chapter.64 イグナイト・フレア

「…………どこ、ここ……さっきまで海にいたはず……あれ?」

 海上で《鯱矛擬神》との戦闘中だったはずのマコト。

 いつの間にか見知らぬ町の中に立っていた。

 日本の住宅街のようだが、建物のデザインや道路や標識など2100年現在の物とは何処と無く違うように感じた。

 マンションやビルなど造形は古いが新しく、マコトのいた2050年代よりも昔の日本であるような雰囲気があった。


「ねぇ君」

 突然、後ろから声をかけられマコトは振り返る。

 そこにいたのは中学生ぐらいの少女だった。

 黄色のジャージを着た、髪の短いボーイッシュな雰囲気の細い女の子だ。


「この辺に学生服を着た男の子を見掛けなかった?」

「いや、知らないけど」

「本当に? よく思い出してごらんよ」

「そう言われてもなぁ……うーん?」

 質問よりもマコトはボーイッシュ少女の顔が気になってまじまじと見る。


「やだなぁ、ボクのことがそんなに珍しい?」

「あのさ何処かで会ったことなかったっけ、私たち?」

「……どうだろう、多分ないだろうね。でも初めましてじゃないよボクたち」

 含みを持たせるような言い方でボーイッシュ少女は返す。


「君は何者? ここは一体、何? 誰を探してるの?」

 この世界に感じる違和感を次々と質問するマコト。


「まぁまぁ慌てないで、一つずつ教えてあげよう」

 咳払いを一つしてボーイッシュ少女は答えた。


「ボクの名前はタテノ・マモル。彼とは彼女よりも小さい頃からの幼馴染みなんだ。ここはね、冥王星に作られたボクたちだけの世界。ヒトになれなかったイミテイトで出来ているボクたちの記憶を元に再現されている。そして、ボクの探している人は……」

 そう言ってマモルは空の彼方を指差す。

 ぶ厚い雲を裂き、空から現れた見知らぬ白い巨大ロボットが町に降り立つ。


「待たせたな、マモル!」

 胸部のハッチが開くと中から一人の少年が出てきて、白い歯をニカリと見せながら笑っていた。


「真道……歩駆?」

 ロボットから出てきた少年のことを、まじまじと見詰めるマコト。

 その少年の声、容姿はマコトの知る“真道歩駆”とそっくりな見た目をしていた。


「待ちわびたか? 寂しかったか?」

「全然。だってアルクはどこに居たって必ず来てくれるボクのヒーローだもん!」

 マモルはしゃがんだロボットの手に乗ってはコクピットまで上がると、マコトの目も気にせずに二人は抱き合う。


「そりゃそうさ。俺はどこへだって駆けつける。例え、世界の裏側だろうとな?!」

 その明るくキザな振る舞い、仕草、口調、どれを取ってもマコトの知る“真道歩駆”とは似ても似つかなかった。


「あれは理想の姿だよ。二人のね」

 いつの間にかマコトの隣に一緒になってマモル達を見上げるマモリの姿があった。


「あれには夢しかない。故に虚無なんだ。終わらないハッピーエンドを繰り返す世界に囚われている。私は二人の子供としてタテノ・マモリから分離したモノ。でも私はあの世界に入れなかった」

「どうして?」

「物語が次に続いてしまうから」

 悲しいとも怒っているとも取れる複雑な表情でマモリは言った。


「私と言う存在自体が永遠の青春を送るアルクとマモリの世界に亀裂を生んでしまう。なら、何で生まれたのだろうか……それが、やっとわかったんです」


 暗転。


 場面は移り変わり宇宙に浮かぶ青と緑の惑星。

 だが、その星の周囲には月はなかった。

 その惑星に黄金の怪物が迫るのを見下ろしながらマモリはマコトと向き合った。


「冥王星に残されたシンドウ・アルクの魂が限界を迎えている。擬神は冥王星にも来ていた。アルクは奴等と戦っている。マモルは彼を死なせたくないからシンドウ・マモリを産み出して地球に向かわせた。一刻も早く、こちらの真道歩駆を冥王星にまで……!」



