第32話誤算と奴隷

「…あぁ~しかし、何だな…この度は色々とご迷惑を」


「…気になどしておりませんわ。」


 俺からの重ねまくるお詫びに、聞き飽きたのかヒラヒラと手を振るメリー。


 俺達は、織物商会の元会長バルカナ邸から、自分達のホームに戻る為、とぼとぼと歩いている。

 …いや、とぼとぼと歩いてるのは俺だけか。


 メリーは凛と歩いており、彼女とすれ違う人は、その姿に惹かれ、ほとんどが振り返ってしまっている。



 …はぁ、心の中で溜息をつく。


 あの後、メリーのやりたいようにしてもらおうと、お任せにしたんだけど、

 一応、懺悔の指輪があったから、アベイル都市長の弱みか何かを聞き出そう!

 と、提案してみたんだけど…


「もぅ、アベイルの籠絡は完了しておりますわ。」


 だもんなぁ…

 マジで、仕事完璧過ぎだよ。


 バルカナの奥さん…メリエットさんは、アベイル都市長からの親書で、俺に全面的な協力と危害を加える者の排除を依頼されていたらしい。


 これは、当然メリーがアベイルに書かせたそうだが…

 それにらメリエットさんは、元々の商会長家筋の人間で、入り婿の旦那よりも権力があったそうだ。


 今迄は、ある程度好きにさせていたが、ラヴァーナ教の事やメリーの説得…

 そして、都市長からの親書で、離婚、追い出し、商会長の挿げ替えまで即決したらしい。


 …女性って、恐ろしいな。


 新商会長には三人居た幹部は…おデブコンビがその内の二人だったので、必然的に残ったパシェルトンと言う男が代表に選任された。


 もちろん彼に実質の決定権は無いが、メリエットさんもパシェルトンも、俺達、アイアンメイデンに全面的な協力を約束してくれた。


 これによって、シルクットでの知名度向上の為の活動は終了したんだが…


 あぁ、余談だけど、メリエットさんは、ウチのメリーと名前が似てるからと、メリーを我が娘のようだ!と大層気に入ってたな…


 顔とか体型とか、全然似てないけどねっ!?



 …商会関係は攻略完了だけど、後は、ラヴァーナ教をどうするかだよな。


 奴らは凄い勢いで信者を増やしていてるようで、今ではシルクット、全人口の2割に迫ろうって信者数らしい。


 俺個人としては、ルサリィの母親を奪った組織なんて、ぶっ壊してやりたいけど…

 勝手な考えで動いた挙句、皆に迷惑をかけるのもな…

 と、考えると、それも言い出し辛い状況だ。



 ……

「どうされまして?」

 メリーが腕を絡ませて聞いてくる。


「…いや、色々と問題が山積みだなと…」


「全ては、ユウト様の思いのままに…ですわ。」

 頭を俺の肩に預けながら色っぽく囁いてくる。


 …メリーはああ言うけど、今回だって、彼女が助けてくれるなければ、余裕で逝けてたよ?俺。


 後で教えてもらったけど、俺がキレて別れた後から、ずっと見張っていてくれていたらしい。

 …俺が思い詰めて行動すると、ロクなことがないとバレていたらしいな


 そういや、昔も、俺が暴走して、皆に…特にメリーに迷惑を掛けた事があったっけ。


 …そう考えると、俺ってほんと学習能力が無いし、メリーは完璧過ぎるって実感できるよ。


 今回の尾行も全然気づかなかったし…



 それでも、商会やメリーの事はひと段落ついたから良いけど…


 帰ってからの悩みもある…レン達の事だ。


 今回の件では、【断罪の巫女】として、俺に力を貸してくれると言ったのに、意図して情報を隠されていた訳だ…

 しかも、そのせいで俺は、ろくな用意もせず敵地に単身で飛び込み


 …見事、殺されかけました、と。


 一体、どう問い詰めれば正解なんだろう。



「あの裏切り者達への尋問は、わたくしが致しましょうか?」


 疑心暗鬼に陥っている俺の心を、メリーが見透かしてきますよ…


「…いや、ありがたいけど、俺が自分で聞くよ。でも…隣で一緒に聞いてくれるかな?」


「はい!もちろんですわ。」


 しっかり聞けるか自身が無かった俺は、情けない話だけど、知恵を貸してもらう為にも、メリーに同席をお願いした。

 …見栄張っても良いこと無いしな!










