第54話 感動的なシーン


 い、今までで一番怒っているように見えるのは、何かの間違いですか!?


「馬鹿者が! これだから素人しろうとは困る! 良いか? その足らん脳みそをしっかり働かせて、よーく聞けっ! 魔法少女という奴は、力を認め合った相手とリボンの交換をするのだっ!! サッカー選手でも試合後にユニフォームを交換するであろう!? こんなもんは魔法段位初級のサービス問題の一般常識であろうがっ!!」


 そ、そんなん一般常識じゃねーよ! 百歩譲ってもローカルルールだろっ!?


 ……なんて言葉は、ゆらりん♪の剣幕けんまくの前に言えなかった。


 俺は大人しく左右に付けたツインテをわっていたピンクのリボンを解き、ゆらりん♪に手渡すことにする。


「本当はもっと感動的なシーンなのだが、今回は許してやろう」


 どこか上機嫌になったゆらりん♪は、俺に手渡されたリボンを使って髪をまとめ直した。


 俺もそれにならってツインテを直すが、いつの間にか手渡されたゆらりん♪のリボンは二つに分かれていた。……どういう原理だ?


「イグニスは、そこで何をしているのですか?」


 髪を結ぶことに苦戦していた俺が顔を上げると、中空に魔法陣が生まれ、そこには魔術師の集団が現れていた。


 声をかけてきたのは、魔術師の集団の真ん中にいたウェントスだ。


「俺はアクアを止めるためにここにいる」


 イグニスが答えたが、ウェントスは悲痛な表情でそれを見つめていた。


教王きょうおう様からの新たなご命令です。〝アクアは第一級特別犯罪者として処理せよ〟とのことです。イグニスもそのめいしたがいなさい」


「ここは私に任せるのだ♪」


 ゆらりん♪がウェントスとイグニスの間に立った。


「貴様らはアクアと疑似ぎじしんを止めるために決戦の地へとおもむくが良い。こいつ等は私が足止めしてみせよう♪」


 自信満々に言い放つゆらりん♪に、ウェントスは口を開く。


「わ、私は魔術協会、最強の一角である風の真名を与えられたウェントスですよ? そんなオチビちゃんには負けません! それに、私の配下に集められたのは魔術協会でも生粋きっすいのエリートぞろいですし、あと数分もすれば教王様が直々じきじきに――」


「図に乗るなよ、小娘がっ! 私を倒せる魔術師は、あの世界でもこの世界でもきらりん☆ただ一人なのだ♪ 力の差を知りたい者からかかってくるがいい!」


 ゆらりん♪が飛行モードのSOUNDサウンド CONNECTコネクトまたがり、上空へと舞い上がる。


 中空に魔法陣が幾重いくえにも展開され、ゆらりん♪と魔術師達の戦いが始まった。


「俺たちもいくぞ? 呪文は覚えてるか?」


 イグニスに言われ、俺は腰を落として、右腕を斜め上に掲げ、左腕は腰に当てる。


 それは、きらりん☆の決めポーズだ。


「輝く流星は正義の心! ゆらりん♪が過去を正し、きらりん☆が未来を切り開く! 今こそ未来への道を指し示せ!!」


 俺の叫んだ呪文に応じて、空間に裂け目が生まれる。


 その裂け目の向こうには、見覚えのある荒野があった。


 俺はアクアとしずくの居場所を知らない。


 それでも、きらりん☆の力は、間違いなくその道を作り、示してくれた。


「ゆらりん♪も無事でいろよっ!」


 上空で戦うゆらりん♪に叫ぶと、


「くっくっくっく」


 独特の笑い声が返ってくる。


「人の心配をしておる場合か馬鹿者が! だが、その言葉は受け取っておこう!」


 ゆらりん♪は、おそい掛かる炎や電撃や風のやいばを避け、時には結界ではじきながら笑う。


「私たちの力の根源こんげんは、疑似神の願いそのものだ。願いから生まれた私たちは、その願いが失われれば力を維持できない。これが私たちの最大の弱点だ。それを踏まえたうえで、しっかりとやるのだぞ? 東條とうじょうナル!」


 笑顔で言われ、ドキリとする。


 ピンクのリボンも、似合ってるじゃねーか。


「そろそろ行くぜ?」


 イグニスが裂け目を抜け、それに俺も続いた。

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