第22話 飛行モード


 呪文と共に、俺の視界は白く塗りつぶされた。


 前に変身した時と同じだ。


 体全体や、心までもが侵食される。


 目を開くと、俺はきらりん☆に変身できていた。


 宝石状態だったSTARスター LIGHTライトも杖状に戻っているし、さっきまで走って疲れていたとは思えないほど体が軽く感じる。


「そこの魔法少女! 止まれ!!」


 俺の大声に、黒い魔法少女は顔を上げた。


 しかし、それは一瞬のことだった。


 黒い魔法少女は小首を傾げ、視線をしずくへと戻す。


「俺なんて眼中にないのかよ!」


 当たり前だけれど、四階建ての校舎から地上まではかなりの高低差だった。おまけに地面はコンクリートで、この高さから普通の人間が落ちたのなら、間違いなくあの世行きだろう。


 屋上からでは距離が遠すぎる。


『飛べますよ。マスター』


 くやしがる俺を見かねたのか、STARスター LIGHTライトが話しかけてきた。


「マジか! 早速頼む!」


 俺の言葉を聞き入れたSTARスター LIGHTライトが発光して変形し始めた。


 星の後部の角が半回転するように開き、その穴からバーニアとスラスタが生えた。星の部分にはエンジンのような機構が生み出され、回転数を上げていく。耳鳴りのように甲高い音が出力を上げていることを知らせてくる。


『飛行モード、変形完了です』


「ありがと。……でも、思ったより機械的なんだな?」


 俺のそんな感想をよそに、STARスター LIGHTライトは言葉を続ける。


『マスター、安全確保のため、シートベルトを着用下さい』


「ちょっと待って、シートベルトってどこに――」


FIREファイア


 俺の言葉は、最後まで続かなかった。


 すでに俺の視界は上空にあった。


 爆発的な推進力で、一気に上空へと飛び出したらしい。


 その速さは非人道的で、制御も何もあったものではなかったし、そもそも、俺はSTARスター LIGHTライトから手を離さないだけで精いっぱいだった。STARスター LIGHTライトはデタラメな速度で中空を飛び回り、おかげで目がぐるんぐるん回る。


 それはまるで、かじの取れないロケットだ。


『飛ぶのが苦手ですみません』


 前言ぜんげん撤回てっかい


 コイツもポンコツじゃねぇか!


「そういううのはぁあああ――先に言えぇえええええええええええ~~~~~~~~っ!! って、おいっ!? なんか地面に向かってねぇかっ!?」


 飛ぶ速度をそのままにSTARスター LIGHTライトの先端が地面に向かっている。


『衝撃に備えてください』


「うっそだろぉおおおおおっ!?」


 ぶつかると確信した瞬間、ぞわりと鳥肌が立つ。


 何も考えられなくなった、というのが正しいかもしれない。


 景色けしきを見ている余裕なんてまるでなかったし、思い切り目をつむっていた。


「どいてぇえくれえぇぇぇえええええ――っ!!」


 何もできないのだから、どうにでもなれと思うしかなかった。


 受け身もへったくれもない。


 それはあっという間で、自分が地面に着いたのだと知ったのは、恐ろしい衝撃が体の芯に響いたからだ。地面に激突しても衝撃は消えず、そのまま俺の体は跳ね飛んで転がった。


 気づいた時にはうつ伏せに倒れていて、頭がくらくらした。


 しかし、それでも俺の体に痛みはなかった。


 魔法少女の体は、普通の体よりもかなり丈夫にできているらしい。


 ……こんなことなら、素直に屋上から飛び降りた方が良かったんじゃないだろうか?


 俺はふるえる足でなんとか立ち上がろうとするが、


「生まれたての小鹿こじか真似まねか? やはり、きらりん☆は空を飛ぶのが苦手な落ちこぼれだな?」


 やれやれと笑う黒い魔法少女に、俺はSTARスター LIGHTライトを向ける。


「お前は何者だっ!」


「くっくっく!」


 高笑いする魔法少女は、


「私はマジカルゆらりん♪だ。私は貴様に言いたいことがあるっ!」


 俺を指さして口を荒げる。


「まず一つ目! なんだそのガニ股の姿勢はっ!? もっと内股で女の子らしくしろ!!」


 俺は腰を落とした自分の体勢に気づく。


 確かに、魔法少女っぽくない気がする。


「さらに二つ目! なんだその喋り方は!? きらりん☆は可愛らしさを凝縮ぎょうしゅくして生まれたような小学六年生の女の子だぞ! 俺なんて言葉は口が裂けても言わん! そして三つ目! 本物のきらりん☆はもっと優しくて純粋で清楚せいそで可憐だったぞ!? 無駄に飛び回りおって! パンツ見えてんだぞバーカ! 丸見えだぞバーカ!」


 思わずスカートのすそを押さえる。


 ……ぐ、ぐうの音も出ない。


「そして、何よりも貴様に足りないモノがある! それは何があっても諦めない心だ! 貴様からはきらりん☆の熱い魂を感じられん! 貴様はただ見た目を真似したに過ぎない!」


 ゆらりん♪は大きく口を開き、青空に向かって言い放つ。




「貴様は、魔法少女マジカルきらりん☆失格だっ!!」


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