第54話自治と奴隷

 ーーーー王国 北東部 街道

 …カラカラ……ガタガタ…


「おにぃ~ちゃ~ん!後、どれくらいで次の街に着くの?」

「…ご主人様…おなかへった」


「そうだなぁ…後、一日くらいで着くみたいだから、この辺でテントを張るか、もう少し頑張って宿場町まで行くかどうする?」

 俺は馬車の中で地図を広げながらルサリィの質問に答え、晩飯は自分達で作るか宿で食べるかを聞いてみる。


「わたくし達は宿まで持ちますが、レアさんのお腹が持ちませんわ…」

「それなら、早めに場所を確保して食事にしましょうか?」


「…みんな…ぐっじょぶ…」


 ティファはどちらでも良いみたいなので、メリーとシャルの進言通り、馬車が走る音よりも大きいレアの腹の虫を抑える為、俺達は早々にキャンプできる場所を探して停車した。



「よ~し!じゃあ、いつも通り各自作業開始!」

「「はいっ!」」


 最早、このメンバーでするキャンプは手慣れたもので、皆は迷いなくテキパキと自分の仕事をこなして行く。

 たいしてやる事の無い俺は、邪魔にならないように辺りを警戒しながらブラブラと考え事をしながら歩く。



 …エデキアでメリーと合流してから、ここまでで既に2日が経っている。

 街を出る時、人気者になってた俺達は、結構な数の人達に見送られて、結構恥ずかしかったのはご愛嬌だ。

 メリーからの報告で、神国に俺を操り人形化しようとしていた計画があったのを聞いたけど、取り敢えずは問題無いようなので後回しする事になったけど…レンとメリーが遭遇したって言う悪魔(デーモン)…最近あちこちで、悪魔の動きが確認されてて若干不安になるよな…


 俺からは四人目の同郷者…シュウトについての襲撃と報告をしたけど、こちらも向こうが何かしてくるまでは待つしか無いだろうとの結論になった。


「…ユウト様に手を出すなんて、その場に居れば切り刻んで差し上げましたのに。」と、メリーは俺の件についてだけはかなり怒ってたな。



 …そうやって、俺の為に怒ったり心配される姿を見ると、「勝手な行動はできないな」と、再認識させられるんだよなぁ。





 …

「ユウト様、エゼルリオ方面から何者かが、こちらに向かって来ているようです。」


 ティファの報告に目を凝らすと、たしかに街道を動く三、四人の集団が見えた。


「…冒険者とか、野営場所を探してる荷馬車の護衛とかじゃ無いのか?」


「はい、私も最初はそのように思いましたが、様子がおかしいのです。何かから逃げているような感じなのですが…」


 辺りはすでに日が落ち始めていて、夕闇の中にのまれようとしていて薄暗い。

 目が良いティファが言うのだから、モンスターとかに追われている可能性が高そうだな。


「よしっ!じゃあ、二人でサクッと助けに行こうか。」

「はっ!」


 俺は、テントや食事の準備をお願いして、ティファと二人で向かってくる集団目掛けて走る。


 …

「子供…のようですね。」

「たしかに、影が小さいな。」


 遠くに見えていた影が近づくにつれて、後ろを気にしながら走る子供達の姿と声が確認できた。


「…はぁはぁ。」

「頑張れ!追いつかれるぞ!」

「もう…無理だよぉ」

「シュルト兄、前!前!」


 子供の一人が前を向いて俺達に気付いたようで、敵が待ち伏せしていたのかと焦りだすが、後ろから追いかけて来る明確な敵に止まるに止まれないようで、どんどん近づいて来る。


「俺達は敵じゃないぞ!何に追われてるんだ?モンスターか!?」

 俺は、子供達を安心させるために、手を広げて大きな声で安全をアピールする。


 すると、子供達はゲンキンなもので、俺の横にいるティファに飛び込んで行く。


 …なんでやねんっ!!


