chapter final. 僕たちは神様の手のひらで踊らない
「……あ、アンタ……本当に、何もかもを無かったことに……するわけ……?」
「そのつもりだ」
マコトの身体の中にあるものを掴み、歩駆は思いきり腕を引き抜く。
膝から崩れ落ちるマコトの胸から光り輝く白銀の鍵剣の半身が取り出された。
「素晴らしい……流石は僕が見込んだ救世主様ですねぇ」
どこからともなく現れたイザ。
拍手で勝利者を讃えると歩駆の胸にそっと手を起き、身体から鍵剣の半身を意図も簡単に引き抜く。
二つの刃が重なり一つの存在、真の鍵剣ソウルダウトに戻った。
「これで世界は貴方の思うがまま……ご自由に創造してください」
深々とお辞儀をして畏まるイザ。
歩駆は鍵剣ソウルダウトを構えると、即座にイザへ斬りかかった。
袈裟懸けにイザの身体が斜めに両断されて地面に倒れる。
「酷いじゃないですか。それはそういう使い方をするものではありませんよ」
振り向くとそこには居たのイザ。
驚く歩駆は地面に視線を向けるも、そこに斬られたはずのイザはいなかった。
「真道歩駆、ヒトの力ではどうにも出来ない存在ってのはいるんですよ。それが所謂“神”なんです」
「存在するなら殺せるはずだ」
「では貴方たちはなんですか? 死と言う概念を外されたヒトはヒトと呼べるのでしょうか? 僕も貴方たちと一緒……いえ、それ以上の存在です」
歩駆は再びイザに鍵剣を振るう。
脳天から真っ二つに分かれて突っ伏すイザ。
だが、瞬きの一秒にも満たない暗転で姿は消え、イザは待たしても歩駆の背後に移動していた。
「全ては君が望んだこと。真道歩駆という役割(ロール)を生み出したのは他でもない君さ。逃れることは出来ないんだよ」
「…………いいや、逃れられたんだよ。アイツはな」
歩駆はイザの横を通り抜け、胸を押さえてうずくまるマコトの前で鍵剣を地面に突き刺す。
苦しさでまだ声が出せず困惑するマコトを他所に、歩駆は地面に横たわる《ゴーアルター》の方へ向かった。
「アイツ……ヤマダ・アラシは俺でありながら俺であることを止めた。でも、それは正解じゃない。俺は変わらない。けど世界は変える」
「なら何故ソウルダウトを使わない!? それがなければ世界は……!」
去ろうとする歩駆を追い掛けるイザの上半身が突然、吹き飛んだ。
それは歩駆の行く先で《ゴーアルター》の目がカッと光り出し、一瞬の間に光線がイザを貫いたのだ。
「……ったく、無駄なんですよ真道歩駆。どれだけ殺そうとも僕は死なな…………こ、これは?!」
三度目の再生するイザは呆れたように言うと身体に違和感を覚えた。
足元からイザの“色”がだんだんと失われていく。
「逃げるな真道歩……っ?!」
急ぎ歩駆を止めようと肩を掴むと、その手はすり抜けてしまい歩駆に触れられない。
「ダイナムアビリティ・レベル7。ゴーアルターに隠された最後の力を今使う……最初から要らなかったんだよ。俺にはゴーアルターがあった」
近付く歩駆を出迎えるように《ゴーアルター》が立ち上がる。
先程まで《ゴッドグレイツ》との激しい戦闘が嘘のように全体の破損箇所がみるみる修復されていく。
「冥王星で取り込んだイミテイトが……色んな世界の俺がゴーアルターを通して教えてくれたんだ。いや、元々知っていたのかもしれない」
「そ、それはいけませんッ! そんなこと、をすれば……これまで、積み重ねてきた、ものが……!?」
激しく取り乱すイザ。
声を発しているも、身体から色が無くなっていることが原因か声が何かに掻き消されてしまう。
ゆっくり膝を突いて手を差し伸べた《ゴーアルター》に歩駆が乗り込むと浮き島が唸りを上げて動き出す。
「礼奈、マモル」
歩駆を乗せた《ゴーアルター》は《ゴッドグレイツ》に近付き、中のトウコとガイを下ろすと《ゴッドグレイツ》の下半身を引き剥がして分離させ自らに纏った。
「真道歩駆の……いや違う、これは、ゴーアルター……の意思だというのか? 止めてください、サナナギ・マコト……!!」
振り向き叫ぶイザ。
「……はっ? 何を言ってんのよアンタ……?」
急に呼ばれてマコトは目の前に突き刺さった鍵剣を使って立ち上がり、怪訝な顔でイザを睨む。
まだ痛みはあるが胸の中に入り込んだ異物が無くなって、すっきりとした感覚があった。
「何を止める? 真道君じゃなきゃいけない理由があるなら教えなさいよ」
「彼は、神の作りし……者なんだ。サナナギ・マコト、君では……ない」
「あぁもういい。何言ってるか全然わかんない」
