな。」


「「はいっ!」」

「まかせなっ!」




 …こうして、皆の意見を統一した俺達は、明日来る予定の助っ人と共に、子供達を解放する為の作戦に全力を尽くそうと誓ったのだった。

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