 俺が心の中で差別だ、と泣いていると、一番年上そうな少年が俺の元にやって来て、人攫いに追われていると言い出した。



「…街からこんな所まで逃げてきたのか?外はモンスターの危険があると承知で?」


「うっ…そ、そうです。」


 …あきらかに怪しくはあるが、流石に嘘っぽいから、そんじゃバイバイとは出来ないので、大人として追っ手と話をしてあげようか。

 ティファが幼女や少年達を離す気は無さそうだしな。



 …

 子供達に少し遅れて、人相の悪い三人…と、さらに遅れて太っちょのデカイ奴が追い付いた。


「はぁ~はぁ、ひー、はぁ…お、おまえ…ら、はぁはぁ」

「こ、こんな…ひぃはぁ、こんな所まで、ぜぇぜぇ」


「あぁ、要するに、こんな所まで逃げて手を掛けさせやがって!と兄貴達は言っておりやす。」


 …なんだろう、場末の山賊っぽくて、理由も聞かずに撃退してしまっても良いような気もするんだけど、一応確認はしておくか


「なぁ、たんたらは人攫いなのか?」


「はぁぁあ?ひぃひぃ…人攫いだぁ!?はぁはぁ」

「ふふ…ふぅふぅ、ふざけんな!」


「あぁ、要するに、あっしらは人攫いでは無く奴隷商人って事でやんす。」


 どうやら、見た目通り真っ当な職業には就いていないようだ。

 ウチの商会でも、一応奴隷商会はあるけど、もっと人道的に売り買いの仲介は行なってるし、商人達にも身なりは綺麗にするよう指示している。

 …ヘッケランがな!



「…との事だけど?」


「で、でも!あいつらには買われたけど、元々は俺達みんな、攫われてきたんだ!」


「…ユウト様」


 …ティファの視線が痛い。

 子供大好きなティファからすると助けて当然なんだろう。

 ても、こいつらも商売だろうからなぁ…


「あぁ、そうだ!あんたら奴隷商の許可証は持ってるのか?」


「あぁん?」

「おぉん?」


「あぁ、要するに、俺達じゃ分かんないんで、後ろのボスに聞いて欲しいでやんす。」


 一人だけ遠くにいた、転がった方が早いんじゃ無いかと言う坊主頭の奴がリーダーらしく、言われた通りそいつを待って聞いてみる事にした。


「ぶーふぉーふぅふぅ…ゴホゴホッ」


「あんたが、この子達の所有者か?奴隷商業者商は持ってるんだよな?」

 ようやく着いたけど、走り過ぎて死にそうになっている息の荒い男を、呼吸が落ち着くのを待ってから聞いてみた。


「くぉんのガキ共!どこまで逃げやがるんだぁ…なんだいアンタ?」


 男は子供達を睨んで文句を言うと、俺を見て訝しげに尋ね返してきた。

 俺は名を名乗って、先に聞いた事に答えるように言うと、手下共が生意気な奴だ何だと騒ぎ出す。


「少し黙れ、その名前…どっかで聞いた事があるような…まぁいいか、許可証なんて知らん、力が全てよ!」


 贅肉だらけの体でムキっとポーズを決めると、男は手下共を従えて武力による脅しをかけてくる。



「…ティファ、俺がやるな。」

大人しく話し合いで解決しようとしてやったのにな。

 呆れて物が言えないので、お望み通り俺も実力行使に切り替えてやる。

 奴隷商業者証を持たないなら、ただの犯罪組織と変わらないから潰しても問題無いだろうし、一応は殺さずに捕まえておく事にしよう。


「リロードオン…あいつら全員捕まえろ!」

 地面に一粒、グラチェスの種を落とすと、見る間に緑の蔦が地面から湧き出て来て四人の賊に襲いかかる。


「なんだコレ!?」などと叫びながら、各自ナイフや手斧で抵抗するが、リーダー含め三人は簡単に捕まえる事ができた。



「う~ん…これはボスに報告する必要がありそうでやんすね。」

 手下で一番頭の良さそうだった、体の小さな細身の男はグラチェスの蔦を避けながら巻物を発動させる。


「しまった!ティファ……まぁ、いいか」

 帰還の巻物だと気付いて、ティファに頼もうとする前に消えてしまったので、仕方なく逃げた奴は諦める事にした。

その代わりに、捕まえた三人と子供達から事情を聞く事に切り替えて、とりあえず皆の所に戻る。


「ありがとうございます、ユウト様」


「あ、あの、ありがとうございました!」


「後でしっかり話を聞かせてもらうけど、まずはメシだな!」


 なし崩し的に子供達を拾う事になって、ティファは満足気だし、少年達も感謝してくれてるようだし、結果的には良かったのかな。

 まぁ、何かあったらその時に考えよ…



 俺の晩飯発言に触発されて、グゥーグゥーと鳴る子供達の腹の音を聞きながらテントに戻ると、皆に紹介と経緯を説明してから食事になった。


 必死にがっつく子供達に負けじと、レアが対抗心を燃やしてた…


 …そこは自重しような!


