chapter.51 紅蓮の英雄

「……ここからなら見張りに見つからずドックに入れる。艦が出発する前に機体に乗り込むんだ」

 周囲を警戒しながらゴウ・ツキカゲは廊下の角で隠れるマコトたちを呼び寄せた。


「基地の周りにSVが配備されてるけど戦えばいい?」

「あぁそうだ。お前らは適当に暴れて、その間に俺は頭を押さえる」

「待ってちょうだい。あの機体が入ったコンテナはお婆様とヤマダ・シアラがいないと開けられない」

 後方を見張るアンヌ・O・ヴァールハイトが言った。


「なら俺がヤマダも見付ける。外に停泊している旗艦の中にいるはずだ」

「そんな怪我した腕で大丈夫なんですか?」

 心配そうにするクロス・トウコが包帯で巻かれたゴウの左腕を指で突くと、ゴウはその場で包帯を外し始める。


「まだ痺れはあるが、問題ない」

「でも私たちが暴れたらネオIDEALのイツキさん達が危険じゃない?」

「……俺が行こう」

 突然、天井から忍者のように突然現れたのは楯野ツルギだ。

 南極で三代目ニジウラ・セイルに敗北して再起不能状態であったが、ようやく機械の身体は修理を終えることが出来た。


「彼女らには製作に集中してもらう。地上歩兵部隊が相手なら我らマスカレイドサービスの出番だ。スタジオに潜伏している者にも連絡は済みだ」

 各所に隊員を配置して万全の体制をととのえた、とツルギは言うがマコトら女性三人は逆に心配そうな目を向ける。


「そう言えばお爺ちゃん、そんな肩書きだったね……」

「ならどうして基地が占領なんかされてるんですか?」

「カッコつけたいだけ集団だから数で沢山来られると弱いってことだ」

 背中に嫌みを投げ付けられるツルギは冷静を装いながらも内心、怒りをたぎらせながら光学迷彩で姿を消す。

 どこかへ走り去る足音が空しく廊下に響き渡った。


「ともかく急ぐよ。皆、気を付けてね」

 マコトはアンヌとトウコ、そしてゴウと三手に分かれて行動を開始した。


 ◇◆◇◆◇


 物音を立てないようにゆっくりと隠れながらマコトは輸送艦に近付く。

 そっぽを向く見張り兵の目を盗んでサッと開かれたハッチから内部へと侵入した。


「……そうか。別にこんなことしなくてもジーオッドなら」

 機材の影から格納庫の様子を覗くマコト。

 軍のメカニックたち数人が壁に人形を飾るような姿にされた《ジーオッド》に取り付いて機体を調べている。

 どの角度から見てもバレないで乗り込むには全く隙がなさそうだが、直接こちらから出ていかずとも《ジーオッド》と繋がっているマコトならば呼び寄せることは出来るはずだ、と考えた。

 マコトは《ジーオッド》を見つめながら心の中で唱える。


(来い、ジーオッド!!)

