第53話黒崎 秋人の場合②

 命を掛けた最初で最後の一撃は、見事なまでに防がれ、周りを召喚獣に囲まれた俺は死を覚悟した。


 異世界に来て、同郷の日本人に殺されるなんて、どんな嫌がらせなんだよ…と思いながらも、剣を手放した。


 …レベル100のプレイヤーが召喚するこの数の召喚獣を相手にして、勝てる訳なんて無い。

 そんな事できる奴なんて、昔に聞いた事がある、漆黒の双剣とか呼ばれてた廃課金プレイヤーくらいだろうな…





 ……

 どれくらいの時間ボコられたか…

 なぜか俺は殺されなかった。


 手は後ろで縛られ、口には猿轡をされて、身動き出来ない状態にされた上、召喚獣の監視付きで牢屋に放り込まれたけど、なんとか命はあった。



 …なんで殺さないんだ?

 こんな事になって、この先に俺と和解なんて考える筈無いだろうに


 その時は痛みや、これから死ぬのかもって恐怖で頭がボーッとしていたけど…

 しばらくすると、コハルに連れられて、ここに来たアスナを見た時に全てを悟ったんだ。



 …俺は人質として生かされたんだって。



「ご主人様っ!大丈夫ですか!ご主人様…」


「…はぁい…ぉう…ふ」


 うつ伏せのまま、何とか顔を少し上げてアスナに「大丈夫」と言いたかったけど、猿轡のせいで上手く喋れなかった。


「…アスナ、早く歩きなさい。」

「でも!ご主人様が死んじゃう!!」


「大丈夫です。ういろう様が管理されていますから…」


 コハルは申し訳無さそうに俺を見ると、早くういろうの元に行けとアスナを急かす。


「ういろう様の機嫌が悪くなって、良い事はありませんよ。」

 少しキツく告げるコハルの言葉に、アスナは泣きそうになりながら従う。


「…すぐに助けますからね。」

 小さい声で俺にそう言うと、二人は奥に消えて行った。



 …

 ……

「ふぁふな…」

 何をしているのか分からなくて、とにかく不安で彼女の名前を呟いた。


 この時は、自分の事よりも、アスナに何かされないかと、そっちの方が不安だった事を覚えてる。





 …ガチャ

 コハルが牢屋の鍵を開けに来て、召喚獣に俺を運ぶよう伝える。


 背中に乗せられて、俺が少し前にボコボコにされた部屋に着くと、そこにはういろうと…ういろうに恭しく跪くアスナが居た。



「ほぉはえ!はにをひたっ!?」


「あ~ん?何を言ってるのか分からんねぇ。」


 コハルに指示をだすと俺の猿轡が外された。


「お前!アスナに何を!…おい、アスナ!?」


「…御用でしょうか?クロサキシュウト様」


「アスナ…」


「うひゃひゃひゃひゃ~!!」

 ういろうは俺の間抜けな顔を見て、ひとしきり笑うと、所有権を移した事や、アスナの記憶がリセットされてしまった事を説明してきた。


「…そんな。」

 …キャラを作り直す時に、全てをリセットする機能は知っていたけど、所有権の事なんて俺は全然知らなかった。



 ういろうは、プレイヤーに従う元NPCの制約原理を、コハルを問い詰めて聞き出していたらしい。


 さらに続けてういろうは、聞いてもいない自分の性癖についても語り出した。

 幼い子供だけに興奮するらしく、性別は男でも女でも良いんだとか言って笑っていた…


 そして、アスナを初めて見た時から、自分の物にしたいと、ずっと機会を伺っていたらしい。



「…君はなかなか優秀だった、だから、本当の僕に気付くまで、手は出さないでいてあげたのにねぇ」

 わざとらしく残念そうな表情を浮かべると、ういろうは転移アイテムの記憶の扉を使い、その中に俺を放り投げようとする。


「元アスナ君との最後の約束だ、記憶を失ってしまった哀れな彼女に免じて、命だけは助けるが…二度と僕達の前に現れるなよ?」


「てめぇっ…」



 俺はろくに文句も言えないまま、扉の向こうに放り投げられ…その言葉を最後に扉は閉ざされてしまった。





 …ドサッ

 気づくと、何も無い荒野に放り出されていた。


「……」

 俺は…俺は心から復讐を誓った。


 …ういろうを殺して、必ずアスナを取り戻す。


 そう決意した後、その為にやれる事は全てやった。



 とりあえず縛られた状態から抜け出す為に、通りすがりの旅人に助けてもらい、体力を回復させてから、フローラ帝国の皇帝カイザーに会う為、俺は帝都オーガストリアを目指した。


