第53話 リボン


「共闘する前に、はっきりさせとくことがある」


 イグニスは俺をまっすぐ見つめて続ける。


「俺たちは、あくまで利害りがい関係かんけい一致いっちによる共闘に過ぎねぇ。それをきもめいじろ」


「それは――普通の協力関係と何が違うんだ?」


 俺の問いにイグニスは舌打ちして、


「危険な橋を渡るのは同じだが、今のアクアと本気でり合うなら命がけの戦いになるのは間違いねぇ。つまり、俺には余裕がねぇってことだ。少し考えればわかるだろうが、俺たちの共通の敵は同じだが、最終目標はまるで違うと気づけ! お前の目的は疑似ぎじしんの前人格を助ける事だが、俺の目的は神の覚醒かくせいを止める事と、アクアを回収する事だ」


「……何が、言いたいんだよ?」


 イグニスの言いたいことは何となく分かったけれど、言葉にしてほしかった。


「ここまで言っても分からねぇのか? つまり、俺は、お前が疑似神の説得に失敗しそうなら、アクアを助けられる可能性の高い方法を取るってことだ。機会があるなら、俺は覚醒する前に疑似神を殺す。疑似神の命さえ絶ってしまえば、アクアは普通の魔術師に戻るし、教王きょうおうとの戦争もなくなる。それこそが俺にとっての理想なんだよ」


 イグニスの目が、俺を冷たく見据みすえていた。


 しかし、それは仕方のないことだとも思った。


 そもそも、その話は、わざわざ俺にする必要なんてない話のはずだ。


 最初から共闘する気がなかったとしても、そこに俺が文句を言えるとは思えない。


 この話をイグニスがしてくれたのは、それこそ、俺をおもんばかっての事だと思う。


「わかった。話してくれてありがとう」


 イグニスは俺の答えに仏頂面ぶっちょうづらになって、


「名前」


「え?」


「きらりん☆じゃなくて、お前の本当の名前は何だ?」


 イグニスは眉を寄せて聞いてくる。


東條とうじょうナル」


 俺が答えると、イグニスはばつが悪そうに頭をかいた。


「俺だって、できる限り穏便おんびんに済ましたいさ。今のは最悪のケースだ。そうならないためにも俺が時間を稼いでやるから、ナルは命がけで疑似神を説得しろ」


「あ、ありがとう」


 俺がお礼を伝えるが、イグニスはふんと鼻を鳴らす。


「で、ゆらりん♪? お前はこれからどうする気だ? 厄介やっかいごとを任せるだけ任せて、自分だけ傍観者ぼうかんしゃを決め込むつもりはねーよな?」


 イグニスに挑発されたゆらりん♪は「当たり前だ」と立ち上がる。


「だが、その前にひとつだけやることがある」


 ゆらりん♪は紅色の長髪を一纏ひとまとめにしていた黒いリボンを解き、俺へと差し出してきた。


「受け取れ」


 ゆらりん♪は、なぜか顔を赤く染め、口をとがらしている。


「……なんだこのリボン? RPGみたいに装備したら特殊な耐性とか付くのか?」


 俺の疑問に、ゆらりん♪は瞬間しゅんかん湯沸ゆわかしの様に――キレた。


「このリボンは普通のリボンだっ! ただのっ! 市販品のっ! 一般的なっ!」


 詰め寄られてにらまれる。


「リ、ボ、ンだっ!!」

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