第41話 魔術師の戦い


「母なる大地を包みし旋風せんぷうよ。その強靭きょうじんなる力の一端いったんを示せ」


 杖を振り、詠唱えいしょうを始める。


 ウェントスの周りに大小の魔法陣が幾重いくえにも生まれ、それが緑色に発光した。


 静寂せいじゃくだった中空に風が舞い起こり、ウェントスを包む空間が薄緑色に魔力を帯びていく。


「精霊術式! ふう烈波れっぱ!」


 ウェントスが言い放つと、その空間に現れている魔法陣から、質量を持つ刃となった風が生まれた。それらはアクアに向けて射出された瞬間に――光の粒になってき消える。


「え?」


 それは、ウェントスの周りに浮かんでいた魔法陣も、中空にただよっていた薄緑色の魔力も同じだった。それらはウェントスのつぶやきと同じように、中空に霧散むさんして消滅する。


「どうして私の魔術が発動しないの!?」


「くくくくくくくく」


 戸惑うウェントスを見て、アクアが声を立てて笑っている。


「私は魔術師であり半神はんしんだと言ったはずだよ? 君たちの魔術と私の魔術では、発動術式に加えて原理すらも次元が違う。ウェントスの扱える魔力が具現化ぐげんかできるかどうかなんていうのは、私の気分次第ってことさ」


「そんな事があるわけないでしょ!?」


 ウェントスがみ付くが、アクアは見下すように薄く笑ったまま答える。


「信じられないのであれば、その目でもう一度だけ確かめさせてあげよう。魔術というのは、とても脆弱ぜいじゃく繊細せんさいなものだ。思考の積み重ねによって起きるその事象は、その積み重ねが少しでも狂えば発動できはしない。私たちが当然のように使っている浮遊ふゆうじゅつですら、ね?」




 アクアが手をかざすと、ウェントスの体が、中空にとどまるのをやめた。




 叫び声を上げながら落ちていくウェントスを見て、俺は思わず走り出していた。


「マジカル輝くミラクルるん! 魔法少女にな~~れっ!」


『了解です。マスター』


 俺はきらりん☆に変身し、STARスター LIGHTライトも杖へと変わる。


 走っても間に合わない距離に、俺は叫ぶ。


STARスター LIGHTライト! 飛べぇえ!」


『……私は飛ぶのが苦手ですが、よろしいですか?』


「俺がなんとかする! いけぇっ!」


『了解です』


 STARスター LIGHTライトが飛行モードへ変形し、


FIREファイア


 爆発的な推進力で地面すれすれを飛ぶ。


 瞬間的にウェントスの落下地点と俺の距離が近づいて、俺は爆走を続けるSTARスター LIGHTライトから手を離した。


「うおぉっ!」


 あまりの速さに上手く着地できなかった。


 スライディングして地面に体がこすれるが、痛みはない。


 きらりん☆の体なら、魔力のない物から傷を受けないことは想定済みだ。


 俺は滑りながらウェントスに向かって腕を伸ばす。


 あまりの速さに生まれた土煙が止む頃、俺の腕の中には、咳き込むウェントスの姿があった。


 抱きこんだウェントスは思ったよりも小柄こがらで、丸眼鏡が盛大にずれている。目に付くような怪我けがはなさそうで、その顔はきょとんと俺を見つめていた。


「だ、大丈夫ですか?」


 俺が聞くと、ウェントスはうなずき、目をぱちくりさせていた。


「助けてくださって、あ、ありがとうございます?」


「ナル君、ナイスキャッチだ!」


 拍手はくしゅをしながら、アクアはまた笑っていた。


「それにしても、これほど力の差があるとはね? 魔術協会、最高戦力の一角いっかくであるウェントスでさえ、私に何もできはしない! それはソルム様も同じだよ?」


「口をつつしめっ!!」


 ソルムが激昂げきこうした。


 ソルムは右手で杖を振り、左手で小さな何かを地面へとばらいた。


「大地を守護せし英霊よ。愚か者に裁きを」


 即座そくざ詠唱えいしょうを始め、それは地面に落ちると同時に発光する。


 光の粒は地面の土をまとい、大きく変質していく。


 土を纏った何かは、それぞれが生き物のようにうごめき、腕や足を形成していった。瞬く間に百体ほどの泥人形が公園をめつくすように生まれ、その目も口もないつるりとした顔がアクアを見上げる。


魔術まじゅつ生命体せいめいたい、土人形か。まったく気味の悪い術だね」


 ソルムは詠唱が終わると同時に杖をアクアへと向けた。


「ゆけ」


 土人形たちは背中から羽を生やして空中に飛び上がった。


 その速度は、目にも止まらぬ弾丸だんがんのようだった。


 全ての土人形が同時にアクアに向かって突撃していく。


 アクアのいた場所へと何十もの土人形が折り重なり、それは原型をとどめずにつぶれていった。


 またたきする間に、アクアの姿が見えなくなってしまった。


 中空ちゅうくうに残ったのは、宙に浮いたソルムと丸い土くれだけだ。


 その土のかたまりに、アクアは取り込まれてしまった。

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