第26話 手痛い授業料


 目覚めると、木目もくめじょうの天井が見えた。


 俺の体はふかふかの布団に包まれていて、その部屋が和室なのだと気付く。


 俺は見知らぬ場所で寝ているらしい。


 まどろみの中でごろんと寝返りをうつ。


「……んっ」


 甘い吐息が聞こえてくる。


 改めてまぶたを開き、心臓が止まるかと思った。




 俺と同じ布団の中に、しずくが寝ていた。




 横向きに眠っている雫の顔が、俺の方を向いている。


 吐息を肌で感じられるほどの至近距離だった。


 つやっぽく柔らかそうな唇と、シャツから覗く胸の谷間に視線が吸い寄せられて、


「な、なんでっ!?」


 自分の口から少女の叫び声が聞こえた。


 混乱した頭が、ようやく状況を理解する。


 上半身だけで起き上がると、包帯ほうたいにまかれた自分の体が見えた。


 それは男のモノではなくて、きらりん☆の少女体型で、素肌に包帯をまかれているために体のラインがぴっちりと浮き出ている。


 自分の体とはいえ、全裸に包帯姿の少女がいるという事実にもやもやした。


「なかなか手痛い授業料だったね?」


 聞き覚えのある声の方へ顔を向けると、庭に続く縁側えんがわに、アクアが腰かけていた。


 その隣には蚊取り線香がかれていて、一筋の煙が揺れている。


 外からは茜色の日差しが届いているから、今は夕方なのだろう。


 和室と相反する魔術師のローブ姿が不自然だった。


「アクアが助けてくれたのか? ゆらりん♪はどうなった? ……ここは、どこなんだ?」


「順を追って話そう」


 振り返ったアクアは手に持っていた魔導書をパタンと閉じ、にこりと笑う。


「まず、ここは人避けの結界を張った私の隠れ家だ。君たちの詳細を魔術協会には知られたくなかったから、どうしても我流の治療になったのと――客用の布団がひとつしかなかったのは申し訳ない。でも、私の治癒魔術と半神はんしんとしてのナル君の生命力を考えれば、すでに傷は完治しているんじゃないかな?」


 体に痛みがないことに気付きながら、思い出す。


「……STARスター LIGHTライトは?」


「彼女ならそこだ」


 ……STARスター LIGHTライトは女性だったらしい。


 俺がアクアのあごをしゃくった方へ視線を移すと、仏壇ぶつだんの前にかれた座布団の上に、星型の宝石が置かれていた。


「今回の件で、最も重症なのは彼女だ」


 STARスター LIGHTライトの中央には大きくヒビが入っており、弱々よわよわしく発光している。


「修理の方法を探っているけれど、どうも彼女の内部部品はこの世界に存在しない物質が使われているらしい。つまり、現状では彼女の自動回復機能にかけるしかなく、彼女が治るまでナル君は戦闘不可能だ。……それにしても、私は彼女の事を術式発動装置に過ぎないと考えていたから、自らの意志であるじを守るとは驚いたよ。私よりも彼女に感謝するべきかもね?」


 自分の身代わりになってくれたSTARスター LIGHTライトを想うと胸が痛んだ。


 俺がしっかりしていれば、STARスター LIGHTライトは無事だったかもしれない。


 ……俺が再戦したところで、ゆらりん♪に勝つことなどできるのだろうか?


「ゆらりん♪君とは協力関係を取り付けたよ? 今では私が建前上保護しているし、すでにナル君の敵ではない――さらに言うなら、不良達への復讐も後回しにしてもらったから安心して欲しい。瀧本たきもと君には少し悪いけれど、身の安全は保障するし、瀧本君の願いも因果いんがに組み込まれているから、その体はゆらりん♪君に貸し出す形だ。そうそう。貸すといえば、ゆらりん♪君に私の研究室を提供したら、むさぼるように魔導書を読んでいたよ? まったく、彼女は根っからの魔術師だね」


 アクアとゆらりん♪の関係性はよく分からないけど、とりあえず危機は去ったらしい。


 俺は何気なく寝たままの雫を眺める。

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