第30話交差する思い

「…ルサリィィィ‼︎」

 俺は叫びながら、ルサリィの元まで駆け寄る。



 …駆けつけた俺の目の前には、ルサリィの母親が娘を庇い血まみれで倒れていた。


 二人の周りの奴らをぶん殴って退かせ、叫ぶ。

「リロードオン!ハイヒールポーション!」


 俺はすぐに、傷口へ治療効果の高いポーションをぶっ掛けた。


 …なのに変化が無い。


 やばい…変化が無いのは、治療が効かない状態って事だ!


「…リロードオン!蘇生の巻物!」


 ゲーム時代なら、即時復活できる巻物を使うが…


 やはり、反応が無い。


 ルサリィの泣き声が耳に響く。


 くそっ!!


「蘇生のまき…」

「ユウト様…この世界では、蘇生のアイテムは効果が無いのです。当然、教会での復活もありません…」


 付き纏っていた信者達を殺さないように吹き飛ばして近寄って来たティファが、俺の肩に手を置いて諭すように囁いてくる。



「なっ…なんなんだよっ!こんな時に役に立たなくて、何が万能アイテムだよっ!ふざけんな!……ふざけんなっ」


 崩れる俺とルサリィを背に、ティファは死んでいなかった司祭の方を向いて、怒気の篭った声で問いかける。


「キサマ!なぜ、あれを食らって生きているっ!?」


「…はっは~。教主様より賜りし、奇跡のお力よ!」


 司祭は懐から、一度だけ致死性の攻撃を身代わりしてくれる、『身代わりの護符』を出すとそれは破れて消えてしまう。


 奴はさらに懐から別の巻物を取り出すと、転移して消えさった。

 …おそらく、帰還の巻物を使ったのだろう。



 …

「…お母さん!お母さん‼︎」


「……ル…ルサリィ…」


「大丈夫ですか!…俺が何とか、今アイテムで…」


「…わたし…は、主人の…もとに……ルサリィ…を、お…ねがい…し……」

 それだけ言うと、ルサリィの腕の中で彼女は息絶える。


「おかぁさぁぁあん……」


 辺りには信者の呻き声とルサリィの鳴き声だけが響いていた…




 ……

「…リロードオン、グラチェスの種」


 怒りで立ち上がった俺は、植物モンスターであるグラチェスの種を地面に押し込んだ。


 このモンスターは、拘束攻撃できる蔦を複数地面から生やせるので、この場にいる信者全員を拘束させる。



 ルサリィの母親を祭壇の前に移動させ、布を被せてやる。

 …しがみついて泣いているルサリィには少しだけ待っているように伝え、このアジトのボスの元へ向かう。



 …

「…ふざけやがって…絶対に後悔させてやる。」


「……はい。」


 通路に残っていた、最後の扉は牢屋のような物だったが…中で何か動いていたけど関係無いようなので無視だ。


 通路の突き当たりに着くと…壁が少しズレてる。


 左右にも部屋がありそうだけど、一番怪しいのはこの扉で間違い無いだろう。


 俺自身の手で奴らのボスを殺すために、いくつか攻撃用のアイテムを取り出すとドアを開け放つ。





 ……

 しかし、そこに居たのはメリー…メリッサだった。










 ーーーーーメリッサ 視点


 大した利用価値の無い団体だと思っていた彼等は、餓狼蜘と言う意外に巨大な組織だった事が分かった。


 ここのボスである、この男…バッジと言うおバカを締め上げて、聞く事を聞いたら全てぶっ壊して差し上げようかと思っていたのだけど…

 予定を変更して、ユウト様の為にもっと働いてもらう事にしました。


 このおバカさんは、組織内でそれなりに立場があるようなので、教主に繋げる為に使い潰してから

 乗っ取て差し上げる方向で調整していましたら…


 意外と教団や賊達の関係者には、先日わたくしが根回しした多くの貴族達が絡んでいたので、思いの外、簡単に事が運びましたわ。


