chapter.15 宇宙遊撃機動戦艦
「これで、終わりだ!」
ツルギの《Dアルター豪》が拳を放って繰り出される重力圧縮掌(グラヴィティ・スマッシャーパンチ)が、森を踏み荒らしながら突き進む巨大なダンゴムシ型gSVへ突撃する。
だが相手の猛烈な勢いに押されてしまい重力圧縮掌は弾き返されてしまった。
「この《グランロール》とか言うのgSVと認定されるだけあって《フライヴ》と《フライヴ・ビー》よりはやるな」
コードネームを与えられた《虫型SV》こと《フライヴ》の軍団の半数以上を単独で撃退したツルギだったが、敵の主力であるgSV──大型サイズの戦略兵器に該当するSV──に手こずっていた。
「各機は煩い羽虫ども狙っていろ。デカブツは俺が仕留める」
ボディを丸めてタイヤのように転がりながら《グランロール》はネオIDEAL基地のバリアに体当たりする。
耐久力はまだあるが基地内部を激しい衝撃が襲う。阻止しようと《Dアルター豪》が対SVライフルを連射するが《グランロール》は回転面のスラスターを逆噴射させ急速に後退して退避する。
「何て早さだ……ちぃっ!」
体格は《Dアルター豪》の倍以上あり、見た目の鈍重そうなイメージとは裏腹に動きは俊敏。
そんな強敵が二体もいるのだ。
「長引けばこちらが不利か。ならば」
ツルギが《Dアルター豪》に搭載された推進機関、グラヴィティドライブの出力を上げると周りの空間が歪み始めた。
「行くぞ、豪よ」
このグラヴィティドライブによる武装の弱点は、装甲の厚い敵には効き辛いのと強いエネルギーを充填して放つ場合に弾速が遅くなるというところ。
確実にダメージを与えようとするならば有効射程距離は短くなる。
どんな巨大戦艦でも重力下での航行を可能に出来る画期的なエンジンであるが、かつての事件を境に兵器利用が禁止されている封印されし過去の遺産だ。
「来い!! 力比べだ」
爆走する《グランロール》の行く先に《Dアルター豪》は立ちはだかり、両腕を前に突き出し手を組む。
「必ず脆い部分があるはずだ。その一瞬を……貫く!」
常人には見えない回転の動きをツルギの目はスローモーションで捉える。蛇腹状の装甲、一ヶ所だけ他より大きな隙間を確認した。
これを外せば一巻の終わり。タイミングを見計らい《アルター豪》は一歩踏み出す。
勝負は一瞬、衝突する二機が重なる。
「これが重力圧殺掌(グラヴィティプレッシャーパンチ)だ」
緩やかに転がりを止める《グランロール》のボール形態が解かれ、上から踏み潰されたようにひしゃげる。そこから《Dアルター豪》は無傷で立ち上がった。
「小僧そっちはどうだ?」
一方の真道歩駆はというと白い《Dアルター》に搭乗し、もう一機の《グランロール》と対峙していた。
歩駆用にシアラがカスタムした特別製で、レーダー機能を強化した一角ヘッドを持つ機体である。
闘牛士のように《グランロール》の突進を回避する《Dアルター歩駆機》を複数の《フライヴ》が狙う。
味方であるネオIDEALの《Dアルター》たちが援護してくれているが《フライヴ》たちの狙いは何故か歩駆一人らしく攻撃されてもターゲットを変えてくれない。
反撃しようにも四方八方からの攻撃を避けることに歩駆は精一杯だった。
「何をやっている?」
「見て通りだよ! 援護ぐらいしてくれよ」
「五十年一人で戦っていたんだろう? これぐらい自分で何とかして見せろ」
手助けをしないツルギは遠くから高みの見物だ。
「くそ……ゴーアルターさえあれば」
自分の発言にハッとして歩駆は下唇を噛む。
戦いを止めたいのに戦わないといけない。
自分がしたい事と今するべき事が矛盾している。
戦いから逃げれたい気持ちから強くなるほど、戦いを強いられる場面に出くわすように思えた。
はっきりしない自分自身に歩駆はイラついていた。
「ちょっと歩駆ちゃん押されてるよ! キビキビ動いて!」
「ゴチャゴチャ煩い! 俺のやり方があるんだ!」
そのイラつきを更に増長させるものと言えば、この《Dアルター》のコクピットである。
真後ろのサブシートにはウサミ・ココロがサブパイロットとして機体の運用システムとなり歩駆のサポートをしてくれる……と言う名の余計な口出しが歩駆の邪魔をする。
そして、問題のデザイン。
無駄に数の多い計器やメーター、操作レバーの類いが所狭しと設置されているが、古きよきロボットアニメ感を演出するためにあるだけで殆どが飾りだ。
必要な情報は正面のスクリーン上に表示することができるので意味がない。表示したらしたで、そもそも計器が設置しているスペースで視界が狭い。
更には歩駆が座る座席シートの耳元でエンドレスに鳴り響く音楽。
『ゴーアルター! ゴーアルター! 襲い来る悪は許さないぜー!』