イザを無視してマコトは天に鍵剣を掲げる。
「ソウルダウトを、返しなさい……!」
マコトの身に激しい炎のオーラが溢れだすと、その衝撃が鍵剣を取り返そう接近したイザの燃やし異空間の彼方へ吹き飛ばす。
オーラを纏ったマコトの身体は宙に浮く。
「本当に、元に戻る……本当に?」
そして思い出の地を作り出した浮き島は崩壊して一つに融合する。
異空間は収束して世界の再生が始まろうとしていた。
「父さん……黒いジーオッドだ」
気を失っているトウコを拾ってマコトは《黒ジーオッド》へ飛ぶ。
ハッチを開き、コクピットの中を覗くも誰もいなかった。
シートに座るマコトは鍵剣が導く方向へ飛ぼうと動くが一つ忘れていたことがあり機体を止める。
「真道君、勝ち逃げは許せないけど、もうしょうがないよね。違う世界に行っても元気でね……ガイは?」
「スマナイな、マコト。俺も向こう側だ」
マコトは声のする方へ《黒ジーオッド》を向かせる。
先程の《ゴーアルター》によって《ゴッドグレイツ》の外に放り出されたガイは意識を取り戻していたのだ。
ぼんやりと発光しながらガイは機体越しにマコトを見詰る。
「きっと俺がヤマダ・アラシのクローンで、向こう側の人間だからなんだろう。俺はお前と一緒にいけないらしい」
「なんなのそれ意味がわかんないよ! ガイはガイでしょ!?」
機体をガイに向けて発進させようとするマコトだったが《黒ジーオッド》は世界再生の奔流に乗ってしまっている。
「私を置いてくなんて許さないんだから!!」
手を伸ばすマコト。
ガイが離れるのか《ジーオッド》が離れていくのかわからなかった。
「私はガイと一緒にいたい、それにアンタを守るって言ったでしょ! アンタが居なきゃ私は……!」
「……じゃあな、マコト」
「が、ガイッ…………ガイィィィィーッ!!」
マコトの悲痛な叫びが無慈悲に木霊して《黒ジーオッド》は異空間のゴールで輝く閃光に飲まれて消えた。
しばらくしてマコトの背中を見送ったガイは、やってきた《ゴーアルター》の中へ入り込み、真道歩駆の魂に取り込まれた。
「…………まだだ」
歩駆は《ゴーアルター》の手刀で空間が切り裂き、出来た闇の中に手を伸ばすと、そこから掴み取り出した。
大人一人分の大きさをした卵のような棺のような物体。
「ヤマダ・アラシ……お前も連れていく」
卵棺からの反応はない。
代わりに耳元で女の声が歩駆に囁く。
『本当にいいの? 彼を取り込めば君はまた……』
「いいんだ。コイツも居て俺だ。俺の始末は俺が取る」
『……そっか。わかったよ、アークンを宜しくね……』
そう言って女の声は消える。
ミテイト。
全ての階層で生きた全ての“シンドウ・アルク”の魂が集まっていた。
「俺の願い」
歩駆は座席シートの後ろを振り返り、礼奈とマモルを見詰めて心に決める。
「俺の願いは!」
世界の創造。
世界の再構築。
歩駆の願いで《ゴーアルター》は……。
◆◇◆◇◆
「……く、クィーンルナティック。通常空間に戻りました」
「帰ってきたのか……状況を確認を急げ!」
戦艦クィーンルナティックは強制ワープによって地球に帰還する。
船体は酷く損傷し、宇宙にいたはずだったのに座礁したのは浜辺のようだった。
甲板に突っ伏す《錦・尾張》の中から這い出た織田アンヌ・ヴァールハイトは周囲の様子を伺うため艦を降りた。
穏やかな波に一つの曇りのない青空と太陽が広がっている。
「イ、ザ……?」
ふとその名前を呟いた。
頭に浮かんだ顔が次第に滲んでいく。
「どうした、アンヌ?」
アンヌの後から《錦・尾張》の操縦者である姉の織田ユーリ・ヴァールハイトが駆け付ける。
「……わからないよ、ユーリ」
「わからない? 何がだい?」
「わからないことが、わからないんだ」
何か大切な記憶の欠落に恐怖するアンヌは砂の上に踞った。
そんなアンヌの肩をユーリはそっと抱く。
「イザ……イザ……」
繰り返し言葉を繰り返すアンヌだったが、その単語が何を意味するのか分からなっていた。
なのにアンヌの心は悲しみに包まれ、大きな穴が空いたように感じる。
目に涙が伝い、暖かな南風がその雫を拐った。
◆◇◆◇◆
西暦2101年。
開戦の理由も定かでないまま始まった地球と月に分かれた人類の戦争は終結した。
大きな傷を負った地球を人類はこれから長い時間をかけて再生していくことだろう。
この世界の人類は歩み続ける。
真の平和に向かって……。
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