第69話 出会い


 世界が暗転し、新たな景色が生まれる。


 時がさかのぼるたびに記憶が曖昧あいまいになっているのか、輪郭りんかくがぼやけているような、今までよりも細部を把握はあくできない世界だった。


 そんな世界の中心で、小学生低学年ぐらいの少女がひとり、公園のブランコで遊んでいる。


 ブランコはれ下がったくさりの先に長方形の板を付けただけの簡素かんそな作りだったけれど、少女はそこに座って気持ちよくブランコをこいでいた。


 あかね色の空は広大で、どこまでも続いているように見える。


「おい! お前!」


 そんな心地よい世界に不釣ふつり合いな怒声どせいが響く。


 少女の元に、三人組の少年達が現れた。


 少年達は少女よりも年上に見える。


 そして、その表情は見るからに不機嫌ふきげんだ。


 少女がブランコをこぐのをやめると、少年の一人が口を開く。


「そのブランコは俺のだから乗るんじゃねぇ!」


 目の前に立った少年は、座った少女と比べると、かなり背が高く見えた。


 少女は少年の乱暴な物言いに、体が強張り動けなくなってしまう。


 動かない少女を見て、少年はそれを拒否きょひだと受け取ったらしい。


「早くどけよっ!」


 少女の座るブランコの鎖を掴んで揺らす。


 突然の出来事に、少女はバランスを崩して背中から地面へと倒れた。


 それを見ている少年はびれる様子もなく、それどころか〝いい気味だ〟とでもいった表情で少女を見下していた。


 少女は後頭部に走る痛みとくやしさに眉を寄せる。


 自分の感情も言葉にできないまま、じわりと目頭めがしらが熱くなる。


 しかし、




「お前ら! 何してるんだっ!!」


 


 少女が泣き始めるよりも早く、三人組の背後から声がした。


 三人組が振り返り、少女も上半身を起こして声の方を見た。


 そこには、一人の少年が立っていた。


 少年はランドセルを背負っており、学校からの帰宅途中らしい。


 少年はいどみかかるように三人組をにらみつけている。


「誰だ、お前?」


「何の用だよ?」


 三人組が歩み寄ると、少年は腰を落として、右腕を斜め上にかかげ、左腕は腰に当てた。


「輝く流星は正義の心! 今こそ未来への道を指し示せ!!」


 少年が、謎の言葉を茜色の空へ言い放った。


「意味わかんねぇんだよ!」


 少女の目の前で、殴り合いの喧嘩けんかが始まった。


 でも、それは喧嘩と呼べるようなぶつかり合いには程遠い。少年はまるで喧嘩慣れしていなくて、それははたから見ていると、一人の少年が一方的に叩かれているようにしか見えない。


「弱っちくてつまんねぇよ!」


 少年を殴ることで満足したのか、三人組は台詞ぜりふを残して公園から出て行った。


 茜色はさらにさを増しており、地平線に重なる太陽は直視できないほどに輝いている。


 少女はそんな世界で、少年を見つめている。


 それは見るも無残むざんな敗北だった。


 鼻血も出ていたし、擦り傷は痛々しくて、頭もれている。少女が少年に声をかけようと勇気を振り絞っているが、少年は鼻をすすりながら逃げ出すように走り去っていく。


 公園の出口へと走る少年のズボンのポケットから、何かが落ちた。


 少女は駆け寄ってそれを拾う。


 家の鍵だった。


 少女は顔を上げるが、すでに少年は公園から出て行ってしまっていた。


 追いかけて公園の出口から見回してみたけれど、そこに広がるのは誰もいない住宅地だけだ。


 少年の姿はない。


 少女は改めて少年の落とし物を見つめる。


 その鍵には、先端に星をかたどった杖のキーホルダーとネームプレートが付いている。


 ネームプレートをひっくり返すと〝とうじょうなる〟というつたない文字が書かれていた。

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