第36話 レンジャー


「ほら」


 俺が枕を手渡すと、しずくが礼を言いつつ受け取る。


 しかし、その瞬間に――雫の枕が、光の粒に包まれていた。


 指先から熱を感じて、俺は思わず手を離してしまう。


 枕の発光は収まらず、さらに勢いを増していく。


 それは、見覚えのある光だった。


 それは、俺がきらりん☆に変身した時と同じ光だ。


 あまりのまぶしさに目を閉じる。


 俺が薄目を開くと、その光はすでに収束していて、雫の手にある枕は、すでに枕と呼べるモノではなくなっていた。


 それは四角い箱のような機械だった。


 三十センチ角ぐらいのその箱は、ツルツルとした白い表面以外には特に形状もない。それを機械だと思ったのは、そんな箱が、


『ココハドコデスカ? アナタガ私ノ神ナノデスカ?』


 二つに割れる様に口を生み出し、喋ったからだ。


 その機械を、俺は知っていた。


「レ――」


「レンジャー君っ!?」


 それは雫も同じだった。


 雫は言うやいなや、その機械に抱き着いて頭をでる。撫でまわす。


『判断材料ノ自動収集ヲ完了。私ノ生ミ出サレタ目的ヲ認識』


 カタコトの言葉で話すこの機械は、名前をレンジャーという。


 レンジャーも『魔法少女マジカルきらりん☆』の登場人物だった。レンジャーはきらりん☆のお助けキャラで、何度もきらりん☆のピンチ(レンジャーのせいでピンチに陥ったこともあるけれど)を救っていた。


 雫に撫でまわされながら、レンジャーが俺に向かって口を開く。


『強大ナ魔力反応ガ急接近中。目的ノ達成ヲ最優先事項ニ設定。アナタハSTARスター LIGHTライトヲ、オ持チデスネ?』


 気付くと、ズボンのポケットが発光している。


 俺はそこから宝石状態のSTARスター LIGHTライトを取り出した。


 STARスター LIGHTライトはヒビが入ったままだが、その発光量は増しているように見える。


 少しだけでも、回復したのだろう。


 安堵あんどする俺に、レンジャーは言う。


『時間ガアリマセン。説明ハ省略イタシマス』


 不意にレンジャーの口が開かれ、そこからカメレオンのように舌が伸びた。その舌は俺の手にあったSTARスター LIGHTライトからめとり、


『イタダキマス』


 一口で丸呑みにしてしまった。


 ……思考が、追いつかない。


 俺は何もなくなった自分の手の平を唖然あぜんとして見つめる。


 そんな俺の前で、レンジャーはもごもごと口を動かし続ける。


 その口内からは摩擦音まさつおんや電子音、打音や甲高い何かを削る不快な音がれていた。


 ――やっと、思考が戻ってくる。


「何しやがるっ!!」


 俺は涙目になってレンジャーにつかみかかった。


 STARスター LIGHTライトは良い奴だったんだ!


 STARスター LIGHTライトは何も知らない俺に力を貸してくれて、隕石魔人いんせきまじんと対等以上に戦わせ、ロケットのように飛んで俺を振り回した。少しポンコツだと思ったけれど、それは全て俺のためにしてくれたことだ。付き合いが長いわけではなかったけれど、そんな俺を、STARスター LIGHTライトは命がけでゆらりん♪から守ってくれた。


 俺はまだ、その時の恩を返してない!


「雫! そのまま押さえてろっ!」


「で、でもっ」


 困惑する雫を無視して、俺はレンジャーの口に指をかけた。


 無理矢理にレンジャーの口を開かせようとするが、めちゃくちゃ硬い。


「ちくしょう!」


 何かバールのようなものでもないと無理か――そんなもん俺の家にあったか!?


『ヒバラフオマヒフダファイ』


「何を言ってるのか分かんねぇんだよっ! ぶっとばすぞっ!!」


 俺は棚から工具箱を取り出して、マイナスドライバーを握る。


「お、俺のSTARスター LIGHTライトを、返せぇええええええっ!!」


 レンジャーの口にマイナスドライバーを突っ込もうとした、その時。


 ――チンッ♪


 それは電子レンジのベルに似た、気の抜ける音だった。


『オ返シ致シマス』


 レンジャーの口が開き、舌がでろんと広がる。


 その舌の上にあったのは、ヒビひとつなく、綺麗に輝く、




 STARスター LIGHTライトの姿だった!




『レンジャーの助けもあり、修復完了しました。お久しぶりです』


STARスター LIGHTライトぉおお!! 無事だったかぁああああっ!!」


 俺がかんきわまってSTARスター LIGHTライトを両手で掴むと、雫がやれやれと言う。


「レンジャー君も直すっていえばいいのに」


「……雫は知ってたのかよ!」


 それなら教えてくれよとも思ったが、焦りすぎた俺が悪い気もする。


『説明ノ時間ガ取レズ、申シ訳アリマセン。ソレニシテモSTARスター LIGHTライト、コノ世界デモ、素敵ナゴ主人ヲオ持チニナリマシタネ』


『この世界でレンジャーに出会えたのは幸運でした。マスター? これでまた戦えますよ』


「戦うって言っても、俺は別に――」


 不意に、窓の方から何かを叩いているような音が聞こえてきて視線を動かす。


 窓の外には、笑顔で窓をノックする白髪はくはつの魔術師の姿があった。


「アクア!?」


 ここは二階で、そこにはベランダもない。アクアは当然のように空を飛んでいるらしい。


 俺が窓を開けると、アクアは口を開く。


「少しだけ手間取ったけれど、計画は順調だよ。君たちも順調に乳繰ちちくっていると思ったんだが、彼はなんだい?」


 アクアの目が鋭くなる。


 目線の先にいるのは、レンジャーだ。

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