第44話観光都市エデキア
ーーーーーー観光都市 エデキア
「止まれ!通行証を確認させてもらう。」
「これでいいかな?」
首から下げている、ペンダント型の爵位証を見せる。
「しっ!失礼しました!上級貴族様でしたか…どうぞ、お通りくださいっ!」
門の警護をしていた兵士は、ペンダントを見ると、俺の爵位までは分からないようだが、かなりの要人だとは思ったらしく、最敬礼をしながら、俺達を都市へと迎え入れてくれた。
…
「うわぁ!オシャレな所だね!」
「…そう…目がチカチカ…」
門を潜り街に入ると、大きさこそ前線都市には劣るが、カラフルでお洒落な形の建物が並んでいるのが目に飛び込んできた。
…ゲーム時代は奇抜な衣装が揃ってた、ネタみたいな店が多かったけど、今はどんな感じになっているんだろうか?
「この街は、文化や芸術も盛んで、知的好奇心が刺激されますよ?」
「…ここの武具店はロクな装備がありませんよ?」
女の子らしく、芸術やらお洒落な店やらに目を輝かせるシャルに、ティファが固い表情で訴えてる。
…そういや、ティファのネタ装備のビキニアーマーは、ここで買ったんだったっけ?
ティファの中で、嫌な思い出として定着してしまってるんだな…
俺は、ゲーム時代の遊び心なんだと、心の中でティファに謝りながら、街の中をどんどん進んで行く。
街の中心に着くと、カップルの定番待ち合わせスポット噴水広場に出た。
「西に行くと宿屋街だそうですが?」
ティファが、待ち合わせをすっぽかされたような、悲壮な表情のお兄さんに道を聞いて、どうするかと尋ねてきた。
「取り敢えず、宿を押さえに行こうか」
俺は、ティファが確認してくれた通り、まずは宿屋街へと向かおうと提案する。
……
さすが観光都市だ。
宿泊施設が他の都市より、圧倒的に多いな。
安宿から高級宿、はたまたloveなホテルっぽいのまである…
それに、メインの通りからでは見えにくいけど、路地の奥には娼館のような物も見えるし、色っぽいお姉さんが客引きをしているのも見えた。
「お兄ちゃん!今日はどこに泊まるの⁇」
…⁉︎
「あっ、あぁ…そ、そうだな…最高級とまでは言わないけど、良さそうな所にしようか?」
色街を見ていたからか、突然、声を掛けられしどろもどろになる俺。
「はーい!」と無邪気に返事をするルサリィに、焦りながら何とか答える。
何故だろうか、勉強するふりして、エロ本見てたのがバレそうになった時くらい焦ったな…
「ユウトさん。あの宿なんて、どうですか?」
「おぉ!和風旅館っぽい!」
「…和風?」
シャルが指差したのは、この世界では、あまり見かけない瓦屋根っぽい、和風建築の宿だった。
見慣れた日本風の建物にテンションがあがり、何でも無いからあそこにしよう!と、即決する。
…
「いらっしゃいませ。」
「な…なん、だとっ!?」
宿に入った俺達を迎えてくれたのは、the着物!oh仲居san!そーして…女将sama!!
艶っぽい女将が三つ指ついて歓迎してくれる。
あまりの出来事に、マジでココは日本!?って感じになってしまった…
この宿が出来た経緯を詳しく聞いてみると、さる帝国の大金持ちが、自分が泊まる為に、と趣味で作った物らしい事が分かった。
…ここまでの日本建築を、イメージだけで思いつくだろうか?
もしかすると、レンやアキラみたいに、転生者かもしれないな。
そんな事を考えながら、笑顔の仲居さんに部屋へと案内される。
俺は一人一部屋でお願いしようと思ったんだが、あいにく一人部屋は無いそうなので、仕方なく…仕方なく!二人部屋を三部屋取る事にした!
