第56話 雫の願い


「アクアの言った偶然が、全てしずくの意思で――神の子の作り出した必然の出来事だったのなら、俺達がここにいるのも同じじゃねぇのか?」


 俺の言葉に、アクアは眉を寄せた。


 俺は挑戦的に笑って、言葉を続ける。


「それはつまり、俺がここに来たことも、雫の望みかも知れないってことだろ?」


 俺の答えに、アクアも獰猛どうもうな笑みを見せた。


「なるほど! 雫君の人格が二つに分かれてしまったように、神の子としての人格の〝願い〟と、記憶を封印された後に生まれた凡庸ぼんような人格の〝願い〟が同時に発現しているとすれば、この状況も説明できる! 雫君は神として覚醒かくせいしようとする一方で、それを拒んでいるのか! ナル君、実に面白い仮定だよ!」


「……つまり、どっちが本当の願いかなんて、誰にも分からねぇってことか」


 イグニスのつぶやきに、アクアは笑う。


「それは違うよ? 雫君にとって、それはどちらも本当の願いだ。しかし、二つの願いは相反あいはんし両立することなどできはしない。ならば、それを選ぶ基準は何なのか? その方法は単純たんじゅん明快めいかいだ。だってそうだろう? 別の答えを出した私たちが――ここにいるのだからね」


 アクアは左手に握った水晶を地面へとばらいた。


「大地を守護せし英霊えいれいよ。おろか者にさばきを」


 瞬時にその水晶たちは輝き出し、土でできた四肢ししうごめかせて立ち上がる。


 数十体の土人形が俺とイグニスに顔を向けた。


 その顔には目も鼻も耳もないけれど、明らかに俺達を威嚇いかくし、敵として認識している。


 イグニスはニヤリと笑って杖を振った。


無駄むだ話は終わりにするか!」


 イグニスは杖にまたがり、上空へと飛び上がった。


「全てを飲み込む赤き炎よ。我がめいしたがい全てを煉獄れんごくいざなえ!」


 イグニスの詠唱えいしょうと共に杖が炎に包まれ、杖の先に直径一メートルはある火球かきゅうが何発も生まれる。その火球を、イグニスは迷わず地面へとはなった。


 高速で放たれた火球の標的は、アクアでも土人形達でもなく――眠っている雫だった。


 火球が着弾し、爆炎が地上に広がる。


 辺りは炎に包まれ、土人形たちが飲み込まれた。


 土人形たちはげ、損傷そんしょうの激しい者は潰れてしまっていたり、腕や足を失っていたりした。その数を半分ほどに減らしたが、まだ彼らはうごいており、俺やイグニスを警戒している。


「し、雫?」


 何もできなかった俺のつぶやきが収まる頃になって、ようやく爆心地ばくしんちの視界が開けた。


 さきほどまで雫のいた場所には、大きな土の壁が生まれていた。


 炎の残滓ざんしまとう土壁には、所々に腕や足が飛び出している。


 恐らく、雫を守るために何体かの土人形が壁になったのだろう。


 そんな土壁の後ろからアクアが現れ、イグニスを見上げて口を開いた。


「女性の寝込みを襲うのは、褒められた行為じゃないね?」


「へっ! 訳わかんねぇ理屈をこねくり回しやがって! 神の意思だろうが願いだろうが、アクアがその話をしてやがる理由が、疑似ぎじしん覚醒かくせいまでの時間稼ぎなのは分かってんだよ! 改めて言っておくが、俺の目的は神の覚醒を阻止する事だ。それができりゃ、アクアと戦う必要なんざねーのさ!」


 アクアは目を細め、俺の方を見てつぶやく。


「……安い挑発だ。でも、いいよ。乗ってあげよう」


「何て言いやがった!? 聞こえねーぞっ!!」


 アクアはやれやれと上空のイグニスを見上げる。


「雫君を狙われるのであれば仕方がないと言ったんだよ。ナル君を先に倒してしまおうと考えていたけれど、まずはイグニス、君から始末しまつしてあげよう。ナル君にはそうだな。残りの土人形たちと遊んでもらうことにするよ」


 アクアの体が浮き上がり、イグニス目掛けて飛んでいく。


「こ、こっちに来るんじゃねぇっ!!」


 イグニスはそう言って飛び去って行き、それをアクアが追いかけて行った。


 小さくなっていく二人の姿を見上げながら、イグニスに感謝する。


 アクアのことを、イグニスは約束通りに引き受けてくれた。


 なら、今度は俺が約束を守る番だ。


 身構える。


 俺の目の前には、先ほど生まれた土壁と、土人形達が蠢いている。先ほどの火球で数を減らしていたけれど、ざっと数えて二、三十体ほどがこちらを警戒している。


「きらりん☆は、ザコ敵との戦いも得意なんだぜ?」


 STARスター LIGHTライトをバトルモードへと変形させる。


 俺は槍の先端を、近くの土人形へと突き立てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます