第31話制圧と和解

ーーーーー 私室


 …

 ……

「はい。全て滞りなく進んでおります。」


 …そうか、さすがは我が宿主よ


「いえ、滅相もございません。あなた様のお力あっての事でございます。」


 …この調子で行けば、彼奴等の絶望を拝めるのも、そう遠くは無いな


「はい!…そして、その暁には、私の宿願も何卒…」


 …分かっておる。其方の働きにも報いよう


「…あなた様には、感謝の言葉しかございません。何か私に出来る事はございますか?」


 …ははは。奴等を存分に楽しませてやれ

 …そして、貴様に裏切られる、その絶望を我に!


「もちろんでございますっ!全ての信頼を勝ち取り、あの方々の絶望を捧げさせて頂きます。」


 …よかろう。楽しみにしている




 不健康そうな顔に眼鏡を掛けた、細身の男の影を映す床には、揺れ動く二つの影が重なりあっていた。


 彼は眼鏡の位置を直すと、仕事をするための執務机に向かう。


 地下に作られた大きなすり鉢状の会議兼執務スペースは、彼が持つ権力の象徴…だった。


 今ではこの広いスペースで会議を開く事は、ほとんどない。

 だが、その事に大した寂しさは感じない。


 何故なら自分が置かれている今の環境の方が、自分と弟で交わした、約束の"夢"に向かっていると実感できるからだ。


 そして、このまま進んでいけば、今の主人では成し得ない"宿願"を達することが出来る…と確信している。



 だから、私は寂しく等無いのだ!

 持てる全てを持って彼の方の為に働き、全ての信頼を勝ち取る。そして、その褒美として御方の大いなる力で憎き彼奴らに天罰を与えるのだっ!!








ーーーーーユウト 視点


 この世界の夜は早い。

 この6年で学んだ事だけど、この世界では無駄なエネルギーを使わない自然に即した生活が基本なんだ。


 ここでは、俺が現世で行なっていたような、物を消費し、垂れ流すだけの生活環境は許されない。


 街の大通りには、永久の灯(エターナルライト)がつき始めているが、これだって、市長会館にある魔力貯蔵庫(シティバンク)と呼ばれる、魔力の電池みたいなのがあるから明るいのだ。


 それにこの力は高価なのでメイン通りにしか設置が無い。

 だから、脇道や中心街から離れた場所にある家々は眠りに着くのが本当に早い。

もし遅くまで起きていられるとしたら、それは貴族や一部の大商人達くらいのものだ。



 俺は、薄暗いから暗くなっていく街の中を、ターゲットの元に向けて足早に進んでいる。


 …情け無い話しだけど、そもそも今向かってる先や、ターゲットにしている貴族を選定したのは…メリッサだ。


 各商会に意見力のある貴族達と、各商会のトップ達。

 そして…この街の二大トップ、アベイル・モンド・シスクク都市長そして、バカルナ・ラーゼンロット織物商会長これらを一覧で書き出し、攻略順まで完璧に用意していたメリッサ。


 そんな彼女に…俺は、あんなセリフを


 悪かったのは、全て俺だったんだ。

 役に立たないレベルに、役に立たないアイテム


 …何がチートだ。何も出来なかったじゃないかっ!



 大切な人の大切な存在を守れずに、何がアイアンメイデンのトップ!だよ…


 分かってるさ、失った物は戻らない。

 それは理解してるつもりだ。

 …だから、今あるものを全力で守るって決めたんだ!


 ふざけた性格や、生き方そのものは…

正直、変えられ無いかもしれないけど…


 でも、注意深く、しっかりやるのはできる。

 …筈だ。


今回、俺の力が無いばかりに辛い目に合わせた、ルサリィの事は今後、俺が全力で守ってやる。

 悲しい思いだって…もうさせない。



 その為に、皆で笑って進む為には汚い事だって進んでやってやるさ!


 …そして、そしてメリッサ…メリーにもきちんと謝ろう。

 自分の無力を八つ当たりするなんて、最悪な行いだったって…




 まぁ、謝って一発ぶん殴って許してもらうか!

 …死なない程度にな。






……

 最初のターゲット宅には、考え事をしながら向かっていたので、目的地の屋敷には、割とすぐに着いた。


「…リロードオン」

 ー伝心の鈴ー

 ・対になる鈴と共鳴し、所有者のみに音を知らせる



 …俺は、庭に潜り込み、音の出ないベルを鳴らす。



…ガチャッ

 しばらくすると、裏口が開いてメイドが一人出て来た。


 …ウチから派遣されたメイドだ。

彼女達は、俺が見えていても視線は向けないし何も見ていないのだ。

 それがウチでの取り決めであり、ルールだからだ。



 俺はメイドが扉を開けて出て行った隙に、一人目である、アバスト男爵の屋敷に入り感想を零す。

「…やっぱり、屋敷はどこも似た作りだな。」

 そう思い、二階にあるだろう主寝室へと向かう。



…コンコン…ガチャ


「ん?…何だお前はっ!」

「怪しい物では無いので、静かにして欲しい。」


 突然の来訪者に驚き叫ぼうとする男に、思いっきり怪しい俺は片手は上げながら、もう片方の手には【モーリスの誓い】と言う爆弾型のアイテムを持っているのを見せて静かにするよう脅す。



「……い、一体何が望みなのだ…」


「俺は、貴方が顧問をしている資材商会と取引がしたいんだ。」


「おぉっ!では、君がユウト殿かなっ?」


「えっ…あぁ、そうだけど?」


「そうか!噂はかねてから伺っているよ!」


 初対面の筈の俺の名前を聞くと、アバスト男爵は、俺の事を以前から知っていると言い出し、先程までの警戒の色が強かった表情までも和らいでる…


一体、誰に紹介されれば、こんなに油断を?

 ヘッケラン経由とかで、俺の話を聞いたとかなのだろうか?


「…あなた、ヘッケランの知り合いとかですか?」


「ヘッケラン?いや、その人物ら知らないが、メリッサ様…殿から、しっかり教えこま…聞いていたのだよ!」


とりあえず聞いてみたら、メリッサの名前が出てきた。

 しかもなんだか、だいぶ関係性が見える発言をしているが、ここは敢えてスルーしておこう。


「…では、取引の件は?」


「もちろん!あなたの働き手を派遣する事業や、運輸・運搬に関わるコスト削減案は素晴らしい!紹介状を渡しておくとも!」


話は全部通っているようで、仕事の事までしっかり理解されていた…

そりゃ、メリッサ達が主体で考えたんだから、そうなっいて当然か。

その後も、めちゃくちゃスムーズに話は進んでいるき、紹介状なども滞りなく手配してもらえた。

 …めちゃくちゃ、すんなり終わってしまったな


 普通は怪しんだり、言葉の駆け引きをしたり、交渉のテクニックを見せつけてから、紹介状ゲットだぜ!ってなるんじゃないの?




 俺は未達成感を抱きながら、二件目に向かう。

 …二人目はイスケル男爵だ。



 目的地に着くと、先程と同じ手順で屋敷に上り込む。


…コンコン…ガチャ


「なななな、なんだ!チミは!」


「…怪しい者ではありません。ユウトと言います。」


「…おぉぉ!あなたが、あのっ!話は聞いていているんだな!すぐに紹介状を渡すんだな!」


 ……

 二件目も終わってしまった。




 …それからも、計五件回ったが話を聞いてなかったのは、五件目に忍び込んだオクスカー伯爵だけだった。


 この人は結構な引きこもり癖があるらしくて、俺とは話が良く合った。

 アスペルでの事や、これからシルクットで始める俺の事業計画なんかを説明したら、「紹介状を書くだけならOK」と言われ、後は自分で商会長に説明するようにと書類を渡された。



