chapter.44 白銀の世界

 吹雪が止み、快晴の天気となった南極の空を戦艦イデアルが航行する。

 向かうは西暦2015年に落下した隕石によって出来た人類とイミテイト、戦いの始まりの場所である巨大湖だ。


「SV残骸が……」

「ここを管理していたSVか、はたまた昔の大戦で放置されたままのモノだろうなァ」

 雪と共に詰まれた鉄の残骸。バラバラになり朽ち果てたSVが散乱している様は、まるで氷の墓場だった。

 今のところ周囲に敵の反応はないが、壊れたSVの中には比較的最近らしい統連軍や月のSVも混ざっているのが不気味だった。


「もうすぐ、きっとくるのさァ。奴は、必ず現れる」

「なんかいやに上機嫌ですね総監督?」

 艦橋の窓に張り付いて周囲を見回すシアラにイツキが訊ねる。


「SV……? あぁ~、そうだなァ。いるいる、いますともさァ!」

 心ここにあらずといった感じでシアラは適当な返事をする。

 敵の出現を警戒しながら、戦艦イデアルはしばし湖の外縁を周回する。


「いたァッ!!」

 突然、シアラが大声をあげて叫ぶ。


「映像拡大、急いでよォ!!」

 シアラは湖に漂流する氷山の天辺にに突き刺さった巨大な銀の剣を指差した。

 モニターに映し出し、その姿をデータと照合した。

 それは間違いなく捜索目標であるexSVの《ソウルダウト》であった。


「あれ……ちょっと画面、引きますよ。あそこに人がいませんか?」

 イツキがカメラの撮す位置を席のスイッチで操作した。

 アップになった映像を戻して画面を下にスクロールすると《ソウルダウト》が突き刺さった氷の傍らに何者かが立っている。

 黒いコート着ており顔には包帯をグルグル巻きにして性別も表情もわからない謎の人物。


「湖より高熱源反応が多数! どんどん増えています!」

 オペレーターからの伝令と同時に映像の包帯の人物が右手を高く掲げる。

 すると氷の地表を割り、いつもこちらを襲い続けてきた虫型SVが次々と氷山から沸いて現した。


 ◇◆◇◆◇


 敵の出現に格納庫で各自の搭乗機の中にスタンバイをしていたパイロットが出撃する。


「先に出るぞ。遅れるなよ」

 一番に発進したのはツルギの《Dアルター豪》だ。

 重力制御駆動システム“グラヴィティドライブ”によるふわりとした軌道で、開かれたハッチから外に飛び出す。



「ホムラ機Dアルター、作戦を開始する!」

 続いてホムラの《Dアルター・エース》がカタパルトデッキに移動する。

 背部の二連レーザーキャノンに対艦刀マサムネブレードを携え、装甲を強化した強襲型に換装して虫型SV軍団との戦いに挑む。



「トウコちゃん、行ってくるね」

『本当に良いんですかマコトちゃん? 私が居ればジーオッドの性能を引き出せますのに』

「私一人でもやってみせるよ。もし危なくなったらアレを使って良いって、許可は織田さんから取ってあるから」

『……はい、わかりました。頑張ってくださいね』

「よし! じゃあジーオッド、サナナギ・マコト行きます!」

 親友トウコに別れを告げてマコトの《ジーオッド》は発進した。


 