 …本当は一秒でも早くアスナを助けに行きたかったけど、相手は召喚士な上に、クソみたいな本性を現した犯罪者だ。

むやみやたらにぶつかっても、あの時のように召喚獣に囲まれて…次は殺されるだろう。

 そうならないように万全を整えて、確実に奴を殺せる状況を作り上げないと。




 帝都でカイザーに会い、ういろうの正体を教えると、「俺が殺してやるから協力しろ」と説得する為、考えた計画について説明した。


 結果的に俺は今後、帝国の政治に口出ししない事と、要請があれば国の為に戦う事を約束させられたが…

 替わりに必要なアイテムの提供と、ういろうを誘き出す役目を担当する事を約束させる事に成功した。


 …これで、準備は整った。

 後は、殺るだけだ。





 ……

「ういろう様、皇帝からシュウト様が消えた件について説明の要請が来ております。」


「ん~?何をしょうもない事を…」


「ぅぐ…お兄ちゃん…」

「…うぅ、頑張れミア」

 ういろうは子供達で作った椅子の上に座り、不機嫌そうな顔でコハルに答える。


「…まぁ、馬鹿な皇帝の為に僕の力を見せつけて、どちらが上なのかを教えておくのは悪くないか。」


「…では、準備を致します。」

 コハルは了解の意を示すと、皇帝への謁見準備を始めようとするが、

「待て」

「…どうされましたか?」

「僕の威を示すのだ、召喚獣を呼び出して突然押し掛けてやろうじゃないか。さぞ驚くだろうよ!くくくっ…」


 嫌らしい笑みを浮かべるういろうは、膝に乗せたアスナの髪の毛を掴むと乱暴に立たせる。

「アスナ、お前もついて来い。」


「…かしこまりした、ういろう様。」

 文句も非難の目も浮かべず、アスナはただ跪いて頭を下げる。



 バスクトの街から馬車であれば、帝都までは2、3日の時間がかかるが、飛行タイプの召喚獣達に空路で運ばせれば、朝に発って夕方には着けてしまう。


 そうすれば、皇帝の言葉を伝えにきた使者よりも早く帝都に着ける計算になり、皇帝達は対応に追われるだろうと、ういろうは愉快そうに笑った。




 ……

「アイツは、馬車なんて使わず、二人を連れて直ぐにでもやってくるだろう…打ち合わせ通りにしっかり頼むぞ」


「もちろんですともっ!」

「ハッ!生意気な…」

 これから繰り広げられる戦いを想像して、皇帝は獰猛に、宰相のカリオペアはニヤリと笑みを浮かべて答える。




「へ、陛下!大変です、南東方向より魔獣が攻めて参りました!!」


「…それは国賓ですよ。丁重に出迎えなさい。」


「しっ、しかし…」


 納得がいかない表情を浮かべる衛兵を睨み付けると、カリオペアはサッサと動けと指示を出す。


「四将の皆様は陛下の御前に、話は私がさせて頂きます。」


「……」

 帝国随一の知恵者に意見をする者もおらず、無言で了承を示す四人の将軍達



「あまり派手には壊してくれるなよ…」

 …しかし、皇帝の呟きに答える声は無い。


 なぜなら、その忠告を言われている俺は、アイテムを使って姿、匂い、気配の全てを消して透明になって待機しているからだ。


 一定時間身動きを取らず、言葉を発しなければ装着者の姿を消す事ができる、国宝『虚みの腕輪』を借りているので、喋る事も動く事も出来ない。




 …

「き…きたぞ!」

「あれが…」

 しばらくすると、王城のバルコニーが騒がしくなってくるのが聞こえる。


 もう少し…もうすぐだ、待ってろよアスナ!


 はやる気持ちを抑えて、ういろう達の到着を待っていると…



 …バンッ!

「またせたかな?皇帝陛下」

 ドアを雑にあけ放ち、召喚獣三匹を従えたういろうが、コハルやアスナと共に偉そうな態度で謁見の間へと入って来る。


「貴様!なんだその態度は…」

 先導の者も待たず、召喚獣を連れて謁見の間に現れたういろう達に、堅牢と呼ばれるドーン将軍が厳つい顔で怒鳴るが、ういろうは余裕の表情でドーンを無視し、皇帝へ向き直る。



「…何でも、僕の元パートナーの事を聞きたいとか?」


「…あぁ、その通りだ。」

 皇帝が答えると、即座に後を継ぎ、横に控えていたカリオペアが続ける。

「そうなのです!お二人は帝国の宝であり、剣なのです!…そんな至宝の片翼を失うなど、我ら帝国にとってあってはならない事ですから、詳細をお聞きしたかったのですよ!」

 ふふふ…と不敵な笑みを浮かべるカリオペアに、少しだけ嫌な表情を見せるが、ういろうも負けじと嫌らしい笑みを作り説明を始める。


「アレは、シュウト君は…実は裏で犯罪行為を繰り返していたのでね、僕が正義の鉄槌で粛清したのですよ。」

 至宝が実は犯罪者だった、なんて、帝国にとって損にしかならないでしょうしねと、偉そうに話すういろう。


 自分の事を俺と入れ替えて、よくあんな話ができるもんだ…


「…なぁるほどっ!そうだったのですかぁ~!いやはや帝国を想う、ういろう殿のお心には感謝しかありませんなぁ!」

 大袈裟にういろうを褒めちぎると、皇帝に同意を求める視線を向ける。


「…そうか。大義であったな、褒美をとらそう。」


 皇帝は政務官に顎をしゃくり、褒美を持ってこいと指示を出すと、政務官は急いでういろうの前までやってきて、恭しく装飾の多く付いた籠手を差し出した。


「ほぅ…反射籠手(リフレクトガントレット)ですか。中々、良いものでは無いですか…」

 第八位までの魔法を一度だけ反射できる、アーティフェクトアイテムを前に、ういろうは顔も気も緩ませて、不用意に手を伸ばす。



 …バシュッ!