 すると搭乗者がいない《ジーオッド》の目に光が宿った。


「何だ何だ?」

「勝手に動き出したぞ!?」

 突然、真紅の装甲が高熱を発すると機体をハンガーに固定する拘束具を溶かして、調査中のメカニックたちはあまりの熱さに避難する。


「本当に来たっ!?」

 空間を歪めるほどの熱気が格納庫を包む。炎に包まれて浮遊する《ジーオッド》に飛び乗ったマコトには効いていなかった。

 コクピットに搭乗したマコトと《ジーオッド》は天井の壁を突き破りに輸送艦を破壊して基地の外へ脱出した。


「時間稼ぎだって……なんなら、やっつけちゃってもいいんでしょ!?」

 意気込むマコト。地下から続く滑走路から飛び出した《ジーオッド》の前には基地周辺で待機する統連軍の戦艦や《Dアルター》部隊で囲われていた。

 しかし、それらの視線の先は《ジーオッド》ではなく一様に空を方を注目していた。


「…………何あれ、足?」

 分厚い雲を引き裂いて黄金色の異様な物体が、異空間の中から落ちてきた。

 しかも、一つだけではなく、もう一ヵ所、別の場所からも空間の裂け目からも同様な物体が降下しているのだ。

 筋骨粒々の身体に目を見開き怒りを表情を浮かべる百メートルはあろう巨人、その姿はまるで神社仏閣に並び立つ“仁王像”のようだった。

 突然、何もない所から現れた怪物体の登場に統連軍もマコトも困惑。

 しばし呆然としていると片方の《赤い仁王》が動き出す。

 その視線はマコトの《ジーオッド》に向けられた。


「……不味いッ!?」

 何かを察知してマコトは《ジーオッド》を高く上昇させる。

 次の瞬間、目をカッと光らせた《赤い仁王》から稲妻が迸った。

 間一髪で避けられたマコトは下を向くと、さっきまで自分がいた場所のコンクリートの地面は深く抉れ、黒く焼け焦げブスブスと煙が立ち上っている。

 謎の物体に攻撃の意思があると判断したネオIDEALを囲む統連軍部隊は、悠然と佇む二体の仁王像へ一斉に迎撃を開始した。


「ちょっと、ぜんぜん効いてないんじゃないの?」

 四方八方から砲撃を受ける二体の《仁王》だが、ビクとも動く気配がなかった。

 それでも続ける内に、多少は装甲を削る程度にはダメージを与えているようで鬱陶しそうにするも倒しきるには程遠かった。

 すると《青い仁王》が両手を上に広げる。身体を伸ばし太い腕で地面に向かい大きく手を振ると、とてつもない暴風が統連軍の戦艦やSVを襲った。

 基地の外壁を吹き飛ばし、周辺の森林ごと巻き上げられ、戦力の半分以上が空の彼方に消えていった。


「何なのよ、あれは? あんなのSVじゃないって、無茶苦茶だ……でも」

 突如、現れた異質な巨大物体に恐怖を感じるマコトだったが《仁王》を止めなければ基地の中にいるトウコたちにも危害が及ぶ。


「絶対に止めてやる!」

 マコトの強い意思が燃え上がる《ジーオッド》から火炎の四肢を作り、再び《ゴッドグレイツ真》へと変貌させる。

 

「これでも食らえ、デカブツー!!」

 突撃する《ゴッドグレイツ真》の激しい炎の拳が《青い仁王》の額を打つ。

 低い唸りを上げて《青い仁王》は身体を仰け反らせながら盛大に倒れた。


「どうだ、次はお前……ッ?!」

 重い衝撃が《ゴッドグレイツ真》にのし掛かり、気付いた時には地面に深く埋まっていた。突然の出来事に脳が震えてマコトの意識が途切れる。

 その隙を狙って《赤い仁王》の手から放たれる雷撃が《ゴッドグレイツ真》を打った。


「……ぐぅ、かはっ……?!」

 コクピットに流れる雷撃によってマコトの身体がビクんと跳ね上がった。

 電気によってどうにか正気は取り戻したが痺れ状態で震える腕では操作レバーを上手く掴めない。

 さらに《青い仁王》が追い討ちをかける。

 サッカーボールように思いきり蹴り抜かれて《ゴッドグレイツ真》は真上に飛んでいった。


(ダメだ……手も足もでない。このままじゃ)

 全身の火が消え《ジーオッド》に戻り、錐揉み回転しながら墜落する中でマコトは手を伸ばした。

 その先には《赤い仁王》のとてつもなく巨大な拳が眼前に迫り、回避しようにも間に合わない距離であった。

 マコト、万事休す。


『諦めないで、マコトちゃんッ!!』

 閃光。

 視界が真っ白になってマコトは顔を伏せる。


「…………トウコちゃん」

 ゆっくりと目を開けると、そこには右腕を根本から切断された《赤い仁王》が怒りの叫びを上げていた。

 その直上では見たこともない白い大型のSVが手の先から光の剣を放っていた。


『遅れてすいません! 解錠に時間がかかってしまいました』

 その機体から通信をしてきたのはクロス・トウコだ。


「トウコちゃん、その機体は?」

『本来は真道歩駆さんのために織田竜華さんとヤマダ・シアラが共同開発した《Gアーク》と《Dアルター》両方の技術を併せ持つ機体、その名も《Z(ズィー)アーク》です』

 会話の途中で《赤い仁王》から雷撃が《Zアーク》に放たれた。

 瞬きの間の一撃だが《Zアーク》を包み込む強固なバリアフィールドが雷撃を反射して《赤い仁王》を打った。

 相方がやられるのを見て《青い仁王》も動く。

 牙を剥き出しにした口を開き、足元に散乱する残骸ごと纏めて吸い込むと《Zアーク》に向けて弾丸を飛ばすように吐き出した。


『無駄です!!』

 広範囲に拡散する残骸弾を、まるで瞬間移動をするかのような目にも止まらぬ速度で避けていく。

 そのまま接近しようと試みるが《青い仁王》に近付くほど強風が行く手を阻んでいだ。


『流石に風が強いですね。マコトちゃん、合体しましょう!』

「……本当にいいの? 真道君の機体、ゴッドグレイツが吸収するんじゃ」

『大丈夫です。この機体はゴッドグレイツとの合体を想定して作られているらしいです。私が乗っている限り、合体しても取り込まれることはないそうです』

「そう……ならやるよ、トウコちゃん!」

『はいっ!』

 マコトの合図で《ジーオッド》と《Zアーク》は火炎の旋風に包まれながら舞い上がる。

 加速上昇する《Zアーク》の頭部と胸部装甲が可変して《ジーオッド》と接続した。


「凄い……ゴーイデアと合体している時よりもパワーを感じる。これなら行けるかも?!」

『そうですね、私達の《ゴッドグレイツZ》ならあの巨人を倒せます!』

 火炎旋風を消しさり現れる新たな紅蓮の魔神は、二人掛かりで襲いくる《仁王》を見据え、両手から赤と青の炎を生む。


『私達の魂が敵を貫く!』

「プロミネンス」

『「デトネーション!」

 二人が叫び《ゴッドグレイツZ》は燃え盛り交わる二色の火球を投擲した。

 マコトとトウコ、二つの意思を込めた莫大なエネルギーを内包する火球が《仁王》達の前で凄まじい大爆発を起こす。

 爆炎の中で崩れながら奇声を上げる《仁王》は四散、跡形もなく消滅した。


「……やったね」

『うん、やりましたわ』

 日が落ちて真っ赤な夕暮れの太陽を真紅の装甲に浴びながら、マコトの戦いは終わりを告げる。

 下方を覗くと生き残った統連軍の兵士達が《ゴッドグレイツZ》に向けて歓声が沸き上がっていた。


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