第24話 シールモード

 

 その赤色が血液だと認識した瞬間、頭の中が痛覚に塗りつぶされた。


 顔がゆがみ、ひたいに嫌な汗が浮かぶ。


 呼吸や脈が痛みに繋がる。


 傷は体中にあったけれど、特に苦しいのは直接切り付けられた胸だった。


 そこにあったはずの大きなリボンはえぐられ千切れていて、じわりと広がる血の色に目を奪われた。痛みを逃がそうとひくつく肺が、呼吸の邪魔じゃまをする。


 視界がかすれていることに気づいて、目に涙が溜まっていることを知った。


 隕石魔人いんせきまじんに殴られた時だって、さきほど地面に叩きつけられた時にも痛みはなかった。そんなにも頑丈がんじょうなこの体が――このままじゃ、もたない。


「貴様は私どころか、原作のきらりん☆にすら遠く及ばない。それがなぜだかわかるか?」


 突き破った壁に手をついて、ゆらりん♪が顔をのぞかせていた。


「私たち魔法少女は、精神エネルギーを媒体ばいたいにして、杖に内蔵ないぞうされた術式を発動する。それはつまり、想いの強さがそのまま魔術の強さに直結するのだ。貴様のように熱い想いをもたぬ者など、福神ふくじんけのないカレー程度の存在よ。何度ぶつかり合おうとも、貴様が私を超えることなどありはしない」


 ゆらりん♪は杖を両手で構え、となえる。


SOUNDサウンド CONNECTコネクト、シールモード」


 ゆらりん♪の手にある斧が形状を変える。


 大きく広がっていた刃に当たる部分が折り畳まれ、からトリガーとグリップが突き出し、先端に射出口が生まれる。


 ポンプアクションにより弾を装填そうてんするその形状はショットガンに似ていた。


 ゆらりん♪はそれを水平に持ち上げ、射出口を真っすぐに俺へと向ける。


「目的のひとつを果たさせてもらう」


 隕石魔人に狙われた時と同じ。


 銃口に赤黒い魔力が集まっていくのが分かる。


 寝転がったままで、俺はSTARスター LIGHTライトをゆらりん♪に向けた。


「シール……モード」


『――受理じゅりできません』


 STARスター LIGHTライトは俺の命令を無視して、シールモードどころか、スタンバイモードの杖へと形状を変えてしまう。


「……どう、して?」


万全ばんぜんの状態でないマスターに勝ち目はありません。撤退てったい推奨すいしょうします』


「逃がすわけないだろ?」


 ゆらりん♪が引き金を引いた。


SOUNDサウンド CONNECTコネクト SHOTショット


 瞬間、轟音ごうおんほとばしる光に包まれた。 


 直感的に、死ぬんだと、思った。


 思わずひとみを閉じるが、その衝撃は――いつまでたっても俺には届かない。


 しかし、その轟音と、瞼の裏にまで届く光はまだ続いている。


 何が起きている?


 薄く瞼を開くと、俺の前には、


STARスター LIGHTライト?」


 STARスター LIGHTライトが宙に浮いて、俺を守るように魔法陣を展開していた。


 しかし、その姿が劣勢れっせいなのは一目でわかった。


 STARスター LIGHTライトの展開する魔法陣は光の衝撃をはじいているけれど、その節々ふしぶしが削られているし、STARスター LIGHTライト本体にも音を立ててヒビが広がっていく。


 不甲斐ふがいない俺を、STARスター LIGHTライトかばってくれていた。


 そんな痛々しい姿をさらしていたのに、永遠にも思える圧倒的な光の衝撃波しょうげきはを受けていたのに、STARスター LIGHTライトはそれを最後まで耐えきった。


 光が収束し、瓦礫がれきにまみれた視界が戻ってくる。


「私のフルパワーを耐えきるとは……まったくあるじ想いの良い杖だが、限界だ」


 目を伏せるゆらりん♪と俺の間で、




 STARスター LIGHTライトは、役目を終えた様に、音を立ててくずれた。




「次は受けきれまい」


 ゆらりん♪はシリンダーの一部を大きく前後へ動かし、弾丸をさい装填そうてんする。


 銃口を再び俺に向け――


「それ以上の追い打ちは、魔術師としてのかくを落とすよ?」


 薄れる視界の中で、手を広げるアクアの後ろ姿が見えた。


 それは安堵あんどからだったのか、体の限界を迎えたからなのか。


 俺の意識は、沼に沈むように途切れた。

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