と、名前を連呼する耳障りなアニメのテーマソングが歩駆の集中力を削ぐ。もちろんBGMを消すスイッチなどない。
格納庫にあった他の《Dアルター》を見せてもらったが、そのような装飾は無かったので、全てヤマダ・シアラの嫌がらせなのだ。
パイロットスーツも用意されていたが、それもアニメチックの派手なカラーリングで着るのは拒否した。
「お前もブンブン煩いんだよッ!」
横切った《フライヴ》の後部翼を《Dアルター歩駆機》は乱暴に掴み取り、地面に叩き付ける。さらに後方から襲い掛かる《フライヴ・ビー》に棍棒でも振るうようにぶつけ、二機を同時に破壊した。
歩駆の反撃に《フライヴ》たちは《Dアルター歩駆機》から離れ、携帯するマシンガンで狙い撃つ。後方からは《グランロール》もこちらに迫っている。
「三時の方向、あと後ろからも来るよ!」
「くそ……あぁ、これがぁ!!」
イライラがピークに達する。立ち上がり振り向く歩駆はシートのスピーカーを拳で壊した。音楽は止まりノイズ音がビービー鳴り響いているが、歩駆にとってはこちらの方が幾分かマシだった。
「回転を止める方法は」
弾丸の雨をバリアで凌ぐ《Dアルター歩駆機》は両手を飛ばした。
腕から有線で繋がれたワイヤー式マニューバフィストは避けようとする《フライヴ》を追い掛けて、か細い腰部をガッツリと握る。
「こうやったなら、どうだよ!?」
急速にワイヤーを巻き取り、腕を本体に戻して《Dアルター歩駆》は猛突進する《グランロール》を衝突するスレスレで身を交わす。その一瞬、側面を晒す《グランロール》に《フライヴ》を無理矢理ねじ込んだ。
すると《グランロール》の内部回転に巻き込まれた《フライヴ》が駆動機関に支障を来す。炎上しながら止まらない《グランロール》は山の岩壁に衝突して大爆発する。
「スゴい……スゴいよ歩駆ちゃん!!」
「…………」
基地攻略の要であるマシンを失った虫型SVの残党は逃げるように去っていった。
◇◆◇◆◇
「ツルギ機、歩駆機、グランロールを撃破」
「残った敵機が撤退していきます」
「流石は歴戦の戦士たちだァ! これぐらいでもやってくれないとねェ?」
司令室、ジュース片手に観戦していたシアラはモニターに映る者たちに拍手を送ると《Dアルター歩駆機》への通信を開く。
「歩駆少年、どうだいその機体の乗り心地は? 君の機体、後ろのロボおばさんには試作型のネオダイナムドライブを取り付けてある。アニメのゴーアルターと同様に必殺ビームだって撃てるのだが」
『……ありがとう。最低の気分だよ』
会話の途中にぼそり、と一言だけで歩駆から通信を切られてしまった。
「うーん、説明書をちゃんと渡しておくべきだったかなァ?」
的外れな反省をするシアラ。そこへ再び敵を知らせる警報が司令室に響き渡った。
「基地上空より所属不明機、先程のフライヴ型が戻ってたようですが」
「二十、三十……先程よりも数が多いです!?」
逃げ帰ったはずの虫型SV群はレーダーを覆い尽くすほどの大軍を引き連れてネオIDEAL基地へと迫り来る。
一体、どこにそれだけの部隊を隠していたのか、応戦しようにもこちらの部隊も疲弊している。
「諸君! 我らはこれから宇宙へと上がり、月への侵攻作戦を開始する!!」
急にシアラが叫ぶとオペレーターたちが一斉に振り向いた。突然の発表に多少困惑したが、彼女が突拍子もないことを言うのはオペレーター陣からすれば今さら指摘するまでもない周知の事実である。
「で、では基地は」
「あぁそうさァ……ネオIDEAL、トランスフォーメーション!」
◇◆◇◆◇
シアラの号令に大地が激しく揺れ動いた。
木々がざわめいて葉を落とし、湖は上下に波打って魚が逃げ惑う。
「な、何なのよこれ地震?! ちょっと司令室!?」
『そこは危ないから早く退いた方がいいよん。そこに移動して』
ウサミの通信にシアラが答えるとレーダーに記された移動ポイントへと誘導される。
「何が起きる? あれだけの敵は俺たちだけじゃどうにもならないぞ」
歩駆は言うとシアラはニヤリと不適な笑みを浮かべる。
『こんなこともあろうかと! ご都合主義と笑いたければ笑え! そして、刮目して見よ!』
バリアを解除したネオIDEALの基地が倒壊する。崩れゆくタワーから降り注ぐ瓦礫を押し退けて地下の方から迫り上がって姿を現したのは白を基調とした青、赤、黄のカラーが特徴の巨大な戦艦だった。
二つに分かれた艦首がスライドして開くと、露出した発射口に光が溜まっていく。
「これが宇宙遊撃機動戦艦イデアルさァ!!」
眩い輝きが二条の閃光となって空に放射される。
虫型SVの大軍団は視界一面に広がる白に飲み込まれて消え去った。
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