 ◆◇◆◇◆



 気が付くとマコトは再びコクピットの中にいた。

 合体を完了した《ゴッドグレイツZ》は空中で呆然と立ち尽くす。


「マコトちゃん、大丈夫ですか?」

 トウコに身体を揺さぶられて、マコトは漸く夢現だった意識がハッキリとして操作レバーを握り直した。


「大丈夫。ちょっとね……」

「本当ですか?」

「何て言うかさ、真道君にムカついた」

「……?」

 状況の確認をとレーダーを確認していた所に、空へ飛ばされていた《鯱矛擬神》の一体の口から水のカッターが高速で吐き出されてきた。


「くっ……うぉぉぁぁぁーっ!!」

 避けようと力を込めて叫ぶマコト。真紅の手甲を掲げて《ゴッドグレイツZ》は水カッターを拳で次々と殴り飛ばした。

 攻撃を弾かれてしまった《鯱矛擬神》は牙の生えた大口を開けて《ゴッドグレイツZ》を飲み込んでしまおうと飛び掛かる。


「肩、借りますよサナナギさん!!」

 ホムラの《Dアルター・エース改》が《ゴッドグレイツZ》を踏み台にして上空へ飛び上がった。


「私の祖母から習った剣技をお見せしましょう」

 担いだ対艦ビーム大刀・マサムネキャリバーが闘気を纏うように発光する。機体に搭載された“ネオダイナムドライブ”の光だ。

 大刀の切っ先を迫り来る《鯱矛擬神》を凝視してホムラの《Dアルター・エース改》は、大きく出っ張った肩の大型ショルダーブースターのエンジンを全開。

 激しい炎を吹かしながら突撃した。


「例え機械操駆であろうとも、その身と一体になれば刃は応え、山をも断つ……見えた!」

 交錯する二体、決着は一瞬だった。


 一刀両断。


 堅い皮膚をした獣面から魚のような尻尾の先まで《鯱矛擬神》は左右に真っ二つにされた。

 勢いのまま上昇する《Dアルター・エース改》の横を残り二体の《鯱矛擬神》がすれ違う。


「マコトちゃん私たちもやりましょう」

「う、うん!」

 気を引き締め直しマコトと《ゴッドグレイツZ》は攻撃の構えを取る。

 落下する二体の《鯱矛擬神》は身体を丸め、尾ヒレを刃に見立てて前方向に高速回転する。 


「ねぇ! 私は何をすればいいの?」

 本体コクピットのマモリがマコトに訪ねる。


「イメージしてください。あのオバケ魚を倒すイメージを」

 答えたのはトウコだ。


「……イメージ?」

「そうです」

「私は焼き魚が食べたい!」

 こんな状況だと言うのにお腹の虫が鳴るマコト。


「もうマコトちゃんったら……」

「お魚は骨が多くて好きじゃないなぁ」

「なら、骨までパリパリに食べられるようしっかりと焼かないと、ね!?」

 ふざけながらも三人の中でイメージが一つに固まった。

 胸部の装甲を展開する《ゴッドグレイツZ》が燃え上がる。

 マコトたち三人に共鳴して三色のオーラを放ち、そのエネルギーが《ゴッドグレイツZ》に充填していく。

 その間にも猛スピードで回転する二体の《鯱矛擬神》の刃が真っ直ぐこちらに向かって襲い来る。


「イグナイトッ! フレアァァァァー!!」

 雄叫びを上げるマコト。

 両腕を広げて《ゴッドグレイツZ》の胸部から広範囲に超高圧の熱線が放射された。

 目映い灼熱の閃光が空に広がり《鯱矛擬神》に炸裂する。

 身体を溶かされながら二体は悲鳴を上げると、瞬く間に跡形もなく燃やし尽くされた。


「やりましたね、マコトちゃん!」

「うん。私たちの勝利だ」

「……すごい、これがゴッドグレイツの力……」

 快晴に浮かぶ太陽の光が《ゴッドグレイツZ》を祝福するかのように燦々と照り付けのだった。

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