最終章 ☆ きらっと最終決戦でしょ♪ ☆

第55話 罪滅ぼし


 裂け目の向こう側は、広大な荒野だった。


 そこは盆地ぼんちらしく、四方を山々に囲まれている。


 見渡す限り建物や植物の姿はなく、岩と砂でできたその世界は、どこか薄暗い。


 俺とイグニスの目の前に、直径五メートルほどの魔法陣が描かれており、その中心でしずくが横たわっていた。雫はただ眠っているようにしか見えないけれど、その周りに描かれた魔法陣はあわく不気味に発光している。


「二人とも来てくれたんだね?」


 雫の隣に、アクアが立っていた。


「人避けの結界を張っているとはいえ、こんな所まで来てくれたのはナル君とイグニスだけだよ。疑似ぎじしん覚醒かくせいするまでのわずかな時間を、一緒に楽しもうじゃないか?」


「ふざけんじゃねぇ」


 微笑を浮かべたアクアに、イグニスが噛み付く。


「本当のアクアを出しやがれ! 作り物のテメェに用はねぇよ!」


ひどいな?」


 イグニスの暴言に、アクアは溜息ためいきを漏らして続ける。


「確かに私の今の人格は、君たちから言えば架空かくうの人物だけれど、私は今、確かにここに存在しているんだよ? それに、イグニスは私がアクアの元人格をだまして体を乗っ取ったように考えているのかも知れないけれど、これは元人格であるアクアの意思でもある。君と同じように最高位さいこういの魔術師であるアクアが、納得なっとくもせずに眠っているわけがないだろ?」


 イグニスは舌打ちして、アクアをにらみつけた。


「テメェの目的は何だ?」


「私――といっても、イグニスの言う通り、私には以前の人格である魔術師としてのアクアと、今の人格である半神はんしんとしての二種類が存在するから、説明はややこしいな。しかし、筋道は違うけれど、その目的は共通している。端的に答えるならば、私たちは雫君の幸せを祈っているだけだ。そうだな? 半神としての私の理由は分かりやすいよ? 私は雫君に作り出された人格だ。そんな存在が、言わば親代わりのような雫君を助けたいと思うのは当然の感情だろう? そして、元の魔術師としてのアクアの理由をいうならば、それは罪滅ぼしだ」


「罪滅ぼし?」


 俺が聞き返すと、アクアはうなずく。


「雫君の人生は悲惨なものだ。本来は普通の人間に生まれたにも関わらず、悪い魔術師に利用されたせいで、その人生はゆがめられてしまった。それだけでも許しがたいが、雫君が神として覚醒かくせいしようとした今、魔術協会は雫君を処分しようとしている。私にはそれが我慢ならない」


 アクアの答えに、イグニスは眉を寄せていた。


「テメェはどうして、そこまで疑似神に肩入れする? 魔術師としてそこまで上り詰めたのに、命までけて魔術協会を敵にするメリットなんてないだろ?」


「その発想は、根本から間違っている」


 イグニスの問いに、アクアは首を横に振っていた。


「アクアの父である魔術師は、ある禁忌きんきを犯して魔術協会に処刑された。そして、魔術協会の隠匿いんとくは絶対であり、その罪状は身内であるアクアにすら開示かいじされなかった。そもそも、アクアが魔術師としてここまで上り詰めたのは、父が犯した罪が何だったのかを、アクアがこの目で確かめたかったからだ。だから、アクアは魔術師としての鍛錬らんれんを積み、こうして日本支部の担当を任されるほどになった。魔術協会に隠されたその秘密を探るためには、その秘密を隠す者の立場になるしかないと考えていたからね。でも、それら全ては、偶然ぐうぜんという名の、神の意思なんだよ」


 アクアは目を細めて続ける。


「結局、ゆらりん♪君に調べてもらうまで見つけることができなかったけれど、アクアの父の罪は、新たな神を生み出そうとしたことだったんだ」


「……それって?」


 アクアの話してくれた〝神の子〟である雫を生み出した魔術師の話を思い出す。


「アクアの父こそが、雫君を〝神の子〟へと変えてしまった張本人だった。だから、アクアの元人格は雫君のために全力を尽くすことを決めた。でも、そんなアクアの思考回路ですら、決められた未来だったのさ」


「どういう意味だ?」


 イグニスの問いに、アクアはまた笑う。


「雫君が神へと覚醒しようとしているタイミングで、偶然にも、こんな過去を持つアクアが魔術協会での日本支部の担当になった。そして、雫君は新たに生まれた人格で、偶然にも『魔法少女マジカルきらりん☆』という番組にれ込んでいて、その登場人物を創造し始めた。また、その番組には、偶然にも過去の記憶を扱うことのできる能力者が存在し、その力を授かったゆらりん♪君は私に協力的だった。それら全ては偶然であるけれど、そんな偶然が何度も重なると思うかい? つまり、それらの偶然は〝神の子〟の力による必然なのだろう。そこに私は神の意志を感じ、それにしたがうまでだ」


 アクアは左手でローブの内側を探り、小さな水晶の粒を取り出した。


 きらりと輝く複数の水晶は、ソルムと戦った時にアクアが手に入れたものだ。


「しかし、私はナル君とイグニスがここに来るとは思っていなかったんだ。今、雫君を覚醒させるために世界は動きつつある。だから、私はその法則に乗っ取って、ナル君がゆらりん♪君に負けると思っていたし、それで私の役目も終わりだと考えていた。君たちの存在理由は分からないが、障害しょうがい排除はいじょさせてもらうよ?」


 笑みをたたえているが、アクアの視線は冷たい。


 そんな視線を受けながら、俺はひとつの可能性に思い当った。

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