第39話 神の子


 今から十五年ほど前、日本の僻地へきちでのことだ。


 山に囲まれた小さな村に、新興しんこう宗教しゅうきょう教祖きょうそが現れた。


 その教祖が本当にその宗派の神を信仰していたかは定かではないが、その教祖は神の声を聞いたとして一つの予言をとなえた。


 その内容は、ある決められた日時に、この村に神の子が生まれ落ちるという予言だ。


 その時点では、村人たちはその予言を信用していなかったらしい。


 当然だ。


 唐突とうとつに現れたよそ者の言葉を信じることなどできはしない。


 しかし、その教祖の予言した日に、ある村人が子供を出産した。


 そして、それから五年後、不思議な出来事が起こり始める。


 最初は些細ささいな出来事だった。


 その子供はまず、予知夢よちむを見るようになった。


 隣人がたずねてくることや、誰がどのように怪我けがをするなどを言い当てた。村人たちは驚いたものの、まだその子供を神だとしたうほどではなかった。しかし、その子供が土砂どしゃくずれの予知夢を見たことで村人の命を救った時、その信仰は本物となった。


 その村は、その新興宗教に飲み込まれていった。


 その子供は神とあがめられ、子供はさらに村人を救い続けた。


 しかし、そこにはカラクリがあった。


 その新興宗教を広めた教祖の正体は、魔術師だった。


 その魔術師は、神を創り出すことを名目に、人体実験紛いの禁忌きんき行使こうししており、それを糾弾きゅうだんされて魔術協会から指名手配されていた。


 そして、それは偶然だったのかも知れない。


 その禁忌の最初で最後の成功例が、その子供だった。


 ほどなくして、その魔術師は魔術協会に処刑されることとなったが、問題はその〝神の子〟の処遇しょぐうだった。〝神の子〟に罪はないが、その力を魔術協会は恐れた。だから魔術協会は〝神の子〟の力を封じることにした。


 魔術とは基本的に、修正力をあざむく必要がある。


〝神の子〟とはいえ、その基本きほん概念がいねんは変わらない。


 この世に生まれた術式は、全てが時間と共に修正力によって消滅するために、記憶の中にしか術式をとどめておくことができない。


 つまり、記憶さえなくなれば、その術者は魔術を使うことはできなくなる。


 こうして〝神の子〟は神としての記憶を人格ごと封じられ、魔術協会によって秘密裡ひみつりに育てられることになった。

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