 捕らえておいた奴隷商人達は、もちろん蔦で吊るしたままにしておいて、皆を寝かせた後に俺とメリーで存分に話を聞かせて貰った。






 …翌朝

 板に車輪を付けただけの簡素な荷台に三人を乗せて、馬車の中で子供達からも話を聞いた。


「なるほどな…」


「それは、恐らくレンの影響だと思います…先に伝えなくて、ごめんなさい」


 関係者全員から話を聞き終えて、俺が呟くとシャルが申し訳無さそうに謝ってくる。


 俺はシャルに大丈夫だから気にしないように、と言って考えを整理する。



 …今、向かっているエゼルリオは、王国五大都市なのに『自治都市』とも呼ばれているらしい。


 なんでそんな名前で呼ばれているかと言うと、お騒がせ関西人でお馴染みのレンが原因だそうだ。

 エゼルリオはレンが荒れてる時代に王国から奪って無法地帯と化していたそうで…話を聞く限りでは、さながら北○の拳みたいな世界の様に感じた。


 第4次征伐って大掛かりな王国の討伐作戦で、『断罪の巫女』であるシャルに紆余曲折あって改心させられた時に、この街は放棄され軍の統治下にあったそうだ。


 ただ、寄せ集めの軍は都市解放後も、好き放題に街を蹂躙して、結局、滅茶苦茶にされてしまった。

 その後、国のお偉いさん…主にシャルが筆頭になって復興に尽力したが、街の人間は王国の統治を受け入れず、自治制に任せられる事になってしまったらしい。


 一応は都市長を置いてはいるが、その都市長もあくまで都市の住人代表ってだけで、大した権限は持っていないそうだ。


 しかも、都市の主な収入源は奴隷の人身売買だそうで、馬車の後ろに積んでるような非合法の商人で溢れているらしく、かなりタチが悪い。



「…でも、シャルは英雄なんだよな?」


「はい!もちろんです。王国は嫌いですけど、皇女様は大好きです!」

「大好きー!」

「わたしもー!」


 俺の問いに、子供達が笑顔で答え、シャルは照れて頬を赤くして俯く。


 …照れるシャルは可愛いなぁ、こんにゃろめ!


「なら、エゼルリオでの活動はシャルにお任せで大丈夫かな!」

「ちょ、ちょっと!ユウトさんっ!?」


 俺の人任せな発言にシャルがクレームを入れてくるけど、放っておいても人気のあるシャルに、上手いこと言ってもらえば知名度の件は問題無いだろう。



 …

 馬車は順調に進んで、その日の夜にはエゼルリオに着いた。


「ほう。夜でも意外と活気がある都市なのですね?」

「そうなの!夜のお店がいっぱいなの!」


 元奴隷のチルと呼ばれる10歳いかない位の女の子が、荒れてるはずの都市が明るい理由を元気に教えてくれる。


「あなた、それは意味を分かって言ってらっしゃるの?」

「多分、よく分かって無いですけど、その言葉通りなんです。」


 メリーのツッコミに苦笑いで答える、シュルトと呼ばれてるお兄ちゃん的な少年が理由を付け足す。


 …どうやら、よその街では出来ないようなプレイが可能な店や、売れなかったり、曰く付きの奴隷が流れてくるそうで、昼よりも夜の方が栄えているそうだ。

 だけど、その反面気を抜くと人攫いや、怪しい店に引っかかる人も多いらしい…ただ、全部自己責任だそうだ。



 都市内に入ろうと城壁を見上げたけど、他の都市に比べればボロボロだし、警備や門番なんかは居なかったな…


「さすが自治都市だな…」

「なんだか怖い所だね…」

 ルサリィが怯えたように呟いて俺の手を強く握る。


「大丈夫ですよ、ユウト様がおられれば何も心配はいりません。」

「その通りですわ。」


 絶大な信頼を寄せて来る二人に冷や汗を流しながら作り笑いで答えて、ルサリィが安心できるように引き寄せて歩く。


「さすがに、この人数に何かしてくるとは思えませんが、女性が多いですからね…」

「…その時は…凍らせる…」


 シャルが少し不安そうにするけど、レアの言う通りウチの人間に手を出したら、100%後悔する事になるだろうな…



 シャルが使ってると言う宿に案内してもらったけど、宿に着くまでにチンピラが2組程絡んできた。

 だけど案の定、メリーにナイフ突きつけられて「面の皮剥ぎますわよ?」って脅されるとチビって逃げていってた…ご愁傷様だ。



 途中に警邏所があったので、ポンコツ三人は引き渡したけど、シャル曰く多分大した罰は無いだろうとの事だった。

 …まぁ、俺とメリーのお説教を受けて、リベンジするとは思えんから大丈夫だろうけどな。



 宿に着くと、結構疲れていたみたいで、部屋に別れるとそれぞれ眠りについた。



 …

 ……

 夜の街か…

 俺は甘美なその響きに悶々としながらも、レアとメリーに両サイドをガッチリ固められ、仕方なく眠りにつくのだった。

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