☆ えぴろーぐ ☆

第71話


 目を開くと、白い天井が見えた。


 蛍光灯に照らされたその部屋は、壁も床も自分の寝ているベッドも白で統一されている。


 体を動かそうと試みたけれど、右手と左足はギブスに包まれていて動かせなかった。視界に入った自分の体は少女の姿で、俺はきらりん☆に変身しているらしい。


 ひかえめな胸も左腕も、包帯でぐるぐる巻きにされている。


 右手のひじには点滴てんてきのチューブが続いているし、ここは病室なのだろうか?


『マスター、おはようございます』


 ベッドのかたわらに立てかけられた杖が声をかけてきた。


STARスター LIGHTライト!! 無事だったのか!?」


 俺は思わず声を上げたが、それを咎める声が届く。


「……朝から大声を出して、ナル君は目覚めが良いんだねぇ?」


 聞き覚えのある声に顔を向けると、右隣のベッドにアクアが寝ていた。


 俺とそう変わらない包帯に包まれた状態だったけれど、アクアの顔も女性のものだ。


「アクア? ……俺たちは、生きてるのか?」


「順を追って話そう」


 アクアはいつものように白髪はくはつをかき上げて続ける。


「ここは魔術協会の病院だ。全てが終わった後、私たちはイグニスにここまで運んでもらったらしい。まったく、イグニスは私たちを殺したいのか生かしたいのか、どっちなんだろうねぇ?」


「俺がテメェらを運ぶのに、どれだけ苦労したと思ってやがる?」


 今度はベッドの左隣へ顔を向けると、そこにイグニスが寝ていた。


 イグニスもベッドに横になっており、頭と右腕に包帯を巻いている。


 そんなイグニスはアクアの事をにらんでいて、二人のベッドにはさまれた俺は居心地いごこちが悪かった。


「私は未来ある若者たちを救った聖人だよ?」

 

「ふざけんじゃねぇ!」


 アクアはにこりと笑うが、イグニスの目は更に鋭さを増している。


「テメェは私利私欲しりしよくの果てに世界を危険にさらした極悪人の間違いだろうが! 俺やソルムのジジィが口添えしなけりゃ、テメェは間違いなく斬首ざんしゅけいだったろうぜ?」


「……私はこれでも魔術協会には迷惑をかけないつもりだったんだよ? 修正力には未知の部分も多いし、しずく君が覚醒かくせいする瞬間に空間圧縮が起きる可能性も考えて、太陽系外の惑星まで準備して儀式も行ったんだ。そこまで君達が追いかけてくるのは予想外だったけれどね」


 アクアは薄く笑って続ける。


「それは置いておくとして、ナル君に言っておくことがある。この世界は、我々が倒れた後、神の子の願いが叶えられた――法則の書き換えられた世界だ」


「法則? その、神の子の願いって、何だったんだよ?」


 俺の疑問に、アクアが目を細める。


「これは推測すいそくの域を出ないが、神の子の願いは恐らく、自らの消滅」


「それって?」


 まるで、雫の願いに似ている。


「まったく律義りちぎな神様だよ。人間としての雫君の人格が神の子を想ったように、神の子の人格もまた、雫君の人間としての幸せを願った。それに、その後に起きた現象を考えてみれば、そうでなければ辻褄つじつまが合わないんだ。神の子が覚醒かくせいした瞬間、私とナル君は術式から切り離されて半神はんしんから普通の人間へと戻った。そんな我々は、あれほどの致命傷を受けたのに、まだこうして生きている。それは我々が再び雫君の術式の対象となり、半神へと昇華しょうかしたからに他ならない。もう存在していないけれど、神の子へ感謝しなくてはならないね」


 でも、それじゃ、あの神の子は――


 俺はあの笑顔を思い出して目を伏せた。


 自分が消滅することを願うことが、本当に正しいと言えるのだろうか。


「……テメェは、どこまで考えてやがった?」


 アクアの言葉に、イグニスが噛み付いている。


「神の子が覚醒した瞬間、半神であるテメェの人格も消滅するはずだし、神の子が自ら消えることを願わなければ、テメェはこの世に存続すらできねぇ。つまり、半神としてのテメェの人格が生き残るためには、神の子の力を消滅させつつ、しかも魔術協会から狙われないように、神の子の術式のみが生き残る世界を作り出す必要があったわけだ。そこまで考えて、神の子が自ら消滅を選ぶように――テメェは神の子を誘導したんじゃねぇのか?」


 アクアは小さくため息をついて答える。


「神の子の願いは、間違いなく本人の意志さ」


 アクアのつぶやきが消えた頃、不意に扉の開く音がして、俺は視線を向ける。


 廊下へと続くその場所に、雫が立っていた。


 俺を見て驚いているけれど、その目には涙が溜まっていって――ベッドへ駆け寄ってくる頃には、すでに笑顔になっていた。


 ころころと変わるその表情を見て、泣きそうになる。


「ひとつだけ、君達に相談があるんだが、いいかな?」


 感極かんきわまる俺に対し、アクアが白髪をかき上げながら口を開く。


「雫君の人格が戻って来たために術式が再構築されたが、今の雫君からは神の子の魔力は失われている。つまり、我々はその術式に飲み込まれる心配は無くなり、魔力さえ用意できれば半神へ――ナル君の体で言えばきらりん☆へと変身ができる状態だ。前にも話したけれど、我々の半神としての力は魔術師の中でも上位の存在。つまり、何が言いたいかと言うと、あれだ。我々に、その力を貸してはくれないか?」


 アクアがべらべらと話すが、その様子を見ていたイグニスが笑う。


「こいつら、お前の話なんて聞いてねぇみたいだぞ?」


 近づいてきた雫が、涙目で飛びついてくる。


 それに嬉し恥ずかし顔を背けたけれど、傷口が刺激されて悲鳴をあげた。


 騒ぐ俺達を見て、アクアがやれやれと首を振る。


「私は神の子の願いを叶えられた――のかな?」


「それこそ、神のみぞ知るって奴だろ」


 イグニスのぶっきらぼうな答えに、アクアは目を細める。


「イグニスには冗談のセンスがないようだね」


「うるせぇよ!」




      おわり

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魔法少女マジカルきらりん☆始めましたっ! 星浦 翼 @Hosiura

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