第46話 ガラの悪い女性


 俺は大通りに差し掛かるところで足を止めた。


 辺りを見渡して悩む。


 勢いよく飛び出した所までは良かったし、ゆらりん♪の目的も知っている。しかし、肝心かんじんのゆらりん♪がどこに行ったのかが分からない。アクアに連絡が付けば探してもらえるかも知れないけれど、アクアにだって連絡なんて――


「中止!? なんでだよっ!? 夜勤やきんけなのに、体にむち打ってここまで来たんだぞ!?」


 歩道の真ん中で、がらの悪い女性が携帯電話を相手に怒鳴どなり散らしていた。


 俺はそれを見て、ようやくアクアの連絡先を知っている事に気付いた。


 携帯を取り出そうとして、自分がきらりん♪に変身していることを思い出す。いつも携帯をいれているズボンのポケットは、きらりん☆のスカートには付いてすらいなかった。


「いや、仕込みに時間がかかったのは俺が悪かったけどよ。ああ? わーったよ。んじゃ後は俺の好きにするからなっ! ……うるせぇ! もともと俺は非番ひばんだっつーのっ!」


 目の前の女性が、携帯を乱暴に切ってポケットにしまった。


「好き勝手言いやがってウェントスめ。次に会ったらタダじゃおかねぇ――って!? おい、そこのお前! ちょっと待て!」


 指をさされて、俺は周りをキョロキョロと見渡す。


 歩道には俺とその女性しかいなくて、呼ばれたのは俺らしい。


「本物のきらりん☆かよっ!? クオリティ高ぇな!!」


 彼女はれしく俺の肩や腕を触って感触を確かめ始めた。


 彼女は茶髪のショートカットで、男勝おとこまさりな喋り方と、三白眼さんぱくがんが意思の強さを感じさせる女性だった。赤いTシャツにショートパンツという格好で、露出ろしゅつが高いけれど寒くないのだろうか? 


「マジですげーな!」


 彼女の様子からさっするに、彼女はきらりん☆のファンらしい。


 珍しいとは思うけど、これだけ完成度の高いきらりん☆を見つけて興奮する気持ちはわかる。


「今、急いでいまして」


 俺は丁寧に逃げようとするが、


「少しぐらい良いじゃん! サイン――は本物じゃないからいいか。一緒に写真撮ってくれない? でもさ、どうせなら中身もきらりん☆に寄せればいいのによ? 本物のきらりん☆なら目的地まで一瞬だし、その台詞せりふは似合わないだろ? ……それとも一期リスペクトで三期は嫌いなのか? まー賛否さんぴ両論りょうろんあるわなぁ?」


 避難がましく言われてむっとしたけれど、それよりも、


「きらりん☆なら、目的地まで一瞬なんですか!?」


 俺に言い寄られて、彼女は一瞬だけ目を白黒させたが、すぐに得意げな表情に戻る。


「そんなことも知らないでその恰好かっこうしてんの? しゃーねぇな。よーく見てろよ?」


 彼女は腰を落として、右腕を斜め上に掲げ、左腕は腰に当てる。


 それはきらりん☆の決めポーズだった。


「輝く流星りゅうせいは正義の心! ゆらりん♪が過去を正し、きらりん☆が未来を切り開く! 今こそ未来への道を指し示せ!!」


 得意げにニヤリと笑った彼女に困惑こんわくする。


「あの、それで」


 何が起きるんですか? そう続けようとした俺の口は、そのまま驚きに開かれる。


 それは、杖の状態のSTARスター LIGHTライトが発光し始めたからだ。


 杖の先端から生まれた光はそのまま離れていき、俺の前で回転し始める。そして、その光の輪の中心に、亀裂きれつのようなものが生まれた。


 その裂け目の向こうには、周りの街中とは別の景色が映し出されていた。


 それはまるで、魔術師達の作り出していた移動用の魔法陣そのものだ。


「早く行きな!」


 彼女はその摩訶まか不思議ふしぎな現象に驚くこともなく、俺の背中をぐいっと押す。


 不意を突かれた俺は、裂け目の向こうへと移動してしまった。

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