 それに、言う事を聞かないおバカさん達には、脅し、攫い、暴力、時には甘い餌で釣るなどして、殆どの根回しも完了しましたし。



 …後は、教主であるラクシャスと言う者さえ籠絡してしまえば、二つの組織はユウト様の物となり、あの御方の名声はさらに高まる。

 そして、あの【漆黒の双剣】と呼ばれた力を取り戻して頂き、わたくしを力で屈服させて頂くのですわ。



 …私が素晴らしい想像に胸を膨らませていると、

 バッジ…ワンコがお尻に刺さった尻尾を振りながら、こちらを汚い欲にまみれた目で見てくる。


 仕方がないので、口の枷を外してあげると、ペロペロとわたくしの靴を舐めながら、「次の指示を」とおねだりしてくる。



 仕方が無いので、ラクシャスへの繋がりが構築されるまでは、レアアイテムの収集でもやらせておこうかと考えていましたのですが

 …あぁ、早くユウト様に全てをお伝えして、褒めて頂きたいですわ。





 わたくしの成果を報告して喜ぶユウト様を思っていると、隠す必要が無くなって閉め忘れていた隠し扉が開かれ…


 ユウト様とティファ姉様が現れましたわ…







 ーーーーーユウト 視点


「…メリッサ、こんな所で何を?」


 ベッドに座るメリッサの足元には、どう考えても調教中な褐色の肌のオッサンがいるけど

 …今は無視しよう。



「あらぁ~…もう、気付かれてしまいましたかぁ…」

 残念ですわ、と言いながらオッサンを蹴り上げ立ち上がるメリッサ。



「…説明しろ。何でここに居るんだ?」

 俺は口調をキツ目にして、もう一度、質問する。


「…あら?わたくしを探しに来て下さった、のではありませんでしたの?」

 少し残念そうにメリッサが答える。



「ここのボスは…ソイツだろ?何で生きて…このアジトは潰されて無いんだっ!?や

 メリッサの反応に苛立ち、早口で説明を要求する。



「…メリッサ、ここで私達の知り合いが殺されました。事の顛末を簡潔に言いなさい。」


「まぁ!それは残念ですわ…わたくしは、このアジトを襲った後、潰して差し上げるつもりでしたが意外と使える組織だったので、ユウト様に全てを差し上げようとしていましたの。」


 ティファの言葉に、ようやく全ての理由を語った

 メリッサが、自らの計画を嬉々として語る。


「ふざけるなっ!こんな組織を貰って、俺が喜ぶと思ったのか⁉︎」


「…ですが、ユウト様の名声を高める為に効率的かと?この都市を落とすのも容易になりますのに…」

 先程よりも残念そうに肩を落とすメリッサは、「それでしたら、破壊致しますか?」と今更ながら聞いてくる。



 俺は頭の中がごちゃごちゃになって、この怒りを何処にぶつければ良いのか分からなくなって…




 そして、

「お前は勝手に何をしてるんだよ!?お前の力なんて借りなくても、こんな都市ぐらい俺一人で落としてやるさっ!!」


 …メリッサに怒鳴った。




「…お前が、ここを潰していれば……」

 俺は、今更どうにもならない事を呟く。



「お言葉ですがユウト様、我々の全てはユウト様の為にありますの。他の者の事など、どうでも良いのですわ!」


「だけど!ティファはルサリィを大事にしてるし、レアだってシアンと仲良く…」


「それは、ユウト様の障害にならない範囲での事ですわ。」


「…それは。」


「わたくしも、屋敷の人間達や組織の人間を率先して殺したりは致しません。しかし、その者達がユウト様の目の前に立ちはだかる、となれば話は別ですわ。」


「……」


「ティファお姉様もそうですわよね?その、ルサリィとか言う人間が、ユウト様の害になると判断されれば、平気で斬り捨てますわよね?」


「…そう判断すれば、致し方無いですね。」



 ……!?

