第59話 岩


 突き出した槍が、土人形の胴体を貫通かんつうしていた。


 体の中心を貫かれた土人形は、びくりと震えて意思を失った。


 崩れ落ち土の山になってしまった土人形を見て、俺はようやく深呼吸する。


 きらりん☆の戦闘力の前に、土人形は確実に数を減らしていた。見渡してみれば、すでに立ち上がっている土人形は一体も残っていない。


 そして、はるか後方からは爆発するような音が何度も響いており、恐らく、アクアとイグニスが戦っているのだろう。俺はイグニスのことを思い、急いで土壁の裏へと走る。


しずくっ!!」


 土壁の裏へと顔をのぞかせ、


「食らいやがれぇ!」


 火山弾かざんだんに襲われた。


 死角からの攻撃に、俺は避けることも身を守ることもできなかった。


 そんな俺の胸に、火山弾は為す術もなく炸裂さくれつしてしまう。服を貫通かんつうしなかったものの、その衝撃はゆらりん♪に切られた痛みに似ていた。肺が圧迫され息がれ、吹き飛ばされる。


 あおけに倒れこんだ俺は、顔をゆがめながら起き上がり、そいつと目が合った。


「久しぶりだなぁ?」


 そいつは、岩の塊だった。


 身長が三メートルほどのそいつは、岩でできた胴体と四肢ししを持ち、両腕は逆三角形型にかたどられていて、俺に向けられた右腕の先端はまるで噴火口ふんかこうのようだった。頭には目玉がぎょろりと生え、間違いなくその双眸そうぼうは俺をにらみつけている。


隕石魔人いんせきまじん、生きていたのか?」


 声を出すと、胸がきしんで痛みが走った。


 む俺を見ながら、隕石魔人は愉快そうに笑う。


「俺様は運が良いんだって言っただろ? 俺様は消えてなくなる直前で、アクアとかいう魔術師に助けられた。しかも、協力すりゃきらりん☆に復讐する機会までくれるってんだから、乗らない手はねぇだろ?」


 隕石魔人の左腕には、項垂うなだれている雫が抱えられている。


「雫を放せ!」


「そう言われて放す馬鹿はいねぇよ? コイツは人質なんだ。見て分かるだろ?」


 そんな隕石魔人を見て、俺の頭に疑問が浮かぶ。


 アクアはこの世界そのものが、神である雫の願いを叶えるために動いていると言っていた。そんな雫のことを人質にしようとしている隕石魔人の存在は、まるでその話と噛み合わない。アクアの話には例外があるのか、それとも――


「お前の存在も、雫の願いのひとつなのか?」


 隕石魔人はその問いに喜び、ねばつくような気味の悪い声で笑う。


「ひひひひひ。俺様には理解できない感情だが、人間って奴は精神が脆弱ぜいじゃくすぎるぜ。俺様のカミサマは、本気で自殺じさつ願望がんぼうを持ってるらしい。そいつを叶えてやるのが俺様の役目ってわけだ」


「……なら、どうして雫を殺さないんだ?」


 隕石魔人は右腕を俺に向け、火山弾を発射した。


 STARスター LIGHTライトが自動的に魔法陣でそれをはじくと、隕石魔人は顔をしかめる。


「この俺様が願いを叶えてやるんだから、俺様にも利益がなきゃおかしいだろうが! 俺様の目的は、今度こそ、きらりん☆を俺様の手で消し去ることだ! カミサマが大事なら、次は弾くなよ? 無抵抗むていこうなままなぶり殺しにしてやる!」


 無茶苦茶だと思う。


 このまま隕石魔人を倒そうとしても雫を危険にさらしてしまう。


 それに加えて、俺がやられたとしても、その後に隕石魔人は雫を殺すのだろう。


 そんなの八方ふさがりじゃないか。


「簡単には殺さねぇぞ?」


 俺が答えを出せずにいると、隕石魔人の右腕が紅く輝く。


「まずは一発目!」


 発射された火山弾は、俺の右肩に直撃した。


 火山弾は体に触れた瞬間に破裂し、火花と痛みを同時に生む。


 煙が立ち込め、くささに目をやれば、服の表面がただれるように溶けてしまっていた。まだ皮膚ひふには届いていないけれど、この服がどこまで耐えられるのかは分からない。きらりん☆の服を失った時、俺はどうなってしまうんだろう。


 それを考えただけで、恐ろしかった。


「次、行くぜぇ?」


 隕石魔人は続けて火山弾を打ち続けた。


 俺はそれを、ただ受け続けた。


 腕が衝撃にはじけ、右足が狙われて片膝かたひざをついた。火山弾のあまりの熱さに汗が浮かぶ。視界の端で火花が散ったと思ったら、ひたいから血がれていた。痛い。次弾に胸が圧迫されて口から息がこぼれる。痛い。それがドロリと質量を持っていて驚いた。痛い。口から零れた赤色に目を奪われる。痛い。


 ひざに力が入らない。


 体が崩れ落ちそうになる。


「そろそろ終わりにするかぁ?」


 隕石魔人は腕をまっすぐこちらに向けて、口をぐにゃりと曲げて笑う。


「あばよ」


 隕石魔人の腕が紅く輝き、火山弾が発射された。


 瞬間、STARスター LIGHTライトにバーニアが生え、俺の手から離れる。


『マスター、逃げてください』


 STARスター LIGHTライトが火山弾を受けてくだけ散った。


 そして、STARスター LIGHTライトが壊れるのと同時に、俺の変身が、解けていた。

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