第21話 もう一人の魔法少女


 俺達は瀧本たきもとを早く見つけるために、校舎内を分担して探すことにした。


 瀧本を探しながら校舎を走り回って、もう十分は経ったと思う。


 誰もいない廊下を歩いていたら目立ってしまうし、それは瀧本も同じはずだ。なら、授業時間中にいても怪しまれない場所に瀧本はいるに違いない。


 俺はそう考えて、屋上への扉を開けた。


 うちの学校の屋上はいつでも解放されている。


 その理由は、自治体の推進する緑化計画の一環で、園芸部が管理する農園があるからだ。入学式の時に、つるっぱげの校長がはな高々たかだかに話していたのを覚えている。


 屋上は背の高いフェンスに囲まれていて、中央に畑が広がっていた。


 周りを見回すが、瀧本の姿はない。


 小ぶりのトマトやきゅうりの横を通り過ぎながら、もう瀧本は学校にいないのかも知れないと思い始めていた。考えてみれば、あんな嫌がらせを受けて校舎にとどまる必要なんてない。もしかすると、俺は余計な真似まねをしたのかも知れない。


 俺はフェンスを背に座り込んだ。


 空は青く、積乱雲せきらんうんと横並びになった太陽は眩しいぐらいに輝いている。日向ひなたのアスファルトは温かく、ズボン越しにも熱を感じる。走って上気した胸が空気を求めて上下している。


 授業をサボるのは、アクアと喫茶店きっさてんに行った日と合わせて、これで二度目だった。


 それはやはり、サボるという行為が悪い事だからだ。


 真面目に生きて、誰にも迷惑をかけないのが正しい生き方なのだと思っていた。でも、そんなのは小さな、一つの選択肢に過ぎないのかも知れない。ここで空を見上げていると、どこか清々しくて、他の選択肢が見えてくるような気がした。


 しかし、心地よい感覚に反して、それは納得いかなかった。


 こうしている訳にはいかない。


 これだけ瀧本を探せば十分かも知れない。自分ひとりなら続けて探したかも知れないけれど、しずくも巻き込んで、このまま授業をサボる訳にはいかない。雫に連絡しようと考えた所で、まだ雫と携帯の番号を交換していないことに気付く。


「こっからは雫を探すか」


 つぶやいて起き上がった時、校舎裏で何かが光った。


 振り返り、フェンスの網目から視線を覗かせる。


 校舎裏の小さな空間で、雫が倒れている。


 そんな雫の前には、


「魔法少女っ!?」


 そこにいたのは、漆黒しっこくのマントを羽織った魔法少女だった。


 彼女はきらりん☆に負けず劣らずの少女で、由緒ゆいしょ正しい魔女特有の黒いとんがり帽をかぶり、スカートもブーツも黒色。全身黒で統一されたその姿で、とんがり帽から伸びる印象的な紅色の長髪を黒色のリボンで一纏ひとまとめにしていた。その手に持つ杖の先にも、髪の色と同じ紅色が、音符型の宝石として輝いている。


 黒い魔法少女は、俺が見つめている間にも雫に迫っていく。


 ……雫が、襲われてるのか?


 俺は胸ポケットから宝石状態のSTARスター LIGHTライトを取り出し――そこで固まった。


 どうすれば、きらりん☆に変身できるのかわからねぇ!


『お困りですか?』


 突然、抑揚よくようのない電子音声が聞こえて驚く。


 俺は声の主へと視線を向けた。


 声がした俺の右手の中で、星型の宝石が太陽光を反射して輝いている。


『変身パスワードは〝マジカル輝くミラクルるん! 魔法少女にな~~れ♪〟です』


「お前、喋れたのか?」


 宝石が喋ることを受け入れられるぐらいには、俺は魔術に慣れたらしい。


 自分の順応性の高さにビビるぜ。


『隠しているつもりはなかったのですが、私のエネルギーげんはマスターの精神エネルギーであり、私の動作には少なからず魔力消費がともないますので、口をつぐんでおりました。黙っていて申し訳ありません』


「いや、こっちこそ、ありがとな」


 丁寧な物腰に素直な礼が漏れる。


 アクアなんて胡散うさん臭い魔術師よりも、百倍ぐらい役に立ちそうだ。


「それより、その呪文、恥ずかしいんだけど。他でなんとかならねぇのか?」


『強制解除も可能ですが、その場合はアクア様の魔術を破壊する方式となりますので、現状の見た目には戻れなくなりますが、よろしいですか?』


「そ、それは困る! ……時間もねぇし仕方ねぇか」


 こうなりゃヤケだ。


 俺は深呼吸を一回。


 大きく口を開く。


「マジカル輝くミラクルるん! 魔法少女にな~~れ♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます