第37話シャーロットの告白。

「……そう、上手くはいかないか。」

「ユ…ユウトさん…」


 一縷の望みをかけて叫んでみたが、そう、タイミング良く助けなんて来ない…


 俺は、今まさに振り下ろされようとする、エンシャントドラゴンの一撃から、シャルを守る為に、彼女を抱きしめる。


 …宝珠が無い今、たった一撃でも守れるか分からない。


 けど、一瞬だけでもシャルに長く生き残って欲しいから!


 グゥアゥウ!

 ドシャッ!!


「ぐぅあぁぁあ!」

重いドラゴンの腕と爪が二人を襲う。


 ……これが死の痛みか







 …


 あれ?


 …痛く無い。


 どう言う事だ?

 だって、宝珠は確かに割れた筈だ…

 そう思い首元を見ると、俺が以前、ティファにあげた、義魂の指輪が割れて消える所だった。


 …そうだ、この遺跡に潜る前にティファが、危ないから御守りだって掛けてくれたんだ。


 装備アイテムで、適正外なのに守ってくれたのか?


 それに…ティファは指輪を御守り代わりとして、ネックレスにして貸してくれてたのか。




 …アグゥアァ?



「リロードオン!炎龍の牙!」


「…グゥアアァァア!」


 俺達が潰れて死んでいない事に、理解が追いつかないドラゴンの隙を見て、こちらからも強力なブレスを浴びせてやる!

 …すると、叫びながら後ろに下がっていった。


 …今のうちに考えろ。

 後、何がある?何が出来る?

 無い頭を必死に回していると…





「ホーリースラァァッシュッ!!」

「グギャアァア!」


 ブレスを受けて下がっていた、ドラゴンの背後から、ティファの強烈な一撃がお見舞いされた!


「ティファ!!」

「お待たせして申し訳ありません!お怪我は?」


「俺もシャルも無事だ!…ティファのお陰だよ!」


「…よかった。レアが魔力切れで倒れていますので、回復をお願いします!」


 そう言うと、ティファはドラゴンの注意を引きながら離れて行く。

 …そしてそれに、メリーも追従していく姿が見える。



「おう、ユウト!死んでへんか?もちろんシャルも無事やんな?」


「当たり前だろ…こっちも魔力切れだけどな…」


 レアを背負って近付いてきたレンに答える。


 俺はバッグからマナポーションを出して、二人に飲ませる。


「…んぐんぐ……ぷはっ!」

「ちゅぱちゅぱ…ごくん。」


 ポーションを飲みあげて、シャルとレアが元気を取り戻してくれた。


「…ありがとうございます!

本当に…ありがとうございます。」


「…んまい。もう一本…」


 涙ぐんで抱きついてくるシャルを宥めながら、レアにもう一本渡す。


 レアは魔力量が多いから、普通は魔力切れなんて起こさない筈なんだけど…

 それだけ無理して、急いで来てくれたって事なのかな?


「…もう大丈夫そうやな!ほな、俺も向こうに参戦してくるわ!」

「…大丈夫なのか?」

「当たり前じゃ、ボーケ!」


 レンは背中を向けて、そう言うとモンスターに向かって走っていった。



 …この、エンシャントドラゴンはパーティモンスターだ。

 しかも、適正レベルが90~92もあり、ソロでの攻略は、ほぼ不可能と言われてる。

 その上、硬い鱗やブレスは強力で、適正レベルを下回ってると、パーティで挑んでも攻略するのはしんどい相手だ。



 ティファとメリーが居るけど、レンのレベルじゃキツイんじゃ…?


 …それに皆、格好がボロボロだ。



「なぁレア?ここまで、どうやって来たんだ?」


「…床をぶち抜いて…」


「「……」」


 俺とシャルは二人で固まる。


 …ま、まさか、ダンジョンになってるこの遺跡の床をぶち抜いた、だとっ!?

 俺がゲームマスターなら、せっかく作った道をショートカットされて、激オコになるような話だぞ…


「…一つか二つ、破壊したのか?」


「…ん~…5個ぐらい……つかれた」


「「……」」


 まじで?どうかしてるぜ!

 いやはや、凄いとは思っていたけど、ここまでとは…


 そりゃ、魔力切れも起こすわなと、とりあえず、もう一本レアに飲ませて、俺達も戦いに参加する。

 もちろん、宝珠は付け直したし、シャルにも無理矢理付けさせる。


「…ふりーじんぐ……」


「影縛り!絶影!!」


「はぁぁ、シューティングノヴァ!!」


 先程までは絶望しか感じなかった、あのエンシャントドラゴンを凍らせ、動きを止め切り裂き、叩きのめしていく…

 特に、ティファの勢いと攻撃力がすごい!


 俺も、魔法効果を高める輝石を使ったり、ポーションを渡しながらサポートすると、遠距離から氷狼の牙を使って攻撃にも参加する。



 …

 ……


 徐々に、こちらの攻勢が強くなっていってる!


「はぁぁああっ!」

 ティファが腕を斬り落としたっ!


「これは、どうかしら?」

 メリーがドラゴンの口を縛り、目玉にクナイを投げると、魔法をぶつけて爆発させる


「これでぇえ、しまいやぁー!!」

 倒せてはいないけど、レンが尻尾を斬り落とした!

 レベル差があるのに凄いな…


「断罪の輪!」

 シャルが光の輪で、硬い鱗に覆われた首を削っていく。


 そして、俺も…

「レア!合わせろ!リロードオン!」

 ーゼギスの怒りー

 ・雷を落とす (第9位相当)

「…えれくとりっくパレード!」


 俺が杖型のアイテムをかざすと、巨大な雷光がドラゴンの頭上に召喚される…それに合わせて、レアが召喚した、エゲツない数の雷光がドラゴンを囲んだ。


「「はああ!」」



 ドガガガ!…ギギ、ビビ!…ジュウゥゥ…


 二人で溜めた雷を叩き込むと…エンシャントドラゴンの丸焼きが完成した。



 ドーン!と言う音ともに、ドラゴンが倒れる。


 それを見た皆が、歓声を上げた。


「よっしゃあ!いっちょ上がりや!」

「ふぅ、何とかなりましたわ。」


「…おなか…へった…」

「皆、よく頑張りましたね。」


「やりましたね!ユウトさん!」

「あぁ、何とか生き残れたな…」


 俺達は、この難敵を打ち破れた事を、互いに労い讃えあった。

 そう…何よりも、一人の死者も出さずに済んだ事を。



……

 その後は、少し休憩をしてから、遺跡の入り口へと戻り始める。


 普通に戻ると、かなりの時間がかかる筈だけど、レア達が開けた穴があるので、ティファがメリーを上の階に押し投げて、ロープを垂らしてもらい登っていく。


 …お陰で地下4階までは、あっと言う間に戻る事ができま。

 なので、そこから上は正規ルートで歩いて戻る事にした。


 すると…行きの時には居なかった、モンスターが現れ始める。

 エンシャントドラゴンを倒したから、外に出ていたモンスター達が、遺跡に戻って来てるのだろうか?



 ただ、さっきまでの戦闘に比べれば優しいもので、ほとんど立ち止まる事無く進んで行けた。


 …唯一、レッドドラゴン二匹と同時に遭遇した時だけは、ちょっと焦ったかな。


 さらに、途中で宝箱やアイテムを発見したので、追加報酬として貰っておくのを忘れない。


 そうして…ようやく、ボス部屋への転移騒動の原因である地下一階、最奥部分まで上がって来れた。

 …ここで、魔法陣が発動されたんだよな。

 