「おっ、お前ら…」


「先程も言いましたが、我々の全てはユウト様の為にありますの。故に、これは当然の結果と言えますわ。」


 効率を求めた故の結果で、俺の意に添えなかったのは申し訳ないが、何も反省する事は無いと言い切るメリッサ。




 ……

「…お前の顔は見たくない。出て行けっ!!」

 俺は考える事を放棄して、感情だけで言葉を吐き出す。


 少しムッとした表情をしたが、すぐに涼しい顔をして、「畏まりました。」とスカートを摘むとお辞儀して俺の横を通り過ぎる。



 ティファが声を掛けようとして、戸惑っているとメリッサは横をすり抜けて扉の外に向かってしまった。





 ……俺はどうすれば良かったんだろうか。




 メリッサが去った後、放置されていた、変態のオッサンは火龍の牙で焼いておく。


 レベルは高そうだから、すぐには死なないだろうけど、全身焦げてればその内に死ぬだろう。


 …存分に苦しんで逝くといい。



 他にも、ここを離れる前にやっておく必要がある処理を施す。




 最後にルサリィの元に戻った俺達は、彼女と母親をアジトから連れ出して、鎮魂の祈りを上げてもらう為、ちゃんとした教会へと連れて行った。



 ルサリィはティファが背負い、母親の亡骸は俺が背負う。

 LV3の体には厳しい重みだったけど、自分の為にも背負わせてもらった…

 ローブを羽織らせたので死体とは気付かれ無かったようで、無事に教会まで運ぶ事ができた。




 ……

「…大いなる神よ!あなたの身許に向かう、哀れな子羊に、どうかご慈悲を!」


 神官が祈ると母親の亡骸が淡い光に包まれ、身体の中から光の玉が生まれた。


 その光は、ルサリィの周りをくるりくるり回ると、天に昇って行った。


 …初めて見たけど、現世と違ってこちらの世界では、目に見える形で祈りが本当に役に立つんだなと感心した。


 ルサリィの母親は、冒険者登録されていたので、死因などは詳しく聞かれず面倒な事にならなくて済んだ。


 そのまま棺桶のような物に入れてもらい、すぐに荼毘に付す。

 魂を抜いた体は、ゴーストに乗り移られやすいので、すぐに焼くそうだ。



 焼き終わった骨は骨壷に入れてくれるので、それを受け取って、終わりだ…



 …

 三人でそれらを終わらせて、一旦、全員でウチの屋敷に帰る事にした。

 この頃には、ルサリィは泣き止んでいたが一言も喋らなかった。





 ……

 終始無言のまま、屋敷に戻ると、シアンが出迎えてくれる。

 すでに、レン達が戻って来ていると言われたので、ルサリィはティファに任せ部屋に戻ってもらうようにお願いした。



 メリッサが帰ってるかも…と少し期待したけど、一度も見ていないと言われた。

 …どこに行ったんだろうか。





 …いいや、悩むのは後だ。

 俺には、先にやる事があるから。


 ティファ達が二階に上がるのを見届けて、リビングに入る。


「おう!おチビちゃんの方は…どない…な、なんや、なんかあったんか?」


 俺の異変に気付いてか、レンが心配そうに尋ねてくる。


「…二人に頼み事があるんだ。」


 俺は、ルサリィを迎えに行ってからの話を、二人に出来るだけ客観的に伝えた。



「…そうでしたか。それは非常に残念で悲しい事ですね。…しかし、アジトに手を出したのと、メリッサさんを追放したのは、いただけません。」


「せやな…シャルの言い方はちと冷たいけど、俺もそう思うわ。」



 二人の発言に、我慢したつもりだけど、表情に出てしまったのか…

「ひっ…」

 シャーロットが微かに喘いだ。


「俺も今回の件は、自分の責任だって理解してるよ!でも、これを片付けないと王都には行けない。」


 俺は決めていた答えを強く伝える。


「…はぁ~、しゃーないか。お前さんらには借りがあるし、ここらで返しとくかな!」


「なっ!ちょ…ちょっと、レン!?」


 シャーロットが慌ててレンを制すけど、レンが聞き入れる様子はなさそうで、本当に俺に協力してくれるみたいだ。

 …ありがたいな。



「…分かりました。ですが、我々が行うのは、捕縛したり解散させた組織の面倒がメインです。直接手を出すのは許可できません。」


 …そう言いながらも、「すみません。」と申し訳無さそうに頭を下げるシャーロットに充分だと伝える。


 俺の無茶に付き合わせた上に謝らせるなんて、俺も二人にだいぶ借りができちまったな…



 …

 その日は一旦それで打ち切って、明日から本格的に動く約束をもらう。

 取り敢えずは、あのアジトに捕まえてる信者や、残党共の相手をお願いできるから、かなり助かる。



 …その日の夕食は、俺とティファとルサリィは部屋で三人で食べた。



 ルサリィの寝かしつけをお願いして、シャーロットにはメリッサの部屋を使ってもらう。

 そして、俺は自室に戻り準備を始める。




 ゆっくり寝てなんていられない。

 今できる事を…

 やれる事だけでも、今やろう。

 それが、せめてもの俺からの償いだ!





「…リロードオン!」


 ー身隠しのローブー

 ・使用すると周りの景色と同化する(半日で普通のローブになる)

 ー防御の宝珠ー

 ー懺悔の指輪ー

 ・尋問時に使用すると何でも正直に答える(3回まで使用可)

 ー気付きの腕輪ー

 ー忍び装束ー

 ・盗賊のスキルを一時的に使用可能 (半日で効果が無くなる)

 ー能力向上のベルトー

 ー疾風ブーツー


 帰還の巻物やポーション類を、腰のホルダーに挿す。






 …準備完了だ。

 まずは、貴族の主要メンバーから回ろう。





 …俺は暗闇が支配し始めた街の中を動き出す。

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