…さぁて、俺のペアは…
…俺の異世界人生は甘くなかった。
①ティファ、シャル
②レア、ルサリィ
③俺……………メリッサ(不在
こんな部屋割りになった…
「…メリー様ぁぁあ!」
俺はボッチの部屋で、一人男泣きした。
…良く考えれば、今まで現世じゃ、生活のほとんどを自室で一人だったのに、誰かいないと寂しい?なんて…
「俺もずいぶん変わったもんだ…」
と、呟いておく。
夜は大広間みたいな所で食べるんだけど、イグサを使った本物の畳とはいかなかったけど、畳のクッションフロアみたいな床になっていた。
これはかなりの拘りを感じるし、ますます日本人の可能性が高くなるな…
食事もパンが主食の宿が多いのに、普通に白飯が出た。
存分に舌鼓をうった後、檜風呂も堪能して大満足だったな。
…風呂は男女別だったけど。
……
次の日、宿はそのまま連泊にしてもらって、まずは都市長の所に向かってみる。
ルサリィとレアは自由時間にして、ティファに引率をお願いする。
…何かあったら、必ず連絡するようにキツく言われたから、苦笑いで答えておいた。
まぁ、今までみたいに、お伺いを立て無くても侯爵権力で断られる事は無いだろうし、いきなり襲われるとかも無いよな?
…
「…ノバルク様は外出中でございます。」
「そ、そうですか…」
夕方には帰ってくるそうなので、申し訳無さそうにするお姉さんに、改める事を伝えてもらう。
仕方ないので、シャルと二人、暇を潰すべくカップルのふりをして、観光商会に足を運んでみた。
「どんな名所があるんでしょうか?」
「た、たぶん巡ってる時間は無いかな?…ごめんなさい」
本気で観光を楽しむ気だったであろうシャルに、冷やかしメインで行くのだと謝る。
「えっ!?い、いえいえ!もっ、もちろん分かってましたよ?」
と、ガッカリさせてしまった。
……
「いらっしゃいませー、観光ですかー?観光ですね?観光でございますよねぇっ!!」
「…は、はい。」
観光案内所とツアー会社の営業所の間くらいの店舗を訪れると、カウンターに案内されるなり、お姉さんに圧倒される…
「お二人でご旅行ですか?エデキアへは何を目的に来られましたか?カップルですか?ご予算はいかほどでしょう?新婚さんとかですかねー?」
お姉さんのマシンガン営業トークは収まる事なく、ひたすら質問責めで待ったをかける。
「ちょ…ちょ、ちょっと!」
「はい!…なんでしょうか?」
落ち着いてくれたようなので、この街に始めて来たカップル設定で、オススメのコースなんかを聞きにきたと説明してみた。
「そうでございますか!…それでは、定番の市内芸術堪能コース、少しアクティブに芸術体験コース、お二人は付き合ってどの位で?もっとアクティブに砂漠制覇体験コース、市内の珍しい建物や珍しい人達を眺めるコース、お若いですし…これからでしょうか?さらにアクティブに北方にそびえるホリシア連峰登頂&オーロラツアーなどもございますが?」
「ははっ、よくわかりませんが凄いですね…」
「時折入る変な質問が気になって、肝心な所が全く入ってこねぇよっ!!」
シャルは目が点になってたけど、俺は無茶な接客に、机を叩いて文句を言った。
「…どうかされましたか?お客様。」
背の高い、二十代くらいのチーフっぼいお兄さんが慌ててやってくる。
…なんでこいつは、ソロバンを持ってるんだろうか?