「…少しお待ち下さいね。」

 そう言うと、メリーは脇に落ちていた大きめの石を、ホール中央に向けて転がし投げる。


 すると、床が発光して、いくつもの魔法陣が浮かび上がり、投げ入れた石は転移で掻き消えてしまい、後には何も残らない。


「これは、時間式の罠のようなものですから、今からしばらくは発動しませんわ。」

 メリーはそう言いながら、スタスタと歩いて行く。


 たしかに、再び魔法陣が発動する事はなくて…

俺達はようやく、入り口まで戻って来る事ができた。




 レンが、爺さんから預かっていた、見鏡の水晶を使って連絡を取ると、

 水晶の向こう側に爺さんが映り、「無事で良かったのぉ」と言う声が聞こえてきて、ゲートを開いてくれる事になった。



 …俺はその間の時間を利用して、ティファに擦り寄ると、今回の件で義魂の指輪を失ってしまった事と、そのお陰で命が助かったお礼を改めて伝えた。


「…ユウト様がご無事なら、何も問題ございませんよ?」


「でもさ…あげた物は失うし、また助けられるしで…ティファには感謝してもしきれないよ。」


 俺は、申し訳無い気持ちと感謝を伝えたくて、深く頭を下げる事しか出来なかった。

「何でも良いから、して欲しい事とかないかな?」と聞いてみたら…


 ティファが、頬を赤くしながら「で…では、先日のように、また二人で…デ、デートのようなものを、そ、その…」

 恥ずかしいのか、途中で詰まるティファに、俺は「そんな事でいいなら、俺からお願いするよ!」と笑顔で約束した。



 …二人でコソコソしてると、ゲートが現れ、順番に潜って王城へと戻っていく。



「ふぃ~、やっと戻って来れた!」


「…ほんま、ユウトと絡むと、暇が無くてええわ」

「うるへぇ!」


 王城の庭でレンと、話していると、城からルサリィが走って来るのが見えた。


「…お兄ちゃーん!無事で良かったぁ」

 飛びついて来るルサリィを受け止めて、頭を撫でであげる。

 待たせてゴメンと言いながらモフモフしてると、

すぐにティファの所へ行ってしまった…



 モフモフ…



 俺がルサリィの後ろ姿を見ながら、手をワキワキしていると、シャル達と話をしていた爺さんがやってきた。


「無事で何よりじゃのぉ。まさか、エンシャントドラゴンとはなぁ…」


「まさかじゃ無いって、ほんとに死にかけたんだからなっ!?」


 命があったなら、問題無いとか言われて笑われる。

 …笑い事じゃねぇっ!


「では、陛下へ報告をしてもらうかのぉ。…まぁ、褒美の準備やらがあるので、2、3日は待っててもらう事になるかもしれんがのぉ。」


「…もう、何でもいいや、取り敢えずゆっくり休みたいよ」


 俺は爺さんにそう言うと、皆もそれぞれの部屋に戻って行った。





……

 …コンコンッ


 軽快にドアがノックされる。

 誰だろう?ルサリィが遊びにきたかな?