 アイテムを受け取ろうと差し出した奴の右腕は、俺の一撃で血飛沫をあげながら宙を舞う。

 そして、何もない空間から突然現れた俺に、驚愕の表情を向けてくるういろう。


 何が起きたのか理解したのか、ういろうが叫ぶ。

「貴様ら、謀ったなっ!?」

 腕を抑えながら、皇帝とカリオペアを睨むが、二人の前には帝国四将が立ちはだかり、守りに備えている。



「ういろう様!!」

「…ご主人様を護衛します。」

 コハルとアスナが、ういろうの危機に動き出そうとする。


「させるかよ…奥義、監獄廻廊(プリズンコリドール)」

 予定通りの展開に、二人や召喚獣が動き出す前にスキルを発動させると、2m四方の破壊不能な檻が出現し、俺とういろうを捕らえる。


「くそっ!ちょこざいな!」

 召喚獣達が檻を破壊させようと指示するが、この檻は一定時間破壊不可能で、中にいる俺が解除するか、専用の解除スキルが必要だ。


「…ようやく。ようやく貴様をぶっ殺せるぞ!」

「まっ!待て、待つんだシュウト君!」


 近接戦しかできない状況に、召喚士であるういろうは取り乱す、


「この状況で、俺に勝てると思うなよ…」


「くっ…ここさえ凌げば、僕の勝ちは揺るがんのだ!」


 血を流す左腕に回復薬を掛け、右手でレイピアを抜き、応戦する構えを見せるういろう。


 だが、魔法をまとった俺の剣撃を捌ける筈も無く、レイピアは折れ、奴の体には無数の切り傷が増えていく…


「がはっ…はぁはぁ、と、取引しよう」

「はっ、取引だと!?」


 肩で息を切り、あたこちから血を流すういろうが弱々しく俺を見る。


「そうだ…君はアスナ君を取り戻しに来たのだろう?」


「あぁ。お前を殺すオマケ付きだけどな!」


 怒気のこもった視線を向ける俺に、媚びへつらう笑みを浮かべると、手を上げて降参のポーズをしながら続ける。


「僕が憎いのは理解しているが、こちらは一度、君の命を見逃したんだ…だから、アスナ君を返し、コハルもつけよう!それで、僕を見逃してはくれないか?」

 下衆な事をサラッと提案してくるういろうに腹が立つが、俺の予想通りに動く奴の考えに心の奥で笑う。


「…所有権を移す、と?」


「あ、あぁ、その通りだ!勿論、今後君の前に現れる事はしない、約束しよう!」

 心が揺れるフリをする俺に、ういろうは安堵の表情を浮かべる。


「…分かった、これで貸し借りなしだ。」


 俺は渋々納得した様に頷き、剣を突き付けると、早く言えと急かす。


「や、約束だよ…?コハルとアスナの所有権を放棄する」


「二人共、受諾してくれ!」


「…受け入れ、シュウト様に帰属します。」

「承諾しました、クロサキシュウト様の参加に入ります。」


「二人を受け入れる!」


 そう言い切るのと同時に、檻は砕け散った。



「…やれ!召喚獣達よ!」

 檻から解放されるのと同時に後ろへ跳びのき、向こうから約束を反故にするべく、俺に攻撃を仕掛けるういろう。


 …が、甘い!


 こうなるだろうと読んでいた俺は、跳びのくういろうを追撃すべく迫っていた。



「魔障乱舞!」

「なっ、貴様、やくそ…ぐはぁあっ!」

 自分の事を棚に上げて、俺を非難しようとするクズの周りに黒霧を展開して、トドメの一撃をお見舞いした。



 …ゴロゴロッ……


 体と離れ離れになったういろうの首は、辺りに血を垂れ流し動きを止め、召喚していた獣達も光になって消え去った。




 …こうして、復讐劇は終わりを迎え、同郷の人間を殺めた俺は、現世でも『人殺し』の存在となった。



 全て終わりはしたが、決して万事解決した訳じゃなくて、ういろうを殺した俺にコハルの忠誠は低く、度重なる所有の移転と初めの強制移転が原因でアスナは記憶と視力を失ってしまった…



 その後、帝国の端に領地をもらって、貧しい人や種族差別を受ける者達を受け入れる国を作り、アスナの病を治す方法を探したが、未だに解決の糸口も掴めていない。


 コハルの信頼は厚くなったけど、他にプレイヤーがいる限り今回のような不安が無くなる事は無いんだ。



 …だから全てのプレイヤーと、俺に害をなそうとする存在は取り除く。

 俺自身とアスナやコハルが安心して暮らせる世界の構築の為に。

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