「……ふむ」

『どうしたのよ、早く行きなさい!』

 マコトたち三機が出撃したにも関わらず、イザは《尾張Ⅹ式》の中で物思いに更けていた。

 いつまで経っても動く気配がないのでアンヌが通信で怒鳴り込む。


「アンヌ、ありがとうございます」

『な、何よ!? いきなり……バカ、そんなこと言ったって何も出ないわよ?!』

 突然、イザからの感謝にアンヌは顔を真っ赤にして激しく動揺した。


「いえいえ、アンヌにイビられナジられ僕は強く成長できました」

『……アンタ、喧嘩売ってるの?』

 前言撤回。

 やっぱりコイツは嫌な奴だ、とアンヌはワナワナと拳を震わせた。


「そんなことはありませんよ。良い思い出でした」

『馬鹿やってないで、さっさと行けバカイザっ!!』

「そんな急かさずとも行きますよ。でも」

『でも、何?!』

「もしかしたら帰ってこないかもしれませんよ」

 イザは両耳を手で覆い、そっと目を閉じた。

 南極に近づくに連れてイザの頭の中に何者かが囁いている。


 ──役割を果たせ。


 ──鍵を継承せよ。


 ──新たな時代を紡げ。


 男とも女とも判別できない不思議な声は、どこからかイザに語り続ける。

 その言葉の意味が今のイザにはわからなかった。


「全てがわかりそうな気がしますので、それでは」

『待ちなさい、話はまだ……』

 イザは通信を切った。

 失われた記憶を取り戻せるチャンスかもしれない、とイザは不安と期待で胸が一杯だった。

 カタパルトに脚部を設置してイザの《尾張Ⅹ式》は前を見る。

 開放されたハッチから見える景色から立ち込める黒煙と爆音が響いている。

 戦いはもう始まっていのだ。


「尾張Ⅹ式、出る」

 リニアカタパルトにより勢いよく《尾張Ⅹ式》は戦艦イデアルから射出されたると直ぐに戦況を確認する。

 お馴染みの下級クラスSVの《フライヴ》に強化型の《フライヴ・ビー》が多数。

 ダンゴムシの形をした大型の《グランロール》が四方を取り囲んでいる。

 その他、今まで見たことないような今回で初めて現れた虫タイプSVもそこかしこに見られる。


「さて、どうしたもの……かなっ?!」

 早々に向かってくる虫型SVの羽音に《尾張Ⅹ式》は下降する。機体が仰向けの状態で眼前を《フライヴ》が通り過ぎていく様子を見た。


「いいでしょう。たまには僕もやるところ見せますよ」

 背後から《フライヴ》の羽を掴む長い二本のアーム。それは《尾張Ⅹ式》の腰から伸びるサブアームだ。

 腰部を捻り、腕のマシンガンを撃とうする《フライヴ》に《尾張Ⅹ式》はサブアームから電流を放射する。

 内部機器がショートしてしまい《フライヴ》は機能を停止させると、そのまま氷の大地に落下した。


「これでいい。僕は戦闘するキャラじゃない」

 自分のスタイルを貫くイザである。

 ツルギの《Dアルター豪》に、ホムラの《Dアルター・エース》や、マコトの《ジーオッド》は百戦錬磨の戦いっぷりを見せている。

 敵の数が圧倒的に多いにも関わらず、怯まないで虫型SVの群れに立ち向かっていった。

 対してイザはチマチマと電気ショックで一体づつ敵を無力化する。

 あくまで行き先を邪魔する機体のみを倒しているが、直接イザの《尾張Ⅹ式》を狙ってくる敵は誰もいなかった。

 今は気にせずイザは湖の方へ辿り着く。

 氷山に突き刺さる《ソウルダウト》と包帯の人物はまだそこに立っていた。


「頭の中で僕を呼び掛けている声はお前か?! 答えろ!?」

 イザが呼び掛けると包帯の人物はこちらを見上げているようだが言葉は返ってこない。

 すると包帯の人物が空を指を差してきた。

 振り向くと同時にアラートが鳴り響くと湖が激しい水柱を起こした。

 高熱源反応、上空からである。


『接近する艦が三隻。月のカグヤ級戦艦が現れました。皆さん注意してください!』

 戦艦イデアルから緊急通信。

 イザは空を見上げると、通信の通り三隻の戦艦がビームの主砲を撃ちながら空から降下してきた。


「……何か出てくる。あれは?」

 先頭を行く戦艦の艦首からスポットライトを浴びて、派手なピンクのSVがポーズを決めて登場する。

 三代目ニジウラ・セイルの《アレルイヤ》だ。


『原点の地……ニジウラ・アイルを越えて、三代目ニジウラ・セイルの最高最大のライブが始まる……ミュージック、スタート!』


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