「…失礼します。」


「……へっ?シャ、シャルッ!?」


 シャ、シャルが単身乗り込んできた…

 いや、別におかしい訳じゃ無いけど、今までなら絶対にレンが付いて来てたのに…


「どどど、どうかしたのか?」


「……あの、今日のお礼を改めて伝えに」


 モジモジとした仕草で、そう答えるシャルに「気にする事ないのに」と言いながらも、心臓バクバクで椅子を勧める。


 マジックバッグから、レモンウォーター的な物とコップを取り出して、シャルに注いであげる。


 この飲み物は、アスペルにいる時にサルネアに作ってもらった物だ。

 このバッグの中に保管しとけば、いつでも新品状態で取り出し可能。

 温度とかもそのままだから、このバッグの中は真空…いや、時間が止まってるって感じなんだと思う。


 …まぁ、検証してないから、今入れてる物が腐ったりすれば、そのうち分かるだろう。



「あっ、ありがとうございます。す、すみません…本来なら私がやるべきなのに…」


「あ~、その件なんだけどさ…今回の遺跡で、俺もシャルに命を助けてもらった訳だから、奴隷からは解放!って事にしてもらおうと思ってるんだけど?」


 シャルが首を傾げている。


「そもそも、俺がシャルを庇ったりする前に、障壁で守ってくれてただろ?だから、あれが無ければ二人共死んでたって事だよ。」


「でも、あれは自分の為でもあって…」


「だけど、二人…いや、二人と一匹分の展開をしたから、消費が激しかったでしょ?」


「それは…」


 だから、命を救ってもらった事になるから問題無い筈だよと伝える。


 が…しかし、嬉しいだろう筈のシャルの表情が優れない。

 …何かまずい事言ったのかな?



「…あの…私は…貴方の事が……」

 …こっ、これは!?この展開はっ!


「好きではありませんでした。」

 告白ちゃうんかーいっ!!



「……はい。」

ションボリする…


「あっ!ちがっ、あ、あの、でも、その…遺跡の時に凄く頼もしくて、身を呈して守ってくれたのが嬉しくて。

…レン以外の人を、こんな風に思った事が、無かったから。」


 シャルの銀色の髪が揺れて、彼女のはにかんだ笑顔を際立たせる。

 うぐっ!しょ、正直、このまま連れ去って、監禁して、俺だけの物だ!って、言いたい…



 でも、レンに言われた通り、ティファ達の事を放ってはおけない。


 だから、この気持ちはまだ…



「だから、ユウトさん達と一緒に行動したい…もっと色々見てみたくなったんです!」


 …だから、口実的にも、奴隷なら連れていかれる、って程で話が進められる…か。


 こんな風に言われて嬉しく無い訳ないけど、本当に良いのだろうか?


 レンとかは、どう思ってるんだろう…

 俺は、少し考えて言葉を伝える。


「シャルはそれで本当に良いのか?俺達といると、今回みたいに命の危険があるかも、だぞ?」


「それは、今も変わりませんし…」


 少し寂しげに笑うシャルを見ると、居ても立っても居られない!


 誰かが反対するなら、この俺様がボッコボコにしてやんよっ!

 俺は、シャルの話を快諾して「じゃあ、これからも宜しくな!」と爽やかに手を握った。


 …おてて、やんわらかかったぁ!





 …

 ……

「ダメです。」


「…ど、どどうしてもでしょうか?」


「…はい。」


 俺はシャルの気持ちをニヒルな笑みで受け止めて、その足でティファとメリーを説得にきた…

 のだが、即否定された。


 …くっ!くそ、斯くなる上は、ボッコボコ…には無理です。はい。


 当然、二人を納得させれる言い訳は思い付かず、捨てられた子犬のような目で、ただ二人を見つめ続ける。


……

「…はぁ。まったく、ユウト様には敵いませんわ。お姉様も降参した方が早いですわよ?」


「…ぐぬぬ。…仕方ありませんね。ユウト様がそう仰るのであれば…」


「えっ!?いいの?二人共ありがとう!!」

 つくづく俺に甘い二人に、どっぷりと甘えて許可をもらった。


 だけど、褒美の内容も分からないまま、シャルを連れ去るのはダメだから、一応、様子を見てとの事になった。


 俺は二人に抱きつき、お礼を言って部屋を後にした。




 …

「メリッサ、本当に良かったの?」


「それは…分かりませんわ。けど、ユウト様にあれだけ言われて拒否できまして?お姉様?」


「それは…無理ね。」


「まぁ…これからもわたくし達の存在意義が脅かされないよう、有用さをアピールしていくのみですわね。」


「そうね…見捨てられないよう、頑張るしかないわ。」

「そのセリフは、ユウト様の前では禁句でしてよ?」


「えぇ…分かっているわ。」






 …俺が部屋を出た後、二人が同行を拒否した理由が嫉妬心で、こんな事を語り合っていたとは、当時ルンルン気分の俺は…知る由も無かった。

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