第60話 告白


 体は傷だらけで力が入らないし、視界だって薄れてきやがる。呼吸するたびに胸がきしんで、指先もしびれて感覚がない。意識だって朦朧もうろうとしてくるし、上手く思考をめぐらせることすら難しい。このまま倒れた方が楽だと、体中がうったえていた。


 どうして、俺の変身が解けたんだ?


 俺の足元に、わえる金髪を失った黒いリボンが落ちていた。


 それを見て、ゆらりん♪の言葉を思い出す。


 ――私たちの力の根源こんげんは、疑似ぎじしんの願いそのものだ。願いから生まれた私たちは、その願いが失われれば力を維持できない。これが私たちの最大の弱点なのだ。


 俺の変身が解けたのは、しずくの願いが――俺に助けて欲しいという願いが、ついえたからなのだろうか? 雫はもう、自分のことを諦めてしまったのだろうか? 雫はもう、俺に戦って欲しいと、助けて欲しいと、願うのを諦めてしまったのだろうか?


 そう思わせてしまうほどに、俺は無様ぶざまな姿をさらしてしまったのだろうか?


 俺は結局、雫に頼られることすらできなかった。


 変身の解けた俺は、すでに、きらりん☆ではなかった。


 これ以上は戦えない。


 戦えなければ雫を守れない。


 何もできないまま、俺はチャンスを失った。


 何も力のない、ただのしょぼくれた高校生。


 STARスター LIGHTライトに守られただけの、ダメな奴。


 それが俺の正体だった。




 ――でも、きらりん☆だったら、諦めないよな?




 風に吹かれれば消えてしまいそうな、小さなともしびが生まれた。


 俺は力の入らない片足を叱咤しったして立ちあがる。


 そんな俺の姿を見て、隕石魔人いんせきまじんが高笑いしている。


 何か、まだできることがあるはずだ。


 考えろ。


 足りない脳みそ振り絞って、無理でもなんでも押し通して、掴み取らなきゃいけねぇんだ。


 まだ使えるきらりん☆の力はないのか? 地の利を生かす方法は? 今までに見てきた魔術を利用することは? いや、もっと視野を広げろ。そうだ。奴の方に問題点はないのか? 奴の弱点はなんだ?


 ――弱点?


 そうか。


 俺のやるべきことが、やりたいことが、ようやく分かった。


「雫、聞こえてるか?」


 叫ぶ。




「俺は、魔法少女が好きだっ!!」




「あぁ?」


「命がけで戦う魔法少女がっ!! 誰かのために諦めない魔法少女マジカルきらりん☆が、俺は心の底から好きなんだよっ!!」


「と、突然何を言い出してやがる!? 狂ったのか!?」


 狼狽ろうばいする隕石魔人に対し、ニヤリと笑みを浮かべてやった。


「俺は魔法少女になった時、はっきり言って最悪だと思った! 自己じこ犠牲ぎせいなんてクソくらえだし、誰かのために戦うのは馬鹿のやる事だと思ってた! でもな、それは間違ってた!! 俺はな――そんな魔法少女になれて、今更いまさらになって、嬉しいんだよっ!!」


 俺の告白に、隕石魔人が目を丸くしている。


 お前はそのまま、俺の話を聞いてやがれ!


「最初に雫の弁当を食べた時、俺が明太子めんたいこのふりかけを選んだの、雫はずっと気にしてたんだよな? あれからご飯に明太子ばっかり乗せて来やがってさ。自分は辛いの苦手なんだろ? それなのに無理しやがって。自分の弁当だけ別のオカズ乗せればいいのによ? 何を可愛いことしてくれてやがるんだよっ!!」


「急に何を話し始めて――な、なんだと!?」


 隕石魔人の右腕が、光の粒に包まれて消滅した。


「耳かっぽじって、よーく聞きやがれっ!」


「そ、そうか! お、お前の狙いは、俺の存在理由を!? やめろおおおおお!」


 わめく隕石魔人を見て確信する。


 俺の言葉は、雫に届いている。


 俺の言葉を、雫は聞いてくれている。


 なら、俺の伝えることは、伝えたいことは、たった一つしかなかった。


 自分の言葉に、体が、心が、震える。


 きしむ肺に、ありったけの空気を込める。




「俺は魔法少女が好きな――雫のことが、大好きだぁああああああああああっっっ!!」




 叫んだその先で、隕石魔人が光の粒になって消えていた。


 でも、俺も限界だった。


 俺はその場に、崩れ落ちた。

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