第57話 それが今の私
「朝焼けの奥の夜に溶け込むような濃い青色がいちばん好きです。でも、夏の真昼の太陽の近くの淡い青色も好きなのだと最近気づきました。だから、この髪の色はとても気に入っています」
「将棋は、別に好きというわけではありませんが、それなりに強いと思っていました。けれども、あなたに負けて、すごく悔しくて、最近では時間があるときに勉強しています。詰将棋が好きで、9手詰めなら解けるようになりました。今なら、あなたにもきっと勝てます」
「エアホッケーであなたに勝ったときは、本当に気味が良かったです。ここ最近でいちばんうれしかった。意地のわるいあなたの悔しがる顔を思い出すと、今でも笑えてきます。自分でも意外でしたが、私はけっこう意地悪だったみたいです」
「料理ができると言ったのは嘘でした。実のところ、まったくしたことがありません。料理勝負なんてすることになるのだったら、お母さんの手伝いをもっとしておくべきでした。でも、あんなにまずいまずいと言うこともないでしょ。顔には出しませんでしたが、私はけっこう傷ついたんですからね」
「クラス代表を務められることを、私は誇りに思っていました。あなたは笑うかもしれませんが、クラスメイトの信頼を受けて、クラスをまとめる役を担えることを、私は光栄に思っています」
「クラスメイトは皆良い子です。でも、手のかかる子が多くて困ります。ハンドボールばかりして勉強しない子や、とてもかわいらしいのに自信がない子。特に、口ばっかり達者な不登校児は、どうしようもない不良者で、手を焼いています」
「登校しなさいと言ったら、勉強は家でやった方が効率がいいとか嘯くし、勉強の仕方を尋ねれば、受験なんてしなければいいとか無責任なことを言うし、恋愛相談をすれば、女の子を泣くまで追い詰めるし」
「私は、あなたのような不真面目な人が一番嫌いです。一生懸命にがんばっている人を、あざ笑うような真似をするべきではありません。それなのに、あなたは侮辱的な言葉をつらつらと。正直、初めは吐き気がするほど気持ちがわるかったです」
「ですが、ときどき、本当にときどきですが、あなたの言葉が真実を言い当てているような、そんなときがあります。私が正しいと教えられてきたことと、まったく逆の考えですが、そちらの方に理があるのではないかと、そう思えるときが」
「この髪を染めたのは、はっきり言って、ただ単にあなたへの当てつけでしたけれど、でも、初めて、私が私で考えて、決めて、行動した結果なんです。髪を青色に染めるなんて間違ったことだと思っていたけれど、でも、この選択肢もたくさんある内の一つなのだとそう思えるようになれた」
「視野が開けたような、そんな爽快感があったんです。だからって、今でも、あなたの言うことは道徳的にどうかと思うところがほとんどですけれど、それでも少しだけ理解できる部分も出てきて、だから、少しだけ、あなたを認めてもいいかなと思っています」
「お父さんのことは尊敬しています。お父さんは自分に厳しくて、社会的に正しいことを私に教えてくれました。そのことに感謝しているし、間違っているとも思っていません。でも、この髪は私が決めたことなんです」
「たとえお父さんの価値観では、間違っていたとしても、いえ、世の中の価値観に照らし合わせてみて、間違っていたとしても、私にとっては、正しいことなんです。だから、お父さん、私はこのままでいたい」
「えぇ、お父さんが許してくれないのはわかっています。けれども、これが私の意思です。私はたぶんお父さんよりも頑固なので、きっと私の意見が通ると思います。それに、お父さんが諦めるまで、私が説得します。なんせ、私は」
「諦めたことがありませんので」
そこで、白殿零は、貯め込んだ涙をぐいと拭って、少し赤くなった瞳を大きく見開いて、キリッと背筋を伸ばして告げた。
「それが今の私、白殿零です!」
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