ーーーーレン 視点


 昨日の晩から、コソコソしとったユウトが今朝からおれへん。

 何をしてるんかは、分からんけど…


「…なぁんか、嫌な予感するなぁ」


「どうしましたか?」


 俺の独り言に、シャルが突っ込んで来る。

 別に、何っちゅう事はないんやけどなぁ…


「…ユウトどこ行ったんかな?てな」


「ユウト様は…色々とお考えの上で動かれているのでしょう。」


 俺の質問には、ユウトについとるベッピンさんが答えてくれる。

 ティファちゃんやったか…

 俺を軽くぶっ殺せる程の力を持ってるから、怒らへんようにしやんとな。


「…んで、そっちのおチビちゃんは、少しはマシになったんか?」


「……あっ、あのぁっ」

 俺の質問に、ビクッと肩を震わせて、ティファちゃんにしがみついとる。


 俺そんなに怖ないで!?


「…あんな事があったのに、すぐ良くなる筈ないでしょ、バカレン。」

 …シャルがうるさい。


 俺は両手をヒラヒラさせて、意識して明るく振る舞うっておいた。せやないと、この場全部が暗なってまうからなぁ…



「ご…ごめんなさい。……もぅ、だ…大丈夫です。」


 おチビが絞り出すように言うとる。

 はぁ…大丈夫とちゃうやんか!

 なんや、モヤモヤするなぁ…


 こんな時、ユウトが居ったらいじり倒したんのになぁぁ!



「…おチビ…あとで、顔かして…」


 おぉ…魔女っ子おチビがおチビにおチビて…

 なんや、物騒な事せんかったらエエけど…まぁ、せぇへんか?


 元祖おチビちゃんが、震えながら頷くのを見てトンガリおチビは皿を積み上げていっとる…


 メイドの姉ちゃんが泣きそうやぞ?



「…では、私達はユウトさんに頼まれた、アジトの対応を役人としてきます。」


「…そうですか、私はレアとルサリィの相手をしていますので、何かあれば連絡して下さい。」


「はい、分かりました!ティファお姉さん。」


 嬉しそうにシャルが尻尾振っとるな…

 俺以外に、こんなに懐くなんて珍しいわ。



 …ジェ、ジェラシーちゃうからな!



 俺達は朝飯を食うてから、衛兵の詰所に向かった。






ーーーーーレア 視点


 何やらまた面倒な事が起こっているようだ。


 私の「食べる」時間を不愉快にされるのは、見過ごせない問題だ。



 …それに、ご主人様が可愛がってる人間のようだし少しは相手をしてあげるか。


 …ちょーめんどいけど。



 今日は運動するから、朝ごはんは抑えめにした。

 たった20回のお代わりで止めたから、身体が軽い。

 …シアンが何かブツブツ言ってるけど、聞く必要は無さそうだ。



 ティファ姉様と一緒に、おチビを連れて庭に出る。


「…ふりーじんぐ…」

「…アイス……うぉーる!」


 庭を一面凍らせて、魔法で遊園地?と言う物をイメージして作ってみた。


 ご主人様に聞いた事しか分からないから、上手に作れたかは…知らない。


「…うわぁぁ!凄いっ!すっごーい!」


「…姉様……」


「ホーリープロテクション!」


 お姉様が、おチビに保護魔法をかけてくれた。

 これで、寒く無くて遊べるだろう…か


「…ふぅわぁぁ……ねむ。…」


 働いたら、眠たくなってきたので屋敷に戻ろう…


 ……ガシッ!


「レアちゃん!一緒に遊びましょっ!」


 おチビに捕まった……









 ーーーーーユウト 視点


「しっかし、影縫いからの一撃は凄かったよな!リアルに見るのは初めてだったよ!」


「ふふ…それは良かったですわ。」


 もうすぐ屋敷が見えてくる所まで来て、メリーの暗殺スキルを褒めていると…


 ん?なんだろ…冷気が漂ってるよう……なっ!?



