chapter.66 ナイトオブ7
三代目ニジウラ・セイル親衛隊、ファンクラブナンバー2から8の会員による特別部隊。
通称、ナイトオブ7。
誰よりも三代目ニジウラ・セイルを愛し、誰よりも三代目ニジウラ・セイルに詳しく、そしてSVの操縦に長けた三代目ニジウラ・セイル直属の選ばれ守護騎士たちと、いつの頃からか呼ばれている。
だが、親衛隊員の中でナイトオブ7の正体を実際に見た者はおらず、誰かの流した噂か作り話かではないかと議論されていた。
中にはナイトオブ7に憧れて自分達がナイトオブ7だと自称している親衛隊や、一桁ナンバーの偽造した会員証を作ってファンクラブから追放された者もいる。
だが、本物のナイトオブ7についての真実は誰にもわからなかった。
そんなファンの間で伝説上の存在であったナイトオブ7が今日、三代目ニジウラ・セイルと共に戦場に立った。
◆◇◆◇◆
『The world revolves around me♪』
三代目ニジウラ・セイルのコールによる流れる激しいメロディが静寂の宇宙に響き渡る。
虹色の軌道を描き飛ぶ桃色の流星、新たに装備が強化された《アレルイヤ・ゴスペル》が前方から飛来する雷を掻い潜っていく。
その後ろから追随して飛行する6機のSV。
姿形が強化前の《アレルイヤ》によく似た簡易量産型の《アレルイヤ・ダミー》たちが、ジャイロスフィア・ミナヅキに突如として現れた八つの頭を持つ巨大蛇型の《大蛇擬神》を取り囲んだ。
『恋の捕縛、愛の呪縛、心を縛る想いの鎖♪』
六角形の陣形を組む《アレルイヤ・ダミー》から放出されるエネルギーが《大蛇擬神》を包み込んで閉じ込める。
身動きの取れない《大蛇擬神》は口から電撃を放つが、エネルギーのフィールドの中を反射して自らを痛め付けるだけだった。
『解き放たれるとき、あなたはもう私のDarling♪』
六枚羽を広げて《アレルイヤ・ゴスペル》がエネルギーに包まれた《大蛇擬神》に突撃する。
閃光。
一瞬にして花火のように鮮やかな爆発を起こして《大蛇擬神》は消滅した。
◆◇◆◇◆
三代目ニジウラ・セイルたちの戦いの様子はネットの専門チャンネルで生配信され、ジャイロスフィア中が彼女たちの活躍で歓喜に沸き上がった。
「セイルンってやっぱスゴいよ」
「しかし居たんだな、伝説のナイトオブ7って」
「でも6人しかいないぞ」
「欠番メンバーってさぁ良い響きだよな」
「もしかしたらナイトオブ7になれるチャンスってあるのか?」
「統合軍はあんな怪物がいることを隠していたのか
「許せねえよな」
「俺も親衛隊に入りてぇ」
「手続きはこちらです」
動画のコメント欄に様々な感想が物凄い勢いで書き込まれる。
三代目ニジウラ・セイルの活躍によりファンクラブ会員の応募者は更に増え、会員数は1000万人を突破した。
その内の約1万人の選ばれし者たちが親衛隊員なのである。
◆◇◆◇◆
ジャイロスフィア・ミナヅキにある親衛隊作戦本部ビル。
外観がアイドルのグッズショップにしか見えない大型ビルの前で待つ男が一人。
モデルのような長身に甘いマスク。
世界中の誰が見てもイケメンだと呼ばれるだろう青年だが、残念なことにそのファッションは親衛隊の証であるド派手なピンクのカラーに“セイル命”と書かれた法被姿である。
今日は今後の活動について三代目ニジウラ・セイルの事務所スタッフとのミーティングの日だった。
「こんにちは、会員ナンバー10番のオウジ・アーデルハイドさん」
オウジと呼ばれた金髪青年の前に現れたのは、黒いスーツを着た猫背で頼り無さそうなヒョロい体型の眼鏡男だ。
「ヤマアラシP、ご無沙汰しております」
「そちらはどうですか? 進捗状況の方は」