お兄さんは、女性と席を変わると俺達の接客についた。
「当商会の者が大変失礼致しました。彼女は最近、付き合っていた彼に振られてしまいまして…お客様達が恨めしくて、テンションが上がってしまったのでしょう。」
細い目をニコニコとさせながら、どうでも良い情報をぶっ込んでくるな…
この人にも不安を持つが、とりあえず話を聞いてみる。
「この都市が初めてでしたら、絵や音楽と言った芸術を見て楽しめるコースがオススメですよ?運が良ければオーロラが観れるスポットもお教えしますし」
お兄さんは説明が終わると、他の人には内緒ですよ?と、口に指を当てて、お詫びの代わりですと笑顔で言った。
…なかなか商売上手な人だ。
これなら、ガイドもお願いする事になるだろうし、紹介した店からのバックもバッチリだろうからな。
俺は関心しながらも、一度考えて改めると伝え、名前を聞いておく。
「申し遅れました。わたくし、当観光商会代表のピーレ・グレイルと申します。」
まさか、先に商会長と出会うとは…
次はご指名で!と、笑顔で見送られ、シャルと二人で相談する。
結構やり手そうだったので、都市長巻き込んでしっかり話をしないとダメそうだ、と結論付けて遅い昼食の後、他の商会の露店を見てから、都市長会館を目指した。
…
「今朝は大変失礼を致しました、ノバルク様がお待ちです。」
朝と同じお姉さんが対応してくれて、スムーズに都市長の部屋へと案内してくれる。
「ようこそユウト侯爵、お待たせして申し訳ない。…そちらのお嬢さんはもしや?」
「シャーロットです。お久しぶり?になるのでしょうか?」
「歳のせいで、王都に行く機会も少なくて申し訳ない。大きくなられましたな、皇女殿下。」
先に挨拶を交わすシャルだけど、どうやら小さい時に会った事があるだけで、面識は無いようなものみたいだ。
「俺は初めましてですね、よろしくお願いします。」
一応、礼儀かと手を差し出すと、ノバルク都市長はゆっくりと両手で握り返してくれた。
「あなたが、勇者様ですか。…これから大変ですな。」
手を握りながら、意味の分からない事を都市長は言ってくる。
「勇者?侯爵の間違いでは?」
「いえいえ…」
ツルツルになった頭をかきながら首を振ると、立ち話も何なのでとソファーを勧めてくれる。
メイドさんにお茶を頼むと、なんで勇者様話が出るのかと説明してくた…
…
「マジですか…」
「そうですな。聖女様の神託と、最近の悪魔達の動きを考えると可能性が高いのですが…」
都市長は言いにくそうに俺を見てくる。
「ユウトさんに何か問題があるのですか?」
俺の代わりにシャルが聞いてくれる。
「その…見えているレベルが少々…」
そうか。
たしかに、レベル4しか無い勇者とか笑い話にしかならんわな…
「それでしたら、ユウトさんには封印…」
「いやいや、多分買い被りですよ!俺は勇者なんて大層な者じゃないですし。」
ドラゴン爺の封印話をしようとするシャルを遮って、勇者話の方を否定しておく。
…世界に期待なんかされても困るだけだし、それは真の勇者様に任せておこう。
「…そうですか。まぁ、何が真実かは時代の流れが決める事ですしな。」
含みのある言い方だけど…とりあえずは噂が広まり過ぎないように気をつけてもらえれば御の字かなぁ。
その後は、観光商会をメインに各商会への口利きと、俺の知名度向上に協力してもらえるようお願いする。
「はて?貴方の名前は、今でも充分目立っているのでは?」
「あぁ…そうなんですけど、一般市民の人達にも幅広く知ってもらいたい…もらう必要があるので。」
あまり納得はしていなさそうだったけど、都市に困り事があれば協力するからと言って、無理矢理OKを貰った。
お礼を言って都市長会館を後にすると、宿に帰るまでに寄れる商会で話を通しておく。
土産物を扱う工芸品商会や、飲食や名物なんかを仕切る露店商会などは、各都市間で販路が拡がるのを喜んでくれた。
最後に宿屋商会で話をしたが、観光商会がOKを出せば協力すると言われてしまった。
…
宿に戻ってから、皆に結果と明日の予定を伝える。
「それは大変でしたね、お疲れ様ですユウト様。」
「…ご主人様…おつ…おなかへった…」
「ここの料理美味しいもんね!」
「…まぁ、明日もやれるだけ頑張るよ。」
「私もお手伝いしますね!」
とりあえず、明日は真正面から話をして、無理そうならメリーに裏から手を回してもらおうと心に決めて、明日に備えた。
…翌朝
「…んん…せ、狭いっ」
謎の感覚に目がさめると、ルサリィが抱きついていて、レアに頭をかじられていた…
「今日は貧乳コンビか…いやいや失礼か、ちっばいのは正義だ。」
二人の小尻を摘んで起こしてあげると、用意をさせて朝食を食べに下りる。
…
「おはようございます…ユウト…様」
「皆さん、仲がよろしいんですね…」
なぜか二人共、目がヒクヒクしてますよ?
ルサリィもレアも普通に席について食べ始めるけど、違和感を感じるのは俺だけなんでしょうか…
肩身が狭い思いをしながら、朝食を食べ、全員で準備を整えると、観光商会に向かう。
…さぁ、バッチリ話をまとめてやりましょうじゃないのっ!!
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