「屋敷の庭が凍ってる??」


「…きっとレアの仕業ですわね。」



 …俺達は溜息をつきながら、庭に入る。



「…きゃー!すごーい!」

「…わたし…すごい…」


 そこには、氷で出来た遊園地があって、無表情でルサリィに連れ回されるレアの姿があった…


「…あら?こんなに魔法を振る舞って差し上げるなんて、レアらしくありませんわね。」


 確かに、氷を動かしたりゴーレムを出したり、結構本格的だな…


「ルサリィのためか…でも、俺は嬉しいよ。」


 メリーは普通にしてたけど、あのレアが他人を気遣うなて嬉しすぎるよ!

 …ルサリィも楽しんでくれてるみたいだし。



 …まだ、空元気だろうけど、自分自身で立ち直ろうと頑張る、そんなルサリィに俺は力を貰う。



「俺達も遊ぶかっ!?」


 いえ、わたくしは…と拒否るメリーの手を掴んで、無理矢理参加させる。




 …結局、昼時まで遊んでたら…レアが倒れた。

 魔力の使い過ぎだろうな…


「…うぅ……おなか…へった」


 と、本人が言っていたので、好きな物を出前で何でも頼んでやる。


 リビングが食べ物だらけになってしまって、シアンは片付けに苦労していた。

 さすがに悪いので、皆で片付けを手伝ってお茶をしていると…レン達が帰ってきた。




「ふぃ~たっだいまぁ~っと。」

「ただいま戻りました。」


 俺に戻って来たのかと、レンが気軽に声を掛けてくるけど…目が見れない。


 昔のイジメられてた時を思い出すな

 仲間のフリをして、実は嘘でした!ってやつだ。

 …こっ、怖っ。



 俺が口ごもっていると隣から声が掛かる。


「お二人にお話がありますの。そこにお座りなさい。」


 メリーの言い方に、二人は首を傾げながら席に着くと、まずはシャーロットが報告を始めた。


「賊、及び信者達は取り敢えず、市長会館で身柄を預かってもらいました。数が多いので、長くは無理だそうですが…」


「あ…あぁ、ありがとう…シャーロット」


「その前に、ユウト様に言う事はありませんの?」

 強い口調でメリーが問い質す。


「…どないしたんや?そんな怖い顔して。なんぞ俺らが癪に触る事でもしたんか?」


「……体に聞いてみましょうか?」


 レンとメリーの間に目に見えない、火花が散ってるように感じる…このままじゃ一触即発だな

 俺は気合いを入れる。


「ちょっ、ちょっと待った!」


「「……」」


「俺が…まず、俺が説明するから、その後で理由を聞かせてくれ。」


「分かりました。私達もユウトさんともめたい訳ではありませんし。」


 それから俺は話しを始めた。

 昨日の夜から朝にかけて、俺が何を考えどう行動したかを…何が起きて、どんな事になり、俺が二人をどう思ったかまでも、詳細に述べた。



「…そうゆうことか。」

レンが納得したように呟く。


「はっ?…それだけですの?」

メリーが、怖い…


「その事に関しては、全責任は私にあります。…情報の価値を上げようとし、結果的に貴方を危険な目に合わせてしまいました。」


「…いや、もちろん俺らかて、まさかそんな事になるなんて」

「レンは黙って。全ては私の責任です。謝罪致します。」

 シャーロットは深々と頭を下げる。

 そこには、誠意が見て取れた気がした…



「…そ、それなら、しかたな…」


「冗談ではありませんわ!貴方のような小娘の謝罪に如何程の価値があるとお思い?」


俺に返事はさせてくれず、返答次第では今から王国に攻め入っても良いと言い放つメリー。


 シャーロットの顔がみるみる青ざめて行く。

 精神年齢がオッサンの俺でも、この状況は泣きたくなるぞ!


 だって、ウチの姉妹が本気を出せば、王族皆殺しくらいはやってのけるだろう。

 そんな大事を、自分の責任で起こしたなんて…

 俺なら絶対耐えられない!