「各地の親衛隊員はミナヅキに集まっています。作戦はいつでも開始できます」
「そうですか……貴方も地球から遙々ご苦労様です。では、行きましょうか」
挨拶を済ませて二人は本部の中に入ると、入り口すぐのエレベーターで地下に潜っていく。
「ところでオウジさん。例の件、報告がまだでしたけど?」
「そ、それは……向かわせた隊員からの連絡が、まだ…………」
どもるオウジの様子を察してヤマアラシPの表情が変わる。
眼鏡の奥の鋭い瞳がオウジを見詰める。
「最優先事項だったはずですよ? 出来なかったでは困るんですがねぇ……任務も果たせず貴方だけミナヅキにやって来たと?」
呆れるヤマアラシP。
「うっ……」
凍りつくエレベーター内。
言い訳をする度にヤマアラシPの殺気が感じらてオウジは言葉を失って口をパクパクさせる。
「地球の、それも統連軍人でありながらファンクラブ二桁ナンバーの貴方を見込んで頼んだ任務だというのに、期待外れですね」
「……も……元々、親衛隊は、こんなんじゃなかったはずです」
捻り出すようにオウジは言う。
「そうです、三代目ニジウラ・セイルを守るために結成された“非”公式の護衛隊」
「それが……今では地球と月を相手に戦争する軍隊にまで発展して、こんなのは度を越えている」
「世界がそうしたんですよ。これまでジャイロスフィアは中立の立場を守ってきました。しかし、戦うときが来たんです。彼女が、三代目ニジウラ・セイルが安心して歌を歌える世界を作るために」
「ヤマアラシP……」
チャイムが鳴りエレベーターが目的の回に到着したことを知らせる。
「その為に、貴方たちに新たなる力を与えます」
扉が開かれ通路を進んでいく二人。
その先に現れたのは親衛隊のSVが保管されている格納庫だった。
だが、そこに並んでいたのは見知った親衛隊用にカスタマイズされた量産機の《愛アユチ》ではなく、それよりも大きなスーパーロボット軍団だった。
「これはゴーアルター……いや、統連軍のDアルターか? 何故これが」
地球統合連合軍の量産型マシン。
高出力、高機動、高性能のハイスペック機体である《Dアルター》によく似ている──通常の《Dアルター》と違い、ボディの中央に突き出た発射口が異質な──SVが所狭しと並んでいた。
「地球にも彼女のファンがいるってことさ」
「しかし、こんなにもどうして? 他の《愛アユチ》は?」
「旧式は全て破棄した。これからはこのマシンが君達の力となる」
先程までヤマアラシPに恐怖していたオウジだった《Dアルター》を見詰める目は輝いていた。
オウジも元統合連合軍の軍人であった。
子供の頃からアニメのゴーアルターに憧れ、夢であるパイロットを目指して軍に入ったが、操縦士としての腕はなく広報部所に回されて《Dアルター》に乗ることはなかった。
そんな失意の中、出会った三代目ニジウラ・セイルの歌に励まされて今に至る。
「私にはプロデューサーとして夢がある。月という星をまるごと三代目ニジウラ・セイルのステージにする。オウジ・アーデルハイド、協力してくれないか?」
ヤマアラシPが握手を求める。
「だけど、良いんですか? こんな自分にDアルターなんて……」
「“夢はみるものなんかじゃない この手で掴むものだ”」
「フォースシングル〈ドリーム・グラップラー〉のサビですね」
「掴んでください。貴方の夢を、その手で」
オウジはヤマアラシPの手を両手でしっかり握りしめて泣いた。
◆◇◆◇◆
それから数時間後。
真道歩駆たちの乗った航宙艦がジャイロスフィア・ミナヅキに到着した。
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