 …事前に用意したアイテム達が激しく無駄になった感はあるけれど、有力貴族達からの紹介状の取り付けはこれで完了した。

 流石に夜も遅いから、残りの商会長達攻略は、明日の朝から訪問して口説いて行こう。



 …俺はそう計画を立てると、一度屋敷に戻った。







ーーーーーー翌朝 早朝


 俺は皆が起き出す前に、屋敷をそっと抜け出す。

 …シアンとは顔を合わせたけどノーカンだ。


 それから四ヶ所の商会を回り、紹介状を見せると問題なく協力関係の承諾を得られた。

そして、今後の連絡網等を構築して行く。



 最後に、オクスカー伯爵から貰った紹介状を手に、この街最大の織物商会を目指す。



…コンコン


…ガチャッ

「はい?」


「オクスカー伯爵から書状を預かっている、ユウトと言います。商会長さんにお会いしたくて…」


 受け付けに出たメイドさんは、確認の為に中に戻っていく。


「ん~やっぱり、緊張するなぁ」


 この交渉に今回の成否がかかってるかと思うと、思わず気持ちが言葉に出てしまった…





…カチャ

「お待たせしました。商会長様がお会いになるとの事ですので、どうぞ…」


 俺はメイドさんに案内され、織物商会の本拠地に挑む。

 …どんな状況でも対応できるようにしておかないとな。




…コンコン。

「お客様をお連れしました。」


「…ご苦労。君は下がって、お客様だけお入り願いなさい。」


「畏まりました。」


「……?」


 俺は中から聞こえた部屋の主の声に疑問が浮かぶ。

 …最近どこかで聞いたような気がするし、客だけを入れるなんてあるのか?

 普通ならメイドさんが、扉を開けて中へどうぞ!ってしてくれるだろ?

 そんなのメイドさんの使い方をまちごうとるぞっ!



 俺はズレた方向に行ってしまった考えを、修正する事も無く、不用意にドアを開けて中に入ると


「…失礼しまっ……」


 …屈強な男達に囲まれました。




俺を睨んで囲む傭兵達。

 …やばい

 やばいよ!やばいよ!



 俺の今日の格好は、殆ど昨日のままで、ローブだけ脱いでいるような状態だ。


 対貴族用に高い服は着ているけど、ちゃんと中にも忍び装束は着用済ではある…

 だけど、今使える盗賊スキルでこの状況が打破できるとは到底思えんっ!


 そもそも範囲攻撃が必要なんて想定してないから、攻撃系のアイテムは麻痺や毒なんかの、状態異常系がほとんどだ…


 俺は無い頭をフル回転させて考える。

 このままじゃ、防御の宝珠を超えたダメージを受けて…ゲームオーバー…



 あれだけの啖呵を切って、最後の詰めをミスって終わりとかありえない。

 …こんな事なら、先にメリーを探して謝るんだった。


 このまま話し合いが決裂して殺されるとしたら、今の心残りはムッとした表情のメリーの顔だけだな…



 …ほんとに……ごめんなメリー。

俺は心の中で謝罪する



「…あっはっはっはぁ!護衛も付けず、一人で来てくれるとは助かったよ。」


 後悔に苛まれていた俺の意識は、やはり聞き覚えのある声に呼び戻された。


「…あなたが、バカルナ・ラーゼンロット商会長ですよね?…この対応は、オクスカー伯爵からの紹介状は見てもらって、の事ですか?」


 俺は何とか状況を変えるために足掻いてみる。


「…あぁ、伯爵からの紹介状は見たさ。だが…この件とは無関係だ。」


「無関係!?あれが偽物だと?」


「…中々、感の悪い少年だ。紹介状は本物だが、伯爵には君は来なかったと報告しておくともさ」


「俺が貴方に何かしたと…?」


「「ぷっ…くくく、はーははははっ!」」


 突然、バルカナの横に立っていた二人のデブ…男女が、いきなり笑い始める。

 …なんか腹立つ笑い方だな!


「こいつ、まだ気づいて無いようだ。」

「そのようねぇ、ラジット。」


「ドーダリー、教えて差し上げれば、どうかなぁ~?」

「よろしいのですか?…し、さ、い、様!」


「はっ!?」

 俺はコントのように言われた言葉に、ようやく理解が追いつき唖然とする。


「あーはっはっはっ!愚か者めがっ!ようやく気付いたとは、本当に何も知らんかったようだなぁ…」


 俺の表情を見て、意地悪くバルカナが微笑む。



「あの【断罪の巫女】から聞いておらんのか?奴らは、我々がラヴァーナ教の幹部だと知っている筈なのだが?」



 俺は驚き過ぎて言葉も出ない。

 …たしかに、今回の行動は俺の独断だけど、レン達には先に概要は説明した筈だ。


 それに、商会を押さえるのはもっと前から伝えてるのに、必然と出会う商会長達の一番大事な情報を…伏せられたと?



 頭がクラクラして、膝をつきそうになるのを堪える。

 真意は分からない。

 なぜ、黙っていたのか分からない。

 まだ…裏切られたと決まった訳じゃ無いっ!


