第57話 イグニス対アクア


 ジグザグに飛び回っていたイグニスは、唐突とうとつに地面に降り立った。


「鬼ごっこはもう終わりかい?」


 イグニスの後姿を見ながら、アクアも同じように地面へと立つ。


 イグニスはそこで初めて振り返り、


「ウェントスから聞いてるぜ? テメェは半神はんしんになって、魔術をかき消す力を手に入れてるってな。魔術も使えない状態で空から落ちる訳にはいかねぇだろ?」


 イグニスの言葉に、アクアはにこりと笑った。


「少しは考えたようだね。でも、ここまで逃げてイグニスは何がしたかったのかな? 魔術を使えない君では、私と戦うこともできはしないだろう? それならまだ、ナル君と二対一で戦う方が良かったんじゃないかい?」


 イグニスは舌打ちしてアクアをにらむ。


 少しだけ飛んで周りの地形を探ってみたが、ここにはどこまで行っても岩場しか見当たらない。ここがどこなのかが分かれば、イグニスが失敗した場合に魔術協会から応援を呼ぶことも考えられたが、その作戦は白紙に戻った。恐らく、アクアはそれを読んでいたのだろう。


「テメェが時間稼ぎしたいように、俺も時間稼ぎしたいのさ。そんなことは分かってんだろ?」


 アクアはうなずくが、


「ここからはどうやって時間を稼ぐつもりだい? 幼馴染おさななじみのよしみで誘いには乗ってあげたけれど、疑似ぎじしん覚醒かくせいをナル君に邪魔じゃまされては困る。私はそこまでひまじゃないよ?」


「そんなのは――燃やし尽くすだけだっ!」


 イグニスは杖を振る。


「精霊術式、えんじゃ!」


 イグニスの杖の先に魔法陣が生まれ、中心から炎がほとばしる。


 それらは集約し、炎の柱となってアクアへ目掛けて放出された。


 炎によって周りが照らされ、高温にさらされた大気が膨れ上がって破裂はれつするように揺れた。突き進む炎の柱は、まるでへびのようにのたうち回りながら、アクアへと食らいつこうと迫る。


 素手で触れば大火傷おおやけどまぬれぬそれに対し、アクアは手の平を向けて笑った。


「素晴らしい魔術だが、私には無意味だよ」


 アクアの手に触れる直前に、焔蛇がピタリと動きを止めた。


 焔蛇はびくりと震えると、その姿を光の粒へと変え、そのまま消失してしまう。


 アクアは詠唱えいしょうもせず、手をかざしただけでイグニスの魔術をしてしまった。


 イグニスはそれを見て杖を振るが、その杖からは炎どころか、魔法陣すら現れない。


「くそっ!」


「もう終わりかな?」


 アクアの笑顔に、イグニスも強がって笑う。


「いや、今ので理解したぜ。テメェの力の本質をよ?」


「……本当かい?」


 アクアが感心したように笑みを浮かべ、イグニスの言葉の続きを待った。


「テメェの使ってる力は魔力なんかじゃねぇ。どちらかと言えばその対極たいきょくの力だ。だから魔術を無効化するための詠唱もいらないし、打ち消すための魔力の反発も起きない。どうやっているのかは知らねぇが、ずばり、テメェの力は修正力の応用だろ? だから掻き消した焔蛇が光の粒になって消えやがったんだ」

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