 泣いて許しを願ってるだろうな…


 それなのに、シャーロットは必至にこの状況を打破しようと考えているようだ。

 若いのに頭が下がる…



 ……ここまで厳しくなくてもいいだろ?

 俺はメリーの耳元で囁く。

 すると、メリーがティファを見ろと合図してくる。


 …ひっ!

 お、鬼が、鬼武者が…

 額に青筋を浮かばせて、二人を睨むティファの眼力は、気の弱い人間なら漏らしてるくらいだろう、強力な力を発してる。

 てか、俺も少しもれ……



 おそらく、メリーは俺が頼めば、二人を許す気だったのだろう。

 だけど、ティファが収まらない。

 間違いなく、二人を殺す勢いだ…


 障壁の展開時間すら与えてくれるかどうか。

 ど、どうすれば正解なんだろう…



「……で、では、私の命で手を打って頂けません」

「シャルっ!!…あかんぞ、そんなん俺が許さん!」

「でもっ!」


 レンがシャーロットの言葉を遮り、俺に縋るように頼んでくる。

 姉妹達を止めてくれ、何とか許してほしいと…


 叶えたいけど、止めれるのだろうか…俺に。


「な、なぁ…みんな?俺は」

「あなたは、確か王族の姫でしたわね?」


「…は、はい。」


「王族としてのプライドや責任感はお持ちですの?」


「もちろんです。」


「…命を捧げられるのですわね?」


「…それが償いならば。」


 二人のやりとりは不穏な空気しか生まない。

 出来る事なら、この場から逃げ出したいくらいだけど…俺の事だから放り出す訳にはいかないよな。


 意見を挟む余地はなさそうだから、結局は、このやりとりを見守るしかないのか…



 メリーが、その言葉に二言は無いか、シャーロットに確認している。

 頷いたのを確認して、レンが刀に手をかけてる…


 とりあえず…『アリアーシャの涙』を用意しておこうか。



「…分かりましたわ。では、貴方は今日からユウト様の奴隷におなりなさい。」


「へっ?」

「…はっ?」


 レンとシャーロットの目が点になってる。

 俺も、おそらく、点になってるだろうな…


「それで如何ですか、お姉様?」


 レンと同じく、剣に手を当てていたティファが、柄から手を離して考える。


「最大限の侮辱を与え、命を尽くさせる。ですか…いいでしょう。それで手を打ちます。」


「いやいや!ちょっと待ったってぇな!そんな無茶な話あらへんて!?やろ、ユウト?」


「貴方はお黙りなさい。ティファ姉様の寛大な処置が受け入れられないなら…全てを奪いましてよ?」


「……」


 …おいおいおいおい、どどど、どうなってんの!?

 俺が一番テンパってるんですけどっ!!

 何が、どうなれば、そんな話になるんだよ…


 …だれか、俺に説明を


「…それで、王国に手出しはしないと?」


「えぇ、メリッサ・アルフォートの名とユウト様に誓いますわ。」

「私も誓いましょう。」


「そうですか…では、それでお願いします。」

「いやいや、あかんて!おい!ユウトも、なんか言わんかい!」


「そっ、そんな…そんな美味しい話が…」


 おいしいとちゃうわボケ!と、レンが突っ込んでくるが、俺の耳には届かない。

 シャーロットが俺の…奴隷?

 しょ、所有物ですか??

 殺されかけたら、美少女が手に入るとか、どんなクソゲーでしょうか…


 いや…


 だが、それがいいっ!!



「そこの煩いのに免じて、一つだけ、救済条件を付けてあげましょう。」


「そ、それは何や?」


 メリーが出した条件は、俺や俺達にとって、命を救う程の価値がある事を起こせば、奴隷から解放すると言うものだった。


 そんな事…できるのか、ってか起こるのか?



 んん~メイドか…いかん、頭の中がピンクな妄想で埋まって行く。

 ヤバイ…

 エ○ゲで鍛えた俺の妄想力が、復活を遂げようとしている!



 俺は、必死で自分を抑え、イケメン風に言う。


「ごぉれから、ヨロシクぅネェェ!でへへ」


「ひっ……」




 …シャーロットの微かな悲鳴だけが、その場にこだまするのだった。

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