 …前回の様に、一時の感情で馬鹿な判断をしないよう、何とか自分に言い聞かせ踏みとどまる。



「…聞いて無い。何か理由があったんだろ……」


「そうかそうか!それは感謝せねばな!お陰で、俺様をぶっ飛ばした奴の主人を殺せるのだ!」


 絞り出すように答えた俺の言葉に、哀れな道化を見る表情で見下し、高笑いする三外道共…


 俺を囲む奴らも、ヘラヘラと笑ってやがる。



 …悔しい。

 でも、逆転の手が思い付かないんだっ!





…ヒュッ!

…ストトトトトトトトトッ!


「なっ!何事だ!?」

「あっ、アニキ!体が動かねぇ!」


「一体どうなっているんだ!プヒー」

「そうよそうよっ!訳が分からないわ!プヒー」


「きぃさまぁぁ!一体何をした!」


 恐ろしい剣幕で俺に怒鳴るバルカナ達。



 一体、何が起きたのだろうか?

 俺にもまったく分からないんだけど…


 辛うじて分かるのは、奴ら全員の背後に短剣?クナイの様な物が刺さったら、突然動けなくなったと騒ぎ出した事だけだ…




「…盗賊の高等スキル、【影縛り】ですわ。」


 …俺の目の前にフワリと黒衣の天使が舞い降りる。


 メリッ…メリッサだっ!


「メリー!!」

 俺は子供みたいに、メリーに抱きつく。


「…よしよし、怖かったですわね。けどぉ…少しは反省されまして?」


 悪戯好きな少女のように、ペロッと舌を出して囁いてくる。

「してる、めちゃくちゃしてる!ほんとにゴメン!何でもする!何でもするから…俺を見捨てないでくれ…」


「あらあら、そんな約束して大丈夫ですの?わたくし、結構厳しいですわよ?…ふふ。」


 優しい顔で笑うメリーに頭が上がらないし目を見れない。

 泣いているのを見られたく無いから、ってのは内緒で、靴でも舐めておこうかな…



 メリーは俺から視線を外し振り返る。

「さぁ、おバカさん達?わたくしのユウト様に働いた無礼……しっかり償って頂きますわっ!」


 俺が聞いた事無いメリーの声が聞こえる。


 でも、表情は見れない。

 きっと、俺なんかの為に怒ってくれてるんだろうなぁ。


 あぁ、メリー…なんて安心感なんだろう……



「おぉぉい!貴様ら!高い金を払ってるんだ!なんとかしろぉぉ!」


「…だっ、ダンナ…そりゃ無茶ですぜ。」

「こっ!こいつのレベルは異常だっ!」


 バルカナが叫び、傭兵隊が無理だと騒ぐ。


 周りから、「ひゃっ…ひゃく…!?」と呟くのが聞こえるから、おそらくメリーが自分のレベルを開示しているのだろう。



「まぁ~ずは…貴方からですわ!」


「ひっ…」

 メリーの指差しにバルカナが怯えた声を出す。



…パチンッ!

 メリーが手を叩くと、さっき案内してくれたメイドさんと…おばさん?が部屋に入ってくる。


「この通りですわ?お、く、さ、ま!」


 メリーの発言に、奥様と呼ばれたおばさんが震えだす。


「あんたぁぁ!ウチの商会潰す気かぁい?都市長様から、この僕ちゃんには絶対に粗相しないように釘さされてるんだよ!」


「そっ、そんなぁ…ま、ママァ~!!」


 泣きそうな表情をして、命乞いするおっさんバルカナ…

 そんな情けない旦那を見て、奥様はさらに激昂する。


「入り婿のくせに、ふざけたこと言ってんじゃないよっ!あんたとは離婚だ、今すぐ裸で出ていきなっ!」


 ウチから何も持って行くんじゃないよ!と言い放つと…奥様はメイドを連れて部屋から消えて行った。



「…あっ……あぁぁ!そ、っそんなぁぁ」


 影縛りのせいで動く事が出来ないバルカナは、直立不動で泣き続ける。



「…さっ、余興も終わりましたしそろそろ死んで頂きましょうか。」


 面白い出し物が終わったと、興味が無くなった表情で言い放つメリー


「そっ…そんな!何卒!何でも致します!せめて私だけでもっ!!」


 そんな!ズルイ!とおデブ達が喚いているが、バルカナも必死だ。



 メリーが振り返って俺を見る。

「…ユウト様、如何致しますか?」



 恭しく聞いてくるメリーに、俺は笑顔で答えた。


「メリーの好きなようにやってくれっ!」


「…はいっ!ですわ!」


 天使の笑顔で微笑むメリーの後ろで、全